昭栄という特別な存在は、今誰よりもそばで笑っている。
もう一人の特別な奴は、今何を思っているのだろう。




 抱きしめ合って、赤く染まった頬を隠して、幸せな気持ちのまま、玄関先で手を振りながら帰っていく昭栄の背を見送った。
 ふと隣家の窓を見上げると、二階の一部屋に明かりがついている。そこは、見間違うはずもない、幼馴染の部屋。
 自然と足は、その明かりの元へ向かった。


 部屋の空気に、冷たさが混じる。戸口を振り返った城光は、そこに立つカズにほんの少し微笑んだ。
 来るだろうと思っていた。今夜のように、何か特別なことがあった日は、カズは必ずここに来る。それを自分は黙って迎える。小さな頃からの習慣だった。
 いつも通りに何も言わず、見ていた雑誌に目を落とすと、カズが部屋に入ってくる。そのまま城光に背を預けるように、ぺたんと座り込んだ。触れ合った背中が冷たくて、今帰ってきたばかりなのかと少し驚く。ずいぶん遠回りをしたのか、まさか歩いて帰ってきたのかもしれない。風邪でもひいたらどうするのだ。
    まったく、仕方なか奴らっちゃね……。
 手のかかる幼馴染と後輩に、自分はいつも振り回されている。そんな役割も悪くはないが、あんまり苦労をかけないでもらいたい。
「ヨシ……。」
「ん?」
 黙りこくっていたカズは、その重い口を開き、ぽつんとつぶやくように続けた。
「全部、知っとったと?」
 言葉足らずでも、背中合わせの幼馴染には全てが伝わる。
「うん……。」
「ショーエイんこつ、も?いつから?」
「二月前くらい。」
 城光の言葉に、カズが少し身じろぎをした。驚いたらしい。
 城光からすれば何を今更驚く必要があるのかと思うほどに、昭栄がずっとカズを好きだったことなど見ていればわかる。さすがに最初はそんな感情だとは思わなかったものの、言われてみれば納得してしまうほど昭栄はあからさまだった。あれで気づかない奴など、きっとそう多くはない。
    多分選抜の奴らも、何となく勘付いてはおるっちゃろなぁ……。
 変に噂をしたり騒ぎ立てたりする者がいないのはありがたかった。カズがひどく気にするだろうから、なるべくひっそり見守ってやりたい。
「あいつも色々悩んで、それでもやっぱりお前が好きやって受け入れたみたかやったぞ。だけん、お前も素直にうなずけたっちゃろ?お前の悩んどーこつ、昭栄が先に悩んで、吹っ切ってくれとったけん。」
 再び黙り込んだ背中に不安が宿ったのを感じて、城光は雑誌を繰る手を止めた。
 カズが何を考えているのか、手に取るようにわかって、城光は心の中で苦笑する。今のカズの心には、幸せと不安がいっぱいにつまっている。好きになってしまった昭栄に好きだと言われた幸せと、そのせいで生まれる不安。

男同士で結ばれてしまった、この自分でも受け入れてくれるだろうか。

 何を今更、それは愚問だ。カズにその気持ちを自覚させたのは自分なのに。しかしそんなことを不安がる、それをカズらしいとも思ってしまう。
 普段は手がつけられないほど気が強いくせに、妙なところで甘ったれ。そこに城光がいるかどうか、振り返って確かめずにはいられないのだ。
 形にならなきゃ安心できないカズのため、聞きたくても口に出せない、その問いの答えはこうだ。


「カズは、カズやけん。何があっても、俺の大事な幼馴染っちゅーんは、何も変わらんぞ。」


よっさんとカズさんパート2。
何よりも欲しい言葉をくれる人。よっさんはそのぐらい大人が好き。
でもはっちゃけてても好き(笑)