好きすぎて、苦しい。
君のて
選抜練習日がもっとたくさんあればいいのに。
今日もみっちりしごかれて、すっかり暗くなった頃に解散となった。毎日続けるよう言われた15キロのランニングにも体が慣れてきて、練習もどんどん楽しくなってくる。もっとサッカーがしたい。それに、もっと。
もっと、カズさんと一緒におりたか……。
月二回という頻度は、九州の面積を考えればむしろ多い方かもしれない。わかっているけれど、昭栄は一人ため息をついた。
「?どげんしたと?」
隣で着替えていたカズが見上げてくるのに、昭栄は困ったような表情で着替えの手を止める。
一緒におれるだけでよかのになぁ……。
こうして隣にいられるだけで、どうしようもなく嬉しい。恋人になれば余裕ができるかと思ったのに、昭栄の「好き」は募るばかりだ。
会えない日はずっと苦しくて、落ち着かなくて。やっと会えたら、嬉しくて落ち着かない。押しつぶされそうなほど膨らむ想いを、どうしていいのかわからなかった。
選抜練習がもっとたくさんあればいい。練習ではカズに必ず会える。顔を見て、話ができる。もっとたくさん会えたら、きっともっと落ち着いていられる。
ただ会いたかってだけやぞ?俺、贅沢なんぞ言ってなかのに。
思い通りにならない現実が腹立たしくて、そっとカズの横顔を盗み見た。至って平然としたその表情に、今度はもどかしくて悲しくなる。
こんなに苦しくて、叫びだしたいくらい好きだって、そう思っているのは自分だけなのだろうか。カズは何一つ変わらない。余裕で頼れる、かっこいい先輩だ。
変わるのは、自分のこの想いの大きさだけ。
会いたい。顔が見たい。声が聞きたい。もっとカズのことを知りたい。自分を見てほしい。自分の話を聞いて、笑ってほしい。もっとたくさん知ってほしい。
もっと好きになってほしい。
泣きたくなるほど大きくなったこの想いを、どう伝えていいのかもわからなくて、昭栄は黙ったままシャツをかぶった。
いつもの帰り道を、二人で歩く。事情を知る城光が先に帰ったことに、余計な気を遣って、とカズはぶつぶつ言っていたが、昭栄は嬉しかった。
好きだなぁ。
いつもしっかり伸びた背筋が、寒そうに縮められていて可愛い。わざとゆっくり歩く自分の前を行くカズを、昭栄はじっと見つめていた。
好きだ。カズはただそこにいるだけなのに、自分をこんなにも苦しくて幸せにする。好きだって言葉しか浮かばないほど、もうどうしようもなくカズしか見えない。
振り向いたカズの唇が二回自分の名前をかたどって、ようやく昭栄は我に返った。
「ショーエイ、聞いとると?」
むっと寄った眉根に慌てて謝ると、カズがとことこと昭栄の隣に歩み寄る。
「カズさん……?」
「後ろからじっと見られとーと、落ち着かん。」
そう言って並んで歩いてくれるカズに、昭栄は胸が詰まったように感じて立ち止まった。
「……カズさん、好いとーです。」
つぶやくような言葉にカズが顔を上げると、昭栄が泣きそうな顔で自分を見ている。何事だろうと驚いて、目を丸くしたままカズも足を止めた。
「カズさん、俺カズさんこつちかっぱ好いとーと。もう俺どげんしたらよかかわからん……っ!!」
「ショーエ……?」
「わからんのに気持ちばっかりデカかなって、追いつけんです!カズさん見とーと苦しかやし、会えんともっと苦しかやし!!……もう、潰れそうたい。」
いつも底抜けに明るいくせに、いきなり何を言うのか。そう茶化すには、昭栄はあまりにも真剣な目をしている。
「……よぅわからんばってん……ちゃんと、言わんや。話聞くけん。」
こくんとうなずいた昭栄をつれて、少し前にも訪れた小さな公園に足を向けた。
今度はカズが飲み物を買って、昭栄と並んでベンチに座る。黙ったままの昭栄に、カズが先に口を開いた。
昭栄が何かを不安に思っている。だとすればきっと、この前のように自分の態度が原因のはずだ。
「あのな、こん前も言ったとばってん……俺付き合うげな何もわからんと。だけんな、思ったこつは全部言えばよか。ちゃんと聞いて、考えて、できるこつはしてやるけん。」
付き合うとか、恋人とか、まだしっくりきていないことばかりだ。今までと何が違うのか、全くわからない。わからないけれど、だからこそ、昭栄と一緒に考えたい。
「一人で抱え込むな。好いとーって、どげんするんも……俺とお前んこつっちゃろ?」
昭栄が辛いなら、一緒にいてなぐさめてやりたい。昭栄が楽しいなら、一緒に笑っていたい。
「こん前、好いとーけん、したかこつがあるって言ったっちゃろ?」
昭栄は黙ったまま、しかししっかりとカズの瞳を見つめている。そのまっすぐな視線に、カズも目を合わせた。
「俺は、一緒にいたか。それだけで、よか。」
カズの一言に、膨らんだ想いに押しつぶされそうになっていた心が、軽くなった気がした。
「一緒に、いたか?俺と……カズさんも、同じ?」
うなずいたカズに、ようやく言葉があふれ出す。
「俺一人、こげんカズさんしか見えんほど好いとーって、苦しかやったです。カズさんは余裕あるのに、俺一人で舞い上がっとーし、ばってんどげんしようもなくて……」
うまく話せないもどかしさに昭栄が唇をかむと、カズが困ったように笑った。
「余裕あるように見えるか?」
カズは目を丸くした昭栄の手をとって、左胸に押し当てた。驚いて固まる昭栄の手のひらへ、布越しにカズの鼓動が伝わってくる。
もっと、驚いた。カズの心臓は昭栄と同じくらい、どきどきと早く波打っていたから。
「な?余裕なんぞなか。俺だってお前と同じやぞ。」
「カズさ……」
呆然とする昭栄に恥ずかしくなったのか、カズは掴んでいた手を乱暴に離してぷいと横を向いてしまった。いつも通りの仕種に、昭栄もやっと本来の自分を取り戻す。
同じだ。どきどきするのも、不安なのも、好きなのも、一緒にいたいと思うのも。全部。
確かめるように、半ば無意識で昭栄の手がカズの手を握った。カズは少し驚いて、けれど振り払いはしなかった。そのままほんの少し握り返してくれる。
温かい手だ。優しくて頼もしくてかっこよくて、可愛い。カズの手だ。
「俺……一人で不安がって、子供っちゃなぁ……。」
昭栄はつぶやいて、カズの手をぎゅっと握った。
つないだ手からたくさんの気持ちが流れて、心がつながっているみたいだ。苦しいほどに溢れる「好き」は、手から手に、心までまっすぐ伝わって、溶け合う。ようやく満たされた心に、昭栄はほっと息をついた。
もう二度と、他の人を好きになることはない。それだけ本気でカズが好きだ。まだ子供な自分の心には、この気持ちは大きすぎる。いつか心が追いつくまで、きっとずっと苦しい。
でも、同じだ。カズだってきっと苦しい。それなら、きっと大丈夫だ。
苦しくなったら、またカズに話を聞いてもらえばいい。不安になったら、またこうして手をつなげばいい。
一人じゃないから、二人一緒だから。
こんなにも幸せ。
14歳で運命的な恋に出会ったら、その大きさに不安になったりもするでしょう。
特に付き合い始めは気持ちが高ぶって、こんなに好きなのは自分だけ?なんて勝手に悲しくなったりするものですよね。
ましてやカズさんは恋愛面は絶対鈍いはずなので(笑)