特に脈絡のない徒然小話。


○なかないで
どこにも行ったりしないから。
独りになんてしない。
カズさんがつらいときは隣にいる。楽しいときは一緒に笑うよ。
カズさんは絶対言わないけど、もう俺がいなきゃ幸せになんてなれないこと、知ってるから。
どこにも行かないから。そばにいるから。
だから、なかないでね。

「アホや、あいつ」
馬鹿に明るい陽の差し込む窓辺。ぽつんと落ちた声に、城光が苦しげに声をかけた。
「……カズ、ここはよかやけん。タカんそばに…ついててやれ」
「そばに……?」
あまりにも現実感のない言葉に、涙も出ない。
「必要、なかやろ」
だって。


「ただの盲腸のくせに大げさに騒ぎよって…」
「ま、まぁな……」
ほんとに死んだかと思った。馬鹿。


○わらう。
ほんの一瞬のその笑顔に、どれだけ鼓動が早まるか、知らないでしょう。
アホだなと呆れた口調で、でもその瞳は優しいから、つい調子に乗ってしまう。

ねぇ、そんなかお、他の誰にも見せないで。
カズさんは自分がどれだけ魅力的か、自覚ないみたいだけどさ。
いつもいつだって、独り占めしたくてたまらなくなるよ。

カズさんは強い男だから、追いかけるだけで精一杯で。
この腕の中に閉じ込めてしまう方法が、まだ見つからないでいるのに。


○会いたい気持ち。
ただひとりの人がいないだけで、日常がこんなにもつまらないなんて信じられるだろうか?
自分だってそんなの、今まで信じちゃいなかった。でも実際に今、そう思ってしまうのだから仕方ない。

授業なんて早く終わればいい。日が沈めばあの人の声が聴ける。
平日なんてさっさと過ぎ去ってしまえばいい。休日にはあの人に会える。

いっそ今すぐこの退屈な日常を抜け出して、君の家に突っ込もうか?


○はじめてのけんか。
きょう、ヨシとはじめてけんかした。
ヨシはおこって、おれをどんってして、はしってった。
ひざからちがでて、いまもいたい。
なのにママは、あしたごめんなさいしようねっていうんだ。ママはなんにもわかってない。
ごめんなさいなんかしない。もうヨシとなんて、あそんでやらない。おれのみかたは、ガーくんだけだ。
「ふぐっ、ぅえっ」
ないてなんかいないぞ。おとこはなかないんだ。ただちょっと、びっくりしただけ。
ヨシのこわいかお、はじめてみたから。


○見送る。
どこまでも青い空に、白い機体がぐんぐんと遠ざかって行く。
少し熱を持って、痛む頬。
『いつまでメソメソしとるとや!一生会えんわけでもあるまいし。お前も来年プロになるなら、こげんこつで下向くな!!』
ガツンと一発、最近じゃそう喰らうこともなかった大きな土産を残して、大好きなひとは行ってしまった。
最後の最後まで、頼もしくて強い、先輩の顔のまま。

でも、振り上げる一瞬前のこぶしが、震えていたように見えたから。
だから、決意する。
追いかけるよ。どこまでも、何年かかっても。
カズさんの隣に堂々と立って、先輩としてじゃなくただのカズさんに、心の底から誇らしく笑ってもらえるように。

そのとき初めて、この想いを口にする。
最後の涙が頬を滑り落ちて、カズさんを乗せた飛行機の白も、空に吸い込まれて消えた。

対等になるまでは、絶対に先輩という立場を崩そうとしないカズさんと、後輩でも可愛がられてるなら…なんて甘えを初めて捨てる昭栄。みたいな。
オリンピック辺り、二人で出場して初めて勝った国際試合とかで、初めてカズさんが昭栄に先輩じゃない笑顔を見せて、昭栄は泣きながら告白するんだよ。
カズさんって厳しさの中に愛情があって、だからこそかっこいいんだと思う。