寂しいのは嫌いだから、絶対に独りにはしない。
せめて、この日だけは。
寂しいのに…
プロサッカー選手っていうのは、何かと不自由なものだ。それはプロになって初めてわかったこと。控え室にかかったカレンダーを見て、昭栄はため息をついた。
本日、11月9日。昭栄の最愛の恋人、功刀一の誕生日である。だというのに、自分は一体ここで何をしているんだろう。
「高山〜、今日は大事な試合だからな!がんばれよ!!」
「おー、ありがとう……」
肩を叩いて歩き去るチームメイトにぼんやりと返して、昭栄はもう一度カレンダーを見た。
本当なら、今すぐにでも名古屋に飛んでいきたい。驚くカズを抱きしめて、何度もおめでとうを繰り返して、おいしいご飯を食べに行って……
そんな普通のことが、プロという立場の自分たちにはできない。今日は自分の今後にも関わる重要な試合で、プライベートなんて言っている場合じゃないことはわかっている。
サッカーが好きだ。とても大事で、出会わなかった人生なんて思い浮かばないほど、もう自分の一部のように感じているほどに。レギュラーになりたい。早く試合がしたい。
それでも。
カズさん、誕生日にひとりであの部屋におるとやぞ。
サッカーと同じくらい大きく、もしかしたらずっと深く、大切なカズを想う。それが悪いことだとは思わない。
ご馳走もケーキも笑顔もない、広い部屋に独りクッションを抱えて、床にちょこんと座っているカズを思い浮かべると、泣きたくなるほど寂しくなった。
一人ぼっちの誕生日の寂しさを、昭栄はよく知っている。両親はめいっぱい自分を愛してくれた。それは今も疑わないけれど、共働きでお互いキャリアの立場では、子供だけに関わってはいられない。
小さか頃は、寂しかって言えんくて黙って泣いとったなぁ。
お仕事だから、しょうがない。そうして何度も寂しさに耐えた。自分に大好きな人ができたら、絶対こんな思いはさせたくない。そう思っていたのに、今はどうだ。
カズさん強がりやけん、何も言わんばってん……。
来るな、なんて言ったカズの目は寂しさでいっぱいで。悲しくなっていないだろうか。泣いていないだろうか。心配で心配で、たまらない。
一人ぼっちは、寂しいのに……。
そろそろ召集の時間だと、チームメイトはぞろぞろと控え室から出て行く。行かなければならないけれど、どうしてもカズが気になる。電話だけでもしてみようと手に取った携帯が、着信を知らせて震え始めた。
『あー、もしもし?』
懐かしい声に、驚きつつも喜んで、昭栄の顔がほころぶ。
「よっさん?どげんしたとですか?」
『ん、ちょぉ気になってな……お前今から試合っちゃろ?』
「はい!気になるって?」
『今日の試合、お前のレギュラー入りがかかっとーこつはわかっとーよな?』
「はい……、よっさん?」
それは自ら感じ、またカズにも散々言われたことである。そもそもどうしてこのタイミングなのかと、昭栄は首をかしげた。
『今日、カズの誕生日やけんな。どうせ落ち着かんくてわたわたしとーと思ったけん、電話したとよ。』
まるで見ていたかのような言葉に、昭栄は驚いて息をのむ。城光は構わず、穏やかな調子のまま続けた。
『よかか、タカ。今日はカズの誕生日たい。お前の将来がかかっとー試合ん日でもあっと。だけんな、絶対勝て。それが何よりカズば喜ばせるこつになるとやぞ?』
咄嗟には言葉が見つからなくて、何度も城光の言葉をかみしめる。
……そうか、そげん風に考えるこつもできるっちゃね。
そう言われてみれば、カズはテレビで試合を見ている、と言ってくれた。きっと今頃はもうリモコンを手に、じっと画面を見つめているに違いない。
自分の勝利が、カズを少しでも喜ばせることができるなら。一人ぼっちの寂しさを、少しでも忘れさせることができるなら。
「……よっさん。俺、絶対勝ちます。」
『おう、がんばれや!』
力強い声に後押しされて、控え室を出た。もうその目に、迷いはない。
よっさんには、やっぱり敵わんな。
いつも支えて、一番欲しい言葉をくれる。いつかは越えてやると宣言してから一体何年が経つのか、未だ城光という存在は大きく、超えられそうにもない。
悔しいけれど、かっこいい。初心に帰る気持ちで、昭栄は頬を軽く叩いた。
しっかりせんや、俺!カズさんが見とー試合で、情けなかこつはできんぞ!!
きっとこの後城光がカズに電話をするだろう。その間は、カズも寂しさを忘れられる。だから試合終了までは、自分は試合だけに集中しよう。
けれど、今日一番カズを喜ばせる、それだけは城光にも譲れない。
緊張した様子で見上げてくる少年と手をつないで、昭栄は胸を張ってフィールドへ歩き出した。まぶしいライトと歓声に包まれて、ぎゅっと身が引き締まる。
試合に勝つ。とりあえずはそれが、自分からカズへのプレゼントだ。
今日は大活躍でしたね、と記者に言われて、昭栄はにっこり笑った。
「今日は大事な日やけん、絶対勝つって決めとったとです。」
これでレギュラーもほぼ確定ですね、という言葉には曖昧に微笑んで、昭栄はロッカールームへ急いだ。
早く、できるだけ早く行かないと。来るななんて強がって、本当は寂しがり屋の可愛い恋人を、これ以上独りにはしたくない。
だってやっぱり、どうしたって寂しいのだ。誕生日に独りきりだなんて。
「うわ、暗!!カズさんこげん暗か部屋で何しとーと!?」
2006,功刀一生誕企画様に載せていただきました。
お題提供:【Cherish】夢小説で20のお題