うちのチームのセカンドキーパーは功刀と同じくらいの身長だと言ったら、
「俺はレギュラーだ」と胸を張られた。ガキ大将みたいな反応で、ちょっと笑える。


ちびっこコンビの九州旅行!3


 五戦ほどしたところで、場内の照明がついた。ふぅ、と息をついて、軽くかいた汗を拭う。
 カズがGK、FW二人、DFも二人。ちょうどよくポジション分担が出来たせいか、連携までスムーズに行って全戦全勝。
「今まで知らんかったばってん、背が小さかこつが有利っちゅーんもあるっちゃな。参考にさせてもらわんと。」
「うん、大小兼ね合わせとーと戦術の幅も広がるしな。さすが東京者たい!」
 すごいなと楽しそうに笑う大きいコンビを見て、将が照れくさそうに笑った。翼はちょっと苦笑気味。
    何か、ほんと調子狂うよなぁこいつら。
 自分からすれば、九州勢のうまさは正直驚異だ。身長がある分足元が雑になるでもなく、重そうな体だが足も速い。豊富な体力、初めての相手とも連携できる勘のよさ。こんなのが揃ったチームがあるとしたら。考えるだけで恐ろしい。
 これほど揃っていればもっと天狗になっていてもおかしくないと思うのだが、さっぱりしているというか純粋というか。憎めない。
「そう、当たり負けせんように鍛えとーと。ダンベルとかな、基本の……」
 何やら筋肉自慢を将に披露している二人にぷっと吹き出すと、呆れ顔のカズと目が合った。特に何かあるわけでもないようで、カズはまたすぐ目の前の試合に視線を戻す。
 唯一、彼の実力だけが測れないでいた。フットサルのゴールは小さいし、相手も格下ばかり。危なげなく無失点で来ているのは、当然かもしれないが……

「なぁお前、CBっちゃろ?」

 突然かけられた声にぎくっとした。表情には出さず、いつの間にかこちらを見ていたカズに向き直る。
「何でそう思うわけ?うちのチームにだってもっと身長があるDFはたくさんいるよ?」
「……全体がよぅ見えとーし、周りば使うんがうまか。二つ先ば読んで動いとーしな。お前以上にセンターに向く奴はおらんっちゃろ。」
 カズのこの目が、もっと何かあるように感じさせるのだ。フットサルでは読みきれない才能の片鱗を感じて、翼は試すようにカズの目を覗き込んだ。
「ねぇ、俺さ、学年主席のくせに実は武道のたしなみがあって、ヤクザを吹っ飛ばしたことがあるんだよ。信じる?」
「うん。お前気ぃ強そうやけんな。」
 被っていた帽子を手にとって、カズが小さく笑う。
「ふーん……じゃあさ、俺が実は『東京選抜のレギュラーでフラットスリーが得意技のリベロもいけるCB』だよって言ったら、信じる?」
 強気の笑みを見つめて、カズが少し首をかしげた。フラットスリーなど、中学生で出来る奴はそういない。しかもリベロもいける、とまでくると、容易には信じがたい。
 でも、こいつならほんとにできるかも。
「……そげん完璧人間が東京選抜におるなら、俺らもよぅ覚えとかんといけんな。」
 交わる視線。水面下での探り合い。
 「うちのチーム」がどこか。「俺ら」とは何か。
 お互いに勘付いて。


「あれー、さっきのチビじゃん。中坊はさっさと家帰って寝ろよなー!」
 突然割って入った大声に、カズと翼は眉をひそめた。ぞろぞろとこちらへ向かって来るのは、先程対戦した高校生。敗戦の憂さ晴らしにでも来たのか、特に品のなさそうな五人組がずらっと並んでいる。
「よかったなぁ、更にチビのお仲間といるとお前でも大きく見えるよ!!」
 ぎゃはは、と響く笑い声に、遠巻きにしていた周囲がざわめきだす。その反応を見ると、こうして邪魔しに来るのはよくあることらしかった。
「それはどーも。そっちはそうやって固まっとーと更に頭悪そうに見えるとよ。負け犬はよぅ吠えるって評判みたいやしな。」
 すでに我慢してやる理由のないカズが鼻で笑ってあしらうと、先頭にいた一人がかっと顔を赤くしてカズに殴りかかる。
 その腕はカズが振り払うまでもなく、後ろにいた城光が掴み止めた。握った手首に力を込めると、男の顔が苦痛にゆがむ。
「ヨシ、もうよか。相手にすんな。」
「……そうは言っても、じゃあこれでってすむとは思えないけどね。」
「ちょ、翼さん!喧嘩はダメですよ!!」
 咄嗟にカズをかばって反撃に出ようと構えかけた翼は末森に止められて、後ろに押しやられた。彼と雲行きの怪しい展開に慌てている将を背中に隠すように、九州勢が横に並ぶ。
    すげー貫禄。ほんとこいつら中学生じゃないって……。
 高校生相手に引けをとらないどころか、圧倒的に勝る威圧感に翼が苦笑した。この三人には喧嘩じゃ絶対に勝てないだろう。
「……てめーら生意気なんだよ、ガキのくせに!」
「どうせ二つくらいしか変わらんっちゃろーが。公衆の面前で暴れるお前らより俺らの方がよっぽど大人じゃ。」
「っせーよ田舎者!!山でも登って遊んでやがれ!!」
「そん田舎の中堅クラスの高校にわざわざ来んとレギュラーになれん奴に言われたくなかよなぁ。」
 口でも負けていない。ギャラリーからくすくすと笑いが漏れると、高校生の目の色が変わった。空気が一気に緊迫したものに変わる。
 キレたな、と勘付いて、全員が構えた瞬間

「やめろーーーーーっ!!!」

 顔を真っ赤にして叫んだのは、将。驚いてふり返った三人をきっと睨んで続ける。
「暴力は、ダメです!僕たちも、それにそっちの人も、サッカーがあるんだから!!」
「そ、そげんこつ言っても」
 気圧されながらも口を開いたカズに向かって、将はボールを差し出した。にこっと笑って。
「喧嘩なら、サッカーでしましょう!!」
「ぶはっ!!」
 さすが将だ。やってくれる。

 きらきら笑顔の将と笑いの収まらない翼に毒気を抜かれて、カズたち三人は顔を見合わせた。何かもう、結構どうでもいい。
「はぁ、あーおかしい。まぁでもいいんじゃない?丁度いいかんじでフットサル場だし、それなりのレベルの相手とやれるなら俺は文句ないけど。」
 目じりの涙を拭った翼は、ちょっとめんどくさそうな顔のカズに向かって、にやっと笑って見せる。
「そろそろ功刀の実力を見せてもらいたいしね。」
 挑発するような翼に、カズもにやっと笑った。
「……そーいうこつなら、俺も文句なか。それに……」
 向かい合う高校生は、依然こちらを睨んだまま。自分を「チビ」扱いした罪の重さがいかほどか、拳でわからせてやってもよかったけれど、場所が場所だし。
 今度はもう二度と歯向かう気にならないように、公衆の面前で泣きっ面を晒してやる。




「はぁ……、昨日楽しかったですね、翼さん。」
 帰りの飛行機の中、笑って言う将に、翼は雑誌から目を上げずに「そうだね」と返した。
 脳裏にはくたくたになるまで動き回って、汗を拭いながらすっきりと笑った功刀一の姿。翼と呼べと言ったら少し困ったように笑って、なら俺もカズでよか、と言っていた。
「またどこかで、会えるかな……」
 会えると思うよ。三月、そのときは大きな壁として、だけどね。






 全国選抜大会、初日。将は皆強そう、なんてきょろきょろわくわくしているから、ふらふらするなと注意した矢先に、案の定はぐれた。
「ったく、お前のせいで俺まで迷子とかありえないよ!何で俺が世話してやんないといけないわけ?」
 説教してやろうと腰に手を当ててため息をついた瞬間、通りの向こう側を通っていく人の気配。三人組だ。何やら話している様子なので、声を落とす。
「大体将はいっつもいっつも」
「それで、……様子ば見てみんと……だけんなぁ。」
 ん?
「え、なしですか?これは……」
「だーっもうせからしか!!アホはちょぉ黙っとれ!!」
 あ!!
 二人同時に声の主に思い当たって、通りすぎて行く背中に叫ぶ。
「「カズ(さん)!!!」」
 迷彩の帽子も、少し長めの黒髪も、驚いて振り向いた大きなつり目も、変わっていない。駆け寄る二人にカズはぽかんと口を開けて、二人が目の前に来てようやく思い出して、
「…………あぁ、椎名に風祭か!!」
「翼に将!!」
 戻ってるし。


 久しぶり、とか楽しげに交わされる会話の中で、一人昭栄だけがこの状況を把握できずにいた。
「まさかこんなとこで会えるなんて……カズさんや城光さん、九州選抜のメンバーだったんですか?」
「ん……?翼、お前わかっとったやん。言わんかったと?」
「翼さん知ってたんですか?教えてくれてもいいのに」
「だって将聞かなかったし。俺はそんなに甘くないの!ていうか、将気付かなかったわけ?普通気付くよ、あれだけ一緒にやってたんだからさ。城光だってわかってたろ?」
「んー、まぁな。普通のサッカー部員にしてはうまかし、雰囲気違うけんなぁ。」
「将はニブそうやけんな……」
 カズのつぶやきに城光と翼が噴き出して、将は真っ赤になっている。否定したくても出来ないその表情に、カズも笑った。
 そう、笑ったのだ。それはもう楽しそうに、めったにしない自然な笑顔で。
「……ちょっと待ったぁ!!カズさんっ誰ですかそのちっこい二人組みは!!」
 飼い主を横取りされた気持ちの昭栄は、敵意(というか嫉妬)のこもった目で割って入った。失礼な物言いに翼が反応する。
「はぁ?誰って、こっちのセリフなんだけど。ねぇカズ、この背だけ高くて脳に栄養行ってなさそうアホ面ダサ眼鏡、誰?知り合い?残念だね!
「んなっ……残念て何じゃ!!」
「うわっ至近距離でデカい声出さないでようるっさいなぁ。身長も声も態度も無駄にデカいだけじゃ使えないんだよね!」
 なぜかバチバチと火花を散らす二人をどうすることもできず、将と城光がカズを見つめる。止めてくれ頼む!という眼差しに、カズが渋々口を開いた。
「ショーエイ!紹介しちゃーけん黙らんや。翼、このアホは高山昭栄な。俺の後輩。おら、翼は先輩やぞ、挨拶せんか!!」
 納得いかずとも先輩命令は絶対。昭栄はぺこっと頭を下げて「どーも、高山っす」と挨拶をした。素直な反応にカズが満足そうにうなずく。
「で、こっちの二人は東京選抜の椎名翼と風祭将。お前が補習なんぞで練習休んだ日に知り合ったとよー?なんぞ文句あるとや?」
 にぃっこり、笑って言われて昭栄が引きつり笑いで首を振った。この笑顔は本気で怖い。
 一方の翼も、二人の間の親密そうな空気に少し眉根を寄せた。そんな顔、自分たちの前ではしたことない。当たり前だけどむかつく。
「俺たちは当然優勝しに来てるからな!九州と当たるの、楽しみにしてるよ。」
「優勝すんのは俺らたい。……完璧人間がどげんもんか、見せてもらうけんな。」
 にっと笑い合って、それぞれ歩き出す。将と昭栄が「待ってー!」と自分の先輩の名を呼んで駆け出した。



そんなことがあったらいいなぁというお話。 笛文庫でカザの「両親が九州勤務」というセリフを読んだ瞬間からずーっと考えてたことです(笑) 本来は翼さんやフットサルは出て来なかったんですけども、つい趣味でやってしまった(笑)
不良君に「かっぺ!」と言わせようか悩んでいたのは内緒です…(笑)


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