ジャイアン、絞め上げる!
「で?そのオニーサン、どうしたの?」
「…………何にも言わずに超speedで走ってった」
あー、逃げられたんだねぇ。ハハハ。
昼休み、体育館前の渡り廊下。今日は五限が体育だからと既にジャージに着替えた政宗は、隣のクラスの友人・猿飛佐助を引っ張ってきて、早速昨日の運命の出会いについて語っていた。
元親なら端から付き合わなかっただろう政宗の異様なテンションにも快く相槌を打っていた佐助だったが、話が進むにつれ段々と視線が遠くなり、ついには乾いた笑いを漏らしてしまう。
「何だよ、何かおかしいことでもあるのか?」
政宗は薄情者!と言わんばかりの涙目で睨んでいるが、佐助の反応も致し方ないもので。
「うーんあのねぇ……相手が男ってのはまぁどうでもいいけど、とりあえず根本的に?名前も知らない人にいきなり抱きついてちゅーって、一般常識じゃ立派な変態行為だよ。」
「ヘンタ……!?んなこと言ったってしょうがねぇだろ、運命の出会いは突然なんだよ!」
「だぁから、考えてもみなって!いきなり顔も知らない、しかも男に、アンタに惚れちゃった〜ほっぺにちゅーvなんてされて嬉しい?」
「冗談やめろよきもちわりぃ」
「うんまぁ言いたいことは色々あるけどとりあえずオッケーそうでしょ?走って逃げたオニーサンの気持ち分かったよね?」
「いやそれは違ぇよ、あの人と俺ならhappyに決まってる!何たって俺たちは運命に導かれた二人だからなっ!」
あくまでもそれが一方的な認識でしかないことに気付かない辺りがさすがのジャイアンで、佐助は心の中で見知らぬオニーサンに頭を下げた。
すみませんほんとうちの子が迷惑かけちゃって。
謝りつつも早々に説得を諦めているのは、佐助が冷たいからではなく、言っても無駄だと身に沁みているからである。
「大体、口説くのにスーパーの前っていうのもムードないよねぇ。俺様信じらんない」
奢りの紙パックジュースのストローを銜えながらむごむごと喋る佐助に、政宗は指先をもじもじと合わせて弁解する。
「まぁ、そりゃあよ、俺も今考えりゃもうちょっとromanticに行きたいとこだったけどよ……でもあのときはもうあの人しか見えないっつーか、とにかく感動して胸がいっぱいっつーか」
きゃっと嬉し恥ずかし顔を覆って照れる政宗を見て、佐助の顔色が土気色に染まった。
基本的にはクールで、友人に対しては悪戯っぽい一面も見せるが、いつも斜に構えた態度。ノリは悪くはないものの浮かれることはあまりなく、常に自分のルールで生きている。佐助の知る伊達政宗はそういう男だ。
その政宗にまさかこんな、運命なんて言い出す乙女な部分があったとは。
っていうか、さすがの俺様も結構限界……
いくら近隣でも有名なイケメンモテ男の政宗でも、佐助にとって男は男。もじもじされても視覚的暴力にしか受け取れない。
心の平安のためにそっと逸らした目が、中庭を挟んだ向かい側の回廊を行く人影を映すとぱぁっと輝いた。
「おーいっ、片倉さぁん!!」
天の助けとばかりに手を振って駆け寄ると、
「……何だ、猿飛か。学校で会うのは珍しいな、元気か?」
向けられた切れ長の目がふっと微笑む。何だかものすごく久しぶりにまともな人と話した気がして、佐助はちょっと涙ぐんだ。
「片倉の旦那ってほんといい人。俺様癒されるよ〜」
「ぁん?何だそりゃ、野菜目当ての機嫌取りか?」
「まぁそれもあるけどー、あっ嘘ウソ!睨まないでよ怖いじゃん!」
両手を上げて降参のポーズをとりつつも口の減らない佐助を小突いて、苦笑を浮かべる。
「怖ぇなんてタマじゃねーだろ。んなことしなくても、お前には世話になってんだ。俺の野菜でよけりゃいつでも……っと」
廊下の先から呼ぶ声に手を挙げて、その手がぽんと佐助の頭に乗せられた。
「わりぃな猿飛、今急いでんだよ。またな」
世話好きな性格で頼られることの多い佐助にとって、弟のように扱われるのはすごく新鮮で照れくさい。
慣れないくすぐったさを楽しみながら背中を見送っていた佐助であったが、
「さーーーーすーーーーけーーーー?」
ギリギリギリギリ…………
背後に迫る怨念溢れるオーラと尋常でない歯軋りの音に、さぁっと顔色を失う。がつっと首に腕が回されて、
「てめぇ、俺のhoneyと知り合いなのかよ!?」
「ちょ、痛い痛い……って、は!?ハニーって、え!?」
「何で黙ってたんだよイジメか!いい奴だって信じてたのにそういうのよくないと思います大人しく口割りやがれごらぁあああ!!」
むしろ今イジメられてんですけどとか悠長に言える状況ではなかった。頚動脈を圧迫するその力には、躊躇いなど微塵も感じられない。
逆らうな!確実に人生が終わってしまう!
「言う!言うからっ……今の人は、片倉小十郎さんっていって、一個上の先輩!」
ぺいっと解放されて涙目で酸素を取り込む佐助を尻目に、政宗はうっとりと小十郎の去った廊下の先を眺めている。
「こじゅうろう、か……まさか同じ学校だったなんて。俺としたことが驚きすぎて固まっちまった、勿体ねぇ……!」
「まさかは俺様の台詞だよ。政宗の一目惚れしたオニーサンが片倉さんだったなんて」
まぁ、頬に傷の男前と言われて気付けなかった自分も自分だが、だってまさかそんなこと。思いつきもしなかった。
「それだよ。佐助、てめぇ俺の小十郎とどういう関係だ!?和やかに会話しやがってしかも頭なでなでとか俺だってされたことないのに!!」
「ちょっとやめてよ変な誤解!片倉さんはスーパー仲間でタイムセールとか協力したり趣味で作ってる野菜を分けてもらったりしてるの!兄貴肌の人だから割と誰にでもあんなかんじだしっていうか既に俺の発言!?やめてよ俺様の貴重な良識ある友だちがぁ〜〜〜!!」
「おいその小十郎がよく行くスーパーどこか教えろ」
「ちくしょうこのジャイアン都合のいいとこばっか聞きやがってでも教えちゃうよ俺様命が惜しいもん!!」
小十郎との穏やかな友情は失うにはあまりにも輝かしいものだったけれど、目の前の根源的な恐怖にはどうあっても打ち勝てず。
ごめんね片倉さん、不甲斐ない俺様を許して!
さめざめと涙を流す佐助とは対照的に、政宗は何とも悪どい笑みを浮かべて、青空へ拳を突き出した。
「覚悟しやがれ小十郎、絶対俺のもんにしてみせるからな!!」
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佐助は皆のオカンです(笑)
小十郎と佐助が仲良しだといいなぁという。