Q:ジャイアン様、運命の彼と仲良くなるためには、どうしたらいいの?
A:とりあえずまずはそいつが逃げ出さないように、退路を塞げばいいんじゃね?
ジャイアン、虎の威を借りる!
「親父、話がある!」
どばーん!と思い切りよく社長室の扉を開いた政宗に、夕日を背負った社長席に座るダンディな人影がひゃっと飛び上がった。
「政宗様、扉はもっと静かに扱ってください。壊れたらお小遣いで弁償ですよ?」
傍らに書類を携えて立っていたこれまたダンディな微笑み紳士に諭されて、政宗はとりあえず悪い悪いと言っておいた。下心のある身としては、口だけ謝罪でも二人の機嫌を損ねない方がいい。
海外にも支店を持つ一部上場株式企業、奥州グループの総取締役。名を伊達輝宗、政宗の実の父。そしてその顧問弁護団を取り仕切る、国際弁護士資格所持の遠藤基信。
この二人が応と言って、叶わないことは一つもない。政宗が知る限り、まさに最強を誇るコンビである。
「まさむね〜〜〜っ久しぶりじゃないか!そろそろパパが恋しくなったろう、いつでも帰ってきていいんだぞっ」
「Ha、俺がそんな簡単に決めたことを覆す男だと思ってんのか?親父の子だぜ、んな柔な根性してねーよ」
「まさむねぇええええ立派だぞぉおおお!!!パパ感動だぞぉおおお!!!」
いつまでも幼少期と変わらぬ姿に見えているのか、政宗をぎゅむーっと抱きしめてぐりぐりと頬ずりをしている輝宗に、遠藤はにこにこと穏やかな顔のまま、
「おやおや困りましたね……書類の山が片付くまでは食事をとる暇もないというのに、油を売って。一体いつまで私を空腹にさせておけば気が済むんでしょうな、どこぞのバカ社長は」
「な、バカって言うなよ、私がんばってるよ!さては可愛い息子と和んでる私が羨ましいんだろう!」
「誰もあなたのことだとは言ってませんが、そう聞こえたなら申し訳ない。お詫び致しますからさっさと仕事してくださいバカ親社長。」
「ほら言ってるじゃん!今の確実私指してたじゃん!!」
不惑も過ぎた二人の紳士の大人気ないやりとりにも、政宗は動じない。このコンビはずっと昔からいつもこうなのだ。話に入るにはしばらく待った方がよさそうだと判断して、応接用のソファに座り込む。
出直せよとか、言ってはいけない。政宗の辞書にそんな言葉は存在しないのだ。
「政宗様、すみません。飲み物をお持ちしますので、暫くそこのダメ社長の仕事ぶりでも眺めてお待ちください」
「おぉ、そうだな!政宗、パパのかっこいいとこ見せてやるぞ!!」
結局、日が落ちてもまだこの調子で騒いでいるおっさんたちにブチ切れた政宗は、親子の縁という脅し文句をチラつかせ強引におねだりを成功させたのだった。
そういうわけで、一週間後の今、応接室ソファに片倉小十郎が座っている。
「遠藤先生……騙しましたね?」
「騙したとは穏やかじゃないね。仮にも私は弁護士だよ?そんなことするわけがないだろう」
「だって、家庭教師のバイトを頼みたいって言ったでしょう。」
「うん。だから、家庭教師だ。政宗様の」
「どこの世界に子どもと同じ高校生の家庭教師なんか雇う奴がいるんです」
「そこにいるじゃない。困ったおっさんが」
「一応言っときますけど現状俺にとっちゃ困った度じゃアンタも大して変わんねぇよ」
「ていうかお前らどういう関係なんだよ、何で遠藤が小十郎の隣?おかしくない?」
「伊達さんも、考え直した方がいいと思いますけど。家庭教師ならもっと、有名大に進学してる大学生とか、優秀な人材はいくらでも雇えるでしょう」
「いやーそうなんだけどねー?政宗がさ、同じ学校なら試験とかのこともわかるし、年が近い方が安心するって言うからさー」
「だったら俺より向いてそうな奴を紹介します」
「No!!小十郎じゃなきゃ意味ねんだよ、てかさっきの話聞いてた?」
「政宗もこう言ってるし、片倉君って学校でも優秀だって有名なんでしょう?遠藤の知り合いなら私としても安心だしねぇ」
「……あの、遠藤先生の知り合いなのは、俺がまだゾクやってた頃の関係ですから。全然安心できないと思うんですけど」
「あ、そうなの?だからそんなに顔怖いの。ほっぺの傷はやっぱあれ?シマ争い的な?」
「社長、Vシネの観過ぎですよ。」
はっはっは!
「Hey!さっきから何で俺だけ話に混ぜてくんねーんだよ小十郎!!」
笑い合うおっさん二人に頭を抱えて唸る小十郎であったが、それ以上に恨めしげな目つきで唸りを上げていたのは、誰あろう我らがジャイアン。
交わされる会話にちょいちょい口を挟んではいたものの、尽く流れに乗れずスルーされ。ジェラシー最高潮の政宗に、小十郎がものすごく面倒くさそうな表情で政宗に応えた。
「……えー…………じゃあとりあえず、何で名前呼び捨てしてん、デショウカ?」
「いいだろ、俺と小十郎の仲だ。小十郎も俺のこと名前で呼んでいいんだぜ」
「遠慮しときマス。」
なんだよ、小十郎は意外とshyだな。cuteだぜv
小十郎はこの空間ですら一番意味不明な政宗にドン引きの様子だが、ジャイアンは基本的にポジティブである。小十郎が自分に話しかけてくれたというだけで、政宗は単純に喜んだ。
「なになに、二人は知り合いなわけ?」
のんきな輝宗への反応も、政宗は笑顔でイエス、小十郎は遠い目をしてノー。
……これは、何かやらかしたな、政宗様。
遠藤は察した。長年培ってきた勘は間違いなく政宗有罪を叫んでいる。
しかし、有能な弁護士である遠藤は、
「小十郎、私の顔を立ててはくれないか?親父も最近お前が野菜を持って訪ねてくれる、いい顔つきになってきたって、それは大層喜んでたんだがなぁ……この話もきっと、話せば喜ぶだろうになぁ」
小十郎が感じているはずの自分への恩義、更に保護司をしている遠藤の父への思慕。それらを利用して小十郎を丸め込むという、最も(遠藤自身にとって)面倒を早期に解決できる合理的な策を選んだ。
嘘はついていないし、騙してもいない。情に訴えているだけだ!
実は政宗のジャイアニズム溢れる思考回路は、遠藤に大きく影響されたものである。
案の定、十五分ほど固まって汗を滲ませてまで考え込んだ小十郎は、結局疲れきった表情でこくんとうなずいた。
かくして。
政宗にとっては薔薇色の、小十郎にとっては苦難の。はた迷惑なラブコメ生活の幕が切って下ろされた。
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ジャイアン宗様はダメ御曹司。あれ、こっちも筆頭育成物語……!?
ちゃんとラブになるのか非常に不安なこのシリーズ(笑)がんばれ政宗様!