*現パロで政宗様が女子高生ですやっちまったな!
 苦手な方は全速力で回避お願いします。そしてまた小←政。


Midnight Lover ....Wednesday1


 好きな人がいるんだ。
 何気なさを装って、その実かなりどきどきしながらそうつぶやいた政宗に、佐助はぶっほぉと飲んでいたジュースを噴き出した。正面に座っていた真田の顔面へ。
「きっ、汚いぞ佐助ぇええええ!!!」
「ごごごごめん旦那!これタオル、顔洗ってきなよ!」
 佐助の馬鹿者〜!と泣きながら走り去る幼馴染を放っておいて(この辺りに佐助の動揺の深さが窺い知れるというものだ)佐助は政宗に向き直った。
 伊達政宗。猫のように大きなつり目とツンと通った鼻筋がいかにも気の強そう、そして実際それはもう気が強いアネゴ肌。右目の眼帯がミステリアスな、この学校で一二を争う美少女と評判の彼女が、恋。
 佐助と政宗は中学以来の友人で、政宗の家庭の事情や佐助の女関係など、互いに言いづらいことも大体把握しているほどくだけた付き合いだ。その佐助にとってみても、政宗の口からそんな言葉を聞いたのは初めてのことである。
「えっと、それだぁれ?とか、聞いちゃっていい?」
 そんなつぶやきが出るのは話したいからだとわかりきってはいるのだが、思わず下手に出てしまったり。
 もしかして自分の知っている人?まさか幸村や慶次なんて言われたらどうしよう!?前代未聞の事態にバクバクする佐助の心臓を知ってか知らずか、政宗は少し照れたように目を細めた。
「毎週水曜日に、さ。そいつ、俺んちの前を通るんだ。」

 最初にその存在に気付いたのは、三ヶ月ほど前。高校入学と同時に始めた一人暮らしにすっかり慣れて、自由を満喫する反面の人恋しさに、ただぼんやりと窓の外を眺めていた深夜のこと。
 住宅街へ伸びていくその道は当然人通りも絶えて久しい。だからこそ、その人に気付いたのだろう。
「パッと見は別に何てことない、フツーのリーマンって格好でさ。多分帰宅ラッシュとかに紛れてたら気にもしなかったと思うんだけど。」
 右手に鞄、左の小脇に書類をいくつか挟んで、厳しい顔で携帯電話を耳に当てている。時折うなずいて、小さな口の動きで何か話しているから、きっと忙しい仕事をしているのだろう。こんな時間まで大変なことだ。
 マンションの前を通り過ぎていく姿を目で追って、カーテンを閉めた。結構いい男だったな、背も高かったし。顔に傷があったけど、ヤーさんだったらどうしよう。似合いすぎててちょっとおもしろい。
 ただそれだけだった。けれど何となく、その日から寝る前に外を眺めるのが習慣になった。時間帯が合わないのか別の手段で通勤しているのか、その人を見かけるのは決まって水曜の深夜。
 抱える書類が増えたり減ったり、キビキビと歩いているときもあればやつれた様子のときもあり、そんなときが続くとものすごく不機嫌そうな、はっきり言えば鬼も慄く恐ろしい顔になっていたり。
 悪趣味だとわかっていてもやめられなくて、そうこうしていたらいつの間にか好きになってしまっていた。
 話もしたことがない、名前も知らない、素性もわからない人を。


 雨が降り出した。それも結構な勢いで。
 今日は水曜、時刻はまだ21時を回ったところ。お風呂が沸くまで紅茶を飲んで休憩しながら、佐助の反応を思い出して少し笑う。
 隣のクラスのかすが(佐助とはかすが曰く腐れ縁なのだとか)から「スケコマシ」だの「女にだらしない最低男」だの散々に言われるほど経験豊富なだけあって、政宗の気持ちを否定はしないが不安でもあるといった表情で。
『とにかく、短慮で危ない橋渡ったりしちゃダメだよ!』
 冷静に見えてその実幸村と張るほど直情型の政宗をよく知る佐助は、何度も何度もそう繰り返した。当たり前だ、相手がヤーさんの可能性もあるような人なのだから。それでなくとも何も知らない。手放しでぶつかる危険性は政宗にだってよくわかっている。
    別に、どうこうなりたいとか思ってるわけじゃねぇんだ。
 今まで周りにいなかった、ちょっと危険なニオイのする大人の男。ただ眺めて、あぁ今日は元気そうだ、珍しくシャツがよれてるな、あのネクタイ初めて見たぞ、そんな風に思うだけで楽しい。
 ほんのちょっと、この足の裏が少し浮いたようなふわついた気持ちを誰かに、話してみたくなっただけで。
「……あ、メールボックス!」
 もうすぐお風呂が沸きます、電子音でのお知らせを聞いた瞬間に、エントランスの郵便受けをチェックし忘れたことに気が付いた。
 一日くらい別にいいか。そう思って入浴の準備を済ませるも、やっぱり気になる。セキュリティはしっかりしているマンションとは言っても、このご時勢何があるかわからないのだ。

 結局仕方なしに、エントランスへ下りてきた。郵便受けの中にはいくつかの封筒、でも全部ダイレクトメールだ。お気に入りのブランドショップからセールのお知らせ、あとは特別見る価値もない。
 ちっと舌を鳴らしてエレベーターへ戻る。その足を止めたのは、

 認証コード付のガラス扉の外、屋根の下に佇む男。背が高い、広い背中、でも全身ぐっしょり濡れている。
 ドサドサと降る大粒の雨を忌々しげに見上げている左頬には、傷が。

 頭の片隅で声がする。
『とにかく、短慮で危ない橋渡ったりしちゃダメだよ!』
 そんなの、何の足止めにもならなかった。


「あ、あの!」
 振り向いた男は、政宗を見てきょとんと目を丸くした。
「雨宿り、してんの?傘ないのか?」
「……あ、あぁ、急に降られて。すまない、怪しい者じゃないんだ。」
 困った顔で少し頭を下げられる。そこでようやくはっと我に返って、政宗はぱっと顔を赤くした。
「ち、違うんだ!別に変な奴とか思ったわけじゃないし、問い詰めるつもりもなくて!」
 ぶんぶんと手を振って否定すると、男はますます不思議そうに首を傾げる。それはそうだ、自分のマンションの前に佇む見ず知らずの相手に声をかけるのに、変態扱い以外で何の用があるというのだろう。
 彼の思考が読めるからこそ、余計に混乱していく政宗の思考回路はぐちゃぐちゃ。ただもう目の前の髪から服から滴るほど濡れそぼった想い人の姿だけが焼きついて、思わずその腕を引いていた。
「おい!?」
「タオル貸してやる、あと傘も!今持ってくるから、中にいろよ。外より少しはマシだから」
「何言って……こら、待て!」
「いいから!そこにいろよ、絶対だぞ!」
 唖然としている男をエントランスまで引きずり入れて、政宗はダッシュでエレベーターに飛び乗り、部屋に戻るとバスタオルと傘を引っ掴んでまた下りていく。その間五分と経っていない。
 男はまだそこにいた。ガラス扉に半ば張り付くようにして呆然としている彼を乱暴にタオルで包んで拭けば、さすがに慌てて体を押し返される。
「こら、やめなさい!」
 タオルから顔を出した彼は、訝しげに眉間を寄せて政宗を眺めた。
「……気遣いは有難いが、何なんだお前は。まさか知り合いじゃねぇよな?」
「えっ?あ、う、うん。」
 こくこくうなずいたら、それはもうものすご〜く、今まで聞いたことのないほど深いため息が。それに再びパニックを起こした政宗は、
「あっ、でもおれはアンタのこと知ってんだ!よく遅く帰ってるだろ、窓から見えるんだ!」
 言ってしまった。ぎょっと固まる男を見て、政宗の顔がさぁっと青ざめる。
「あ、違うあの、ストーカーしてたわけじゃなくて、おれの部屋ってそこの、道路に面して窓があるから、四階なんだけどさ!眠れなくてぼんやり外見てたら偶々、そんだけ、でもアンタ目立つから、なんか、あの…………」
 あの、その、だから。二の句が告げない、どう言っても怪しい。
    Shit!!おれの馬鹿、何で余計なこと言っちゃうんだよ!!
 泣きそうに俯いて黙り込んでしまった政宗に、男はまた一つため息をついた。びくり、政宗の肩が揺れる。
 絶対呆れられた、気持ち悪い女だって思われた。第一印象最悪どころか、これじゃもうこっそり見つめることすらできない。脳内の佐助が言う、『だから言ったでしょー?』やれやれと顔を覆う友人の姿まで浮かんで。

 思考はそこで途切れた。
 なぜならポフポフと優しく、目の前の男に頭を撫でられたから。
「俺が言いてぇのはそんなことじゃねぇよ。知り合いでもない男を中に入れたりしちゃ、セキュリティの意味がねぇだろ?自分の部屋のある場所も、そんな簡単に教えるな。お嬢ちゃんみたいに可愛い子、怖い目に遭ったらどうする?」
 もっと用心しろよ、駄目だぞ、なんて。まるで兄のように優しく諭された後、
「タオルありがとう。お嬢ちゃんは優しい子だな」
 はにかんだ微笑みを向けられて。


 そんな顔、初めて見た。ねぇいつも、他の誰かにもそうやって優しいの?まだ知らない顔、もっとたくさん持ってるの?気になって気になって、たまらない。
    見てるだけでいいなんて、嘘。
 傘は受け取らないまま手を振った彼の、雨の中を走り去る背中が消えて、込み上げる何かにぼろぼろと涙が零れた。
 もっともっと知りたい。
 だってこんなにも、あなたのことが好きだから。




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