*やっちまったシリーズ後編。現パロ女子高生むねさま。


Midnight Lover .... Wednesday2


 一週間後の水曜日、政宗は佐助に連れられて、佐助のバイト先である喫茶店『毘沙門』にいた。
「で、何があったわけ?今日こそ絶対話してもらうから!」
 木曜日の朝、真っ赤に目を腫らせた政宗の顔を見てから、ずっと落ち込んだ様子の友人を心配はしていたのだけれど。生活のためにほぼフルで詰め込んだバイトと世話のかかる幼馴染のおかげで、ろくに落ち着いて話もできない日々が続いていた。
 水曜はバイトがオフで、更には真田が部活でいない。唯一自由なこの時間、佐助は普段ふらりと一人でどこかへ消えてしまうのだが、わざわざ学生の立ち寄らないこの店を選んで自ら奥の席を陣取った辺り、余程気にしていたらしい。
 鼻息荒く身を乗り出す佐助に若干気圧されながらも、政宗は目を伏せて、先週の出会いについてぽそぽそと語り出した。

 聞き終わって、とりあえず佐助が言えたことといえば、
「……あー、それは、あちゃーとしか言いようがない……」
 という何とも意味のない、しかし万感のこもった一言のみであった。
 なんて浅慮な行動をしたのかとたしなめるにも、想い人直々にそれはなされているわけで。物慣れないからこその失敗なのだから、しょんぼりしている政宗にこれ以上鞭打つのも気が引ける。佐助は額を覆って宙を仰いだ。
「うん、まぁ、何て言うか。案外いい人そうで、とりあえずはよかったね?」
 依然素性はわかんないままだけど。ついでに筋金入りの本職さんは堅気に迷惑かけないのが信条だっていうけど。あははは。
 フォローは見事に空回り。最早乾いた笑いしか出ない佐助に、政宗は更に沈んだ顔で紅茶のカップを握り、カウンターから店主の柔和でありつつ凍るように冷たい微笑が向けられた。

 別にいいんだ。どうせもう会えない。最後に頭を優しく撫でてくれた、それで十分嬉しかったもの。
 夜はバーになる『毘沙門』でそのまま夕食をご馳走してもらって(性別不詳な美貌の店主が「これはあなたのおきゅうりょうからてんびきいたしますよ」と佐助に微笑んだのを政宗は知らない)駅前のゲームセンターで心行くまでゾンビを撃って、佐助と別れたのは20時過ぎ。
 水曜日に遊びに出るなんて、随分久しぶりだった。悲しいことに、まだ無意識に足を急がせている自分がいる。そんなこと、したって何の意味もないのに。
「……もうちょっと、遊んでくればよかった」
 無理を承知で呟きたくなるくらい、寂しい気持ちだった。真田と佐助は下宿先の道場主に門限を定められている。常々「未成年が遅くまで働くものではない!とかうるさいんだよねー」とぼやいているから、今日はむしろ随分と付き合ってくれたと思う。
 政宗が帰ると言わなければ、おそらくまだ一緒に遊んでくれただろう。佐助はそういう奴だ。だからこそ政宗は自分から駅へと向かったのだ。
 それでも、マンションが近付くにつれ足取りは重くなり。
    かすが、出てこねぇか。慶次なら……でもあいつ面倒なんだよな。
 頭の中でアドレス帳を順にめくる。お祭り男・慶次を筆頭に、騒ぎたいならいくらか候補は見つかったものの、結局連絡をとる気にはなれなかった。
 ほんとうに会いたいのは、たった一人。
「おい。どうした、大丈夫か?」


 あぁ今なら心から言える、神様ってほんとにいる!
 いつの間にかマンションの前。そこには今日も高級そうなコートとスーツが隙のない、オールバックに頬傷のひと。周りも見えないほどにトボトボ歩いていた政宗を心配して、少し首を傾げている。
 どうしてここに?もしかして待ってた?なんで?どうして?もう会えないと思ってたのに!
「忙しくてなかなか来られなかったんだが、今日は珍しく定時だったから、ちょっと待たせてもらってた。遅くなって悪い、借りたタオルの礼がしたくて。」
 差し出されたのは百貨店の紙袋と小さなブーケ。
「タオルが汚れたから、新しい物を選んできた。それだけじゃ何だと思ってチョコレートと、まぁ、花だ。一応店員に相談はしたんだが、趣味じゃなかったらすまない」
 紙袋の中には、一目で上質だとわかる柔らかそうな青いバスタオルと、高級ショコラティエのボックス。ブーケは黄色で愛らしく統一され、置いて飾れるように籠に入っている。確かに苦心して選んだのだろう雰囲気だ。
「最初は果物にしようかと思ったんだが、姉貴にチョコレートの方が腐らないし、好みじゃなかったら友達に分けられるしいいだろうって言われてな。あとは、この前、青いパーカーを着てたから。店員に色々聞かれて、多分青が好きだと思うって言ったら勧められたやつだ。花は玄関とかに飾ってくれ、黄色と青は華やかなんだそうだ。」
 ぽかんとしている政宗に、言い訳するように捲し立てた男は、とうとう困った顔で口を噤んだ。
 彼は男前だけれど、それは硬派で刀のような鋭さを併せ持つもので、あまりこういったプレゼントをし慣れた風には見えない。だとすれば女性の好むショップへ飛び込み、あまつさえ花まで携えてここで政宗を待つことが、どれだけ恥ずかしかったことだろう。
 そこまでして、たった一枚のタオルの礼をしに来てくれた。それは少なくともそうして政宗を喜ばせたいと思う、そのくらいの好意は感じてくれているということ?
 驚きの連続に少しずつ頭が追いついてきたら、弱りきった男が頬の傷を撫でて言葉を探すのを見上げたまま、
「!?お、おい!?どうした、そんなに嫌だったのか!?」
 ふぇえんとか、まるきり子どもな声を上げて、政宗は泣き出してしまったのだった。

 青、だいすきなんだ。いちばんすきな色。だから嬉しい。花も可愛い、嬉しい。チョコもだいすき、誰にもあげないで大事に食べる。すっごく嬉しい、ありがとう。
 たどたどしく言いながらプレゼントをぎゅうと抱きしめている政宗の様子に苦笑しつつも、男は優しい瞳で頭を撫でて、大人の香りのするハンカチで涙を拭ってくれた。
「ねぇ、なまえ、なんてゆうの?」
 グズグズの鼻声で訊ねると、
「そういやまだ名乗ってなかったか。片倉小十郎だ、よろしくな。」
「かたくらさん」
「小十郎でいいよ、その方が慣れてる。」
 ぱちぱち。思いがけない言葉に濡れたまつげを瞬かせた政宗は、
「…………こじゅうろ、さん?」
 上目遣いに小さく呼んで、ぽぽっと頬を赤くした。その反応に、思わず小十郎の手も止まる。
「……あー、そうだな。うん。いい子だ」
 若干ぎくしゃくした意味不明の相槌にも、政宗は嬉しそうに笑った。
「おれ、伊達政宗。政宗って呼んで。今高校一年生、九月生まれのおとめ座でB型!」
「なんだ急に元気だな。そうか、政宗は高一か。若ぇなぁ」
 猫がじゃれつくような快活な自己紹介に、小十郎はうんうんとうなずきながらまた政宗の頭を撫でる。エントランスへ続く壁に凭れた彼の隣で、政宗は身を乗り出して興味津々。
「小十郎、さんは、いくつ?仕事は何してんの?やくざ?」
「やくざじゃねぇよ、弁護士!まだ事務所じゃ一番新米だけどな。年は26、まぁおっさんだな」
 ビシッとデコピンをされた額を手で覆いながら、へぇ〜と政宗は素直に驚いた。半ば本気でやくざさんだと思っていたのに(ここに佐助がいれば、やくざ屋さんの顧問弁護士である可能性を疑っただろうけれども)。
「でもさ、26歳って全然おっさんじゃないよ?おれ、そのくらい大人な人の方がかっこいいと思うし」
「馬鹿言え、十歳も離れてちゃ犯罪みたいなもんだろ。」
 あっさりと返された言葉に、政宗はえっと目を瞠った。
    ハンザイ?って、犯罪!?
「そ、そんなことねぇよ!だっておれの友達も大人の男の人が好きって言ってる子多いし、もっと年上の人と付き合ってる子だっている!!」
「あぁ……?いや、うん。そうだな。すまん、俺の言い方が悪かった。」
 噛みつくような勢いに思わず両手を挙げて謝罪した小十郎は、視界に入った腕時計にはっと我に返った。いつの間にか21時も随分回ってしまっている。未成年を寒空に拘束していい時間ではない。
「すまねぇな、礼を渡せたらいいと思ってたのに、つい話し込んじまった。早く部屋上がれ、しっかり風呂で体あっためるんだぞ?」
 先程までのどこか気安い雰囲気が一転、小十郎はあっという間に保護義務を全うする大人の顔だ。
「ゃ、やだ!何で……」
 突然思いきり距離ができてしまったようで、政宗の瞳が寂しさに揺れる。だって今さよならしたら、今度こそもう。
「あぁ、そうだ。」
 泣き出しそうに縋りかけた手をとって、渡されたもの。
「親御さんに叱られたら、これ見せて。俺からちゃんと謝るから、電話してもらえ。いいな?」
    遠藤法律事務所、片倉小十郎、電、話…………
 手のひらに収まる小さな紙には、小十郎の所属と身分、事務所の連絡先が書いてある。その裏に目の前で、小十郎の長い指がボールペンをスラスラ動かして、
「俺の携帯電話の番号だ。一応アドレスも。かかってきたらすぐ出るし、出られなかったときは後でかけ直すから。」
 どうやら小十郎は、政宗の表情を帰りが遅くなったことを親に叱られる不安と読み違えているらしかった。戸惑う政宗の頭を優しく撫でる彼の表情は、まるで過保護な兄のよう。
 そもそも政宗は一人暮らしだから、当然そんな心配は必要ない。そう言って名紙を返すべきだったのかもしれないけれど。
「ぁの、こじゅ……」
「大丈夫だ、ほら早く。ちゃんと飯食えよ、風邪引かねぇようにな」
 ぐいっと背を押し出され、それでも振り向くとにっこり笑って手を振る小十郎が、
「おやすみ、政宗。」
 じんわり沁みるように響く低音で、そんな魅惑の挨拶をしてくるから。

 とうとう言い出せず名紙を握ったまま、火照った頬を隠すように、駆け足で部屋まで帰ってしまった。
    どうしよう、どうしたらいいんだよ!?
 手に入れた彼へと繋がるホットライン。へたり込んで頭を抱える政宗がそれを活かすには、まだもう少し時間がかかりそうである。


にょたむねさま楽しいですうふふふ(キショっ!)
しかしあれですね、ストーカーむねさまですみませんほんとに。
小十郎は特に気にしてないみたいなんで許してくだs(タコ殴り)

余談ですが、小十郎って弁護士というより検察官っぽいと思います。何となく。