俺たちはお互いのこと、まだよく知らない。だって出会ったばかりだから。
だけど間違いない、俺たちは運命に定められた二人。俺は一目でそれがわかったし、小十郎だって俺のこと満更でもなく思ってるはずだ。見ただろあの甘い瞳をさ!
はぁ?勉強なんかどうでもいいよ。寝てたって解けんだよこんなもんはよ。でもまぁ、shyな小十郎が素直になれるように、二人きりになるにはいい口実だろ?
「なのに、何でてめーらがここにいんだよ!!!」


ジャイアン、八つ当たる!


 放課後になり、小十郎が来るまでに済ませようとトイレへ行った。帰ってきたら、既に小十郎が到着していて、誰かに聞いたのだろう政宗の席の前に座っていた。
 そこまではいい。
「おぉ、政宗殿!遅いでござる、師となる方をお待たせするとは何たる心得か!」
 問題は、その小十郎の隣の席に、さも当然と座っている真田幸村。
 心情としては、首根っこ引っ掴んで窓の外に投げてやりたいくらいだったが、ライバルと呼ぶ男に冷静さを欠いたところを見せるのは癪に障る。政宗は強いて落ち着きを装い、腕を組んで真田を睨めつけた。
「Hey、アンタの教室はここじゃねぇ、隣だ。わかったらさっさと帰りな、you see?」
「はぁ……それは某も存じておりますが、何か??」
 鈍いというか、天然というか。真田は政宗とは違った意味で我が道を行くタイプである。通じなかった嫌味の矛先は、
「うんほんとごめん!!ごめんなさい謝るから放電やめてお願い俺様まだ死にたくない話を聞いてぇえええ!!!」
 ほぼ同時期に隣家に生まれて以来、真田の幼馴染にして保護者を務める、苦労人・佐助に行くのであった。

 真田の偏差値的な意味でのおばかさん加減は、佐助はもとより政宗もよく知るところである。
 授業態度は至って真面目で、教師の言葉も至極素直に聞く。遅刻欠席早退は小学生の頃から一度もしたことがないと言うし、真田はそれはもう模範的な生徒だ。なぜそんなにも勉強ができないのか、誰もが不思議に思うくらいには。
 勉強はできるが極めて素行の悪い政宗と、勉強は極めてできないが素行は今時珍しいくらい良い真田。教師陣に「足して二で割らせてほしい」と涙を流させる二人は、正反対だが波長でも合うのか、お互いをライバルと呼び合い何かと競っている仲だった。
「だからね、俺様は考えたわけ。勉強もさ、ただ闇雲にがんばるんじゃなくて、ライバルに負けたくないって目標ができればきっといい結果が出るんじゃないかなって。」
「なるほどな……それで政宗サマに家庭教師がつくと教えたわけか。」
 幸村や政宗は校内でもかなりの有名人だったが、基本的に他人に興味の薄い小十郎は何も知らなかったらしい。ふんふんとうなずく彼に、真田が燃える瞳でずずいと近寄る。
「政宗殿がそこまで努力をされているのに、この幸村、黙っているわけには参りませぬ。某は政宗殿のように優秀ではござらん……しかし!努力をするということにおいて、政宗殿に劣っているとは断じて思いませぬ!!」
 背後に爆ぜる炎のオーラを纏った真田は、若干引け腰の小十郎にも構わず(ついでにそれを髪が逆立つほど放電して睨んでいる政宗も無視して)その手をがしっと掴んだ。
「片倉殿!某、決して邪魔は致しませぬ!!優秀な政宗殿のこと、指導の手が空くこともありましょう。そのときだけで構いませぬ故、どうか某にもご教授いただけませぬか!!」
「い、いやそれは」
「平に、平にお頼み申す!!どうか片倉殿、かたくらどのぉおおお!!!
「うるせぇ至近距離で叫ぶな!!てぇか暑苦しい離れろ!!」
片倉殿がうんと言ってくださるまで、某は何度でもぉおおおお!!!
「あーっわかった!わかったから離れろ、むさくるしい!!」
 抱きつかんばかりに迫る真田を力の限り押し返した小十郎は、珍しく髪を乱して佐助を振り向いた。
「おい猿飛、てめぇこいつを野放しにして何してやが…………」

 そこにはバチバチと青い雷を纏った政宗に顔を掴まれたまま、宙吊りにされている佐助が。

「さっ……猿飛ぃいいいい!!!こら政宗手を離せそれ以上やったら死ぬぞ、あぁっとそうじゃねぇかえーと何だほらいい子だから、構ってやるからこっち来い!!」
「こじゅうろー!Hug me please!!」
 途端に政宗は光速で小十郎の腕の中に飛び込む。ぺいっと床に捨てられた佐助に、真田が拳を握った。
「佐助ぇ!何をしておる、立て!お前はそれしきで倒れるほど弱き男ではないだろう、武田が修行を思い出せぇ!!」
てめぇもいい加減にしろぉおおおおお!!!
 あっちもこっちも我が道を行く人間に囲まれた小十郎は、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる政宗のおかげで佐助の安否を確認することもできず、既にロープ際ノックアウト寸前のぐったり状態だ。可哀相である。
 もっとも、一番可哀相なのは、結局未だに床に放置されたまま、真田の大声と熱い闘志に晒されている佐助に違いない。
 そしてもしかしたらある意味佐助よりも可哀相なのは、声をかけたくてもかけられず、なぜか乙女な瞳とポーズでずっと教室のドアの陰から政宗たちを見つめている、元親なのかもしれなかった。


next to 6

そんなアニキを見ちゃった通りすがりの一般生徒さんたちの方が、よっぽど可哀相だね!