「はいもしもし風祭です!……あ、お母さん?うん元気だよ!……ん?なに……?」


ちびっこコンビの九州旅行!


「……で、よかったわけ?俺まで一緒についてきて。」
 博多行きの飛行機はどこから乗るのかな、あっちかな?ときょろきょろしていた将は、その言葉に目を丸くして振り向いた。
「久々の家族水入らずだろ?」
 赤茶の髪にジャニーズ顔。小さな体に大きなスポーツバッグを背負った翼は、腕を組んで立っていた。

 将の両親は九州に出張中である。たまには顔が見たいとの言葉に、選抜練習のない三日間の休みを九州で過ごすことにしたのだ。
「水入らずって言っても、お父さんたちは仕事があるから夕食くらいしか一緒にはならないし。功兄も忙しくて行けないって言うし、僕一人じゃつまんないから……」
 まぁ、最初に行くと言ったのも、同じ理由を聞いたからなのだが。それで真っ先に自分に電話をかけてくるあたり、可愛い奴じゃないか。満足気によしよしと頭をなでて歩き出した翼に、将は楽しそうに笑った。
「それに、いっつもお世話になってる先輩と一緒に行ってもいい?って聞いたら、お母さんたちもすごく喜んでたんですよ!」
「はいはい……。」
 この素直さは翼も大いに気に入っているところだが、あまりにも素直すぎて聞き流しでもしなければこっちが照れてしまいそうだ。
「はいはいって、翼さん聞いてます?」
 困った顔で覗き込んでくる将の額にチョップを入れて、翼はにやりと笑う。すぐそうやって意地悪して楽しんでるんだから、と額を押さえてむくれた将に、翼はあっさりと背を向けた。
「ほら、早くしないと飛行機遅れるよ。」
「あ、待って翼さん!!」
 待ってと言って待ってくれたためしのないマイペースな先輩の背中を追って、将も搭乗口へと向かった。



 と、いうわけで。
 やって来ました九州の玄関、福岡!福岡といえば博多!博多といえば、
「やっぱとんこつラーメンだよね。将、腹減ったしその辺歩いてみようよ!」
 両親の借りているアパートに荷物を置いて、財布と携帯だけ持って駅へ向かう。将の持ってきたガイドブックを二人で覗き込んで、どこへ行こうか作戦会議。
「ここのラーメン屋さんがおいしいって書いてあるけど、こっちの方が安そうですよね。」
「んー、とりあえずこっち方面に出てから考える?ここならラーメン屋は集中してるし、土産も買えそうだし。」
「え、翼さんもうお土産買うの?」
「めんどくさいことは初日に終わらせる。日程短くて拠点があるなら当然だろ?将は買わないの?後で慌てても付き合わないよ俺は。」
 しれっと言い切った翼は、もう、とふくれる将の頬をつついてけらけらと笑っている。ほんとにどこに行ってもマイペースな人なんだから。ため息をついて、しかし嫌な気分にはならず将は立ち上がった。
「わかりました!翼さんについて行きます。」
 忘れないように、お土産リストを財布に入れておいてよかった。
「翼さんはお土産何買うんですか?」
「んー?俺んちと玲んとこには明太子。飛葉のあいつらには饅頭とかテキトーに買って分けさせればいいだろ。」
 ひどい扱いだ。
「将は?」
 かわいそうな飛葉中メンバーに思いをはせていた将は、えっと、と視線を宙にさまよわせる。
「僕は何買うかはまだ決めてないんですけど……桜上水の皆と、功兄と、タッキーに小岩君。あと藤代君と渋沢キャプテンに頼まれてて……」
「多!!ていうか、藤代と渋沢?何であいつらが旅行のこと知ってんの?」
「ん、と。この前藤代君に休み中に遊びに行こうって誘われてー……」
 翼さんと九州旅行だ〜♪とうきうきと荷造りをしていたとき、藤代からメールが来た。三日も休みあるし、せっかくだから桜上水の奴らも誘って遊びに行こうぜ!というお誘いはとても魅力的だったけれど、すでにしっかり予定がある。
【ごめんね、僕休み中両親に会いに九州に行くから。翼さんも一緒なんだよ〜!】
【え、マジで!?ずりー!!じゃあ土産よろしくな、何かうまいもん!!あ、渋沢キャプテンが楽しんで来いよだって。つーわけで俺とキャプテンの分よろしく!!】
 というわけで、今に至る、と。
「……渋沢のだけ買えば?」
「そ、そういうわけにも……。」
 改札を出て振り返った翼の呆れ顔に、将も苦笑を返す。藤代も結構マイペースな性格だ。天真爛漫というのか、なんなのか。彼といい翼といい、天才は一味違うものらしい。
「ってことは、今頃藤代たちもどっかで遊んでんのかな?あいつ桜上水のメンバーとすごい馴染んでたし。」
 翼が駅の表示を見回しながら言うと、将は複雑そうにうなった。
「うー、ん。どうだろ……。」
 休日暇だーとぼやく藤代に気を遣って、何なら水野君に皆で遊べるか聞いてみようか?と送った。水野は桜上水のキャプテンだから全員に連絡が回せるし、藤代とも選抜で知り合いである。
「でも、返信に、『ううんいいー水野ってサッカー以外だと何かめんどくさそうだし。また遊ぼうなー!』って……」
「ぶふっ!!」
 悪気なしの爽やかさが藤代らしくて、かなりおもしろい。お腹を抱えて笑う翼に、将はそんなに笑わなくても、と苦笑気味。それでもはっきり否定できないのは、確かにそうかも、なんて思ってしまう自分がいるからである。
「はー、さすが藤代、よく見てんじゃん!」
 少し怒りっぽい我らが10番が聞いたらどんな顔をするだろうと苦笑して、将は涙を拭っている翼の手を引いて街に飛び出した。


 一日目は、買い物や食べ歩きで終了。二日目の朝早く起きだした二人は、食卓で今日は何をしようか考え中。
「せっかく九州まで来たんだし、こっちじゃなきゃできないことしたいけどさ。」
 観光スポットは山ほどある。しかし二人揃ってサッカーバカなので、
「……どっか、フットサル場でもないかな?」
 結局はサッカーに辿り着いてしまうのだった。
 ガイドブックには遊園地や食事処は載っていても、フットサル場なんて載っていない。今更遊園地なんて気分ではなくなっているし、どうしようとため息をついた二人に、
「……電車で少しかかるが、そういうところがあると聞いたことがあるぞ。」
 それまで新聞を読みふけっていた将の父が、突然口を開いた。まるで政治の話でもしているような仏頂面は相変わらずだけれど、将が意気込んで身を乗り出す。
「ほんと!?お父さん、場所詳しくわかる?教えて!!」
「う、うむ……今地図を書くから、少し待っていなさい。」
 難しい顔のままいそいそとメモ帳にペンを走らせる姿に、翼はくすっと笑った。
    何だ、将ってば結構愛されてんじゃん?
 きっとこちらで退屈を持て余すだろう息子のために、事前に調べてくれたのだろう。皿を並べながら苦笑している将の母を見れば、一目瞭然。顔は怖いし口調はいかめしいけど、いいお父さんじゃないか。
 地図を得て嬉しそうに笑っている将と両手でタッチして、朝食のため手を合わせた。


「あれ……翼さん、さっきの角の向こうに、サッカーグラウンド見えませんでした?」
 お弁当を作ってもらって、コンビニで飲み物やお菓子を買って。ふらふらと寄り道しながら歩いていると、将が後ろをふり返って言った。地図によると、フットサル場はこのまままっすぐ。
 気のせいかな、と首をかしげる将を見て、翼も思案するように宙を見上げた。土地勘のない場所で地図から逸れるのはあまり好ましいことじゃない。
    でもこいつ、結構目端きくからなぁ。
 どうせ確たる予定があるわけじゃない。山の中じゃあるまいし、迷えば携帯だって使えるのだ。
「よし、将行くよ!」

「お、やってるやってる……ありゃ。」
 ピッ、ピッ、ピー!とホイッスル。試合終了の合図だ。選手たちが整列をして、きっちり揃って挨拶をする。
「うわ、すごい大きい人ばっかりですね。高校生?」
「かもね。何食ったらあんなにデカくなるわけ?なんか体育会系〜!ってかんじ。坊主多いし、あの暑苦しさは真似できないな。」
「もう、翼さんっ!」
 少しの間そのまま眺めていたけれど、どうやら試合はこれで終わりらしかった。もう少し早く着いていれば、いいものが見られたかもしれないのに。
「どっちが勝ったんでしょうね……」
 名残惜しげに立ったままの将に行くよと声をかけて、翼はもう一度地図を取り出した。


 フットサル場はそこそこにぎわって、大人から小学生チームまで幅広く集まっていた。人数の足りないチームもとくになさそうだし、しばらくは遠目で彼らの実力を観察。
「あ、うわ、すごい!あんな風に切り抜けるんだ……!!」
 はしゃいでいる将の横で、翼は無言である。
    まぁ、こんなもんだよね。
 見たところ、大人連中はサッカーはただの趣味、または学生時代に部活か何かでちょっとかじった程度。学生はおそらく、サッカー部在籍でサッカー好きだがレギュラーにはなれないくらい。
 ちら、と見ると、将は楽しげに目を輝かせている。
    正直言って、こいつらよりは将の方が「すごい」んだけど。
 気付いてないんだろうなぁ。やれやれと笑ったとき、視界の端に黒と赤のユニフォームが映った。



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