「カズさん、乗ってください!」
 笑顔は今日も満開で、赤いママチャリの後ろをぽんぽんと叩く。


アクセルペダル。


 抱えたスポーツバッグは昭栄の手でカゴにしまわれて、カズは何となく無言のまま昭栄の顔を眺めた。
 そこに乗れってか。男二人で二人乗りか。
    いや、そんなにおかしかこつでもなかな。
 ちょっと過敏になっているのは、自分が昭栄を……ほんの少しだけ、特別に思っているから。
 これが城光だったら?迷うことなく、当然の顔で、そこへ座るだろう。
「カズさ〜ん?大丈夫ですよ、安全運転しますけん!」
 昭栄がにこっと笑ってうながした。カズの戸惑いを本当にそんな意味だと思って言ったのかは、微妙。最近昭栄がわからなくなっている。
 ガキみたいにはしゃぐところは相変わらず。そのくせ時々、包み込むような温かい目で自分を見る。その度調子が狂ってしまって、何かやだ。自分が何か、やだ。
「……もしかして、行きたくなか?」
 のぞきこむ顔を押しのけて、ママチャリの後ろへ飛び乗った。
「サッカーすんのに、行きたくなかわけなかっちゃろ!」
 早く行け!と言うように、勢いのまま昭栄の背中を叩く。まだ少し少年の空気を残してはいるが、自分よりは広い背中。
「あったー……カズさぁん、アトできたらどげんすっとですかー!」
 文句を言いながらも、その声は笑っている。走り出す自転車。車輪の音が軽い。
「荷物あるけん、バランスとりづらか。つかまっとって?」
 街の中心地とは反対側へ、景色が流れていく。風に毛先が流れる。昭栄の声はちゃんと聞こえたけれど、聞こえないフリをした。
「なー、どっち行くと?」
 目的地へ向かう道は二つ。住宅街を縫うように抜けるか、海沿いに飛び出すか。
「んー?はは、どっちがよかです?」
 楽しげな声。聞き返してはいるけれど、答えなんてわかりきってる。カズの好むもの、昭栄の好むもの。何も言わなくとも、自然と知っているから。
 二人の弾む声が揃う。

「「海!!」」

 風が潮の匂いをはらむ。段々と海が近くなる。車のほとんど通らないこのトンネルを抜けると、視界は青一面に染まった。
「ひゃっほーーーー!!!」
 昭栄の叫び声にあわせて、ぶわっと風が起きた。髪が根元から浮いて、後ろへ踊る。
「カズさん下り坂やけん、しっかりつかまってーーー!!!」
 耳を過ぎる風の轟音の中で、昭栄の声がかすかに届いた。この先は長く急な下り坂。空から海へ落ちていくような感覚。
 今度は素直に、昭栄の背中にぎゅっと抱きついた。少し高い体温。子供みたいに安心してしまう。額やこめかみに、昭栄の少し茶色がかった髪がかかる。くすぐったいけれど、何だかそれもいいかんじだ。
 妙に安心する。妙に高揚する。ずっとこうしたかった。この気持ちを、今ならこの下り坂のせいにして、許せるから。
「海ーーーー!!!」
「あ゛ーーーーーっ!!!」
 叫んで笑い合った。ぎゅっと寄り添ったままで。


 背中に感じるのは、大好きな人のぬくもり。カズの手は自分の腹に回されて、シャツをぎゅっと握り締めている。頬をぴったりとくっつけて、ときどき楽しげに叫んだり笑ったりしている。
 ここに乗ってと言ったときは、あんなに戸惑っていたくせに。安心しきったその様子が、何とも可愛くて憎らしい。
    好きだって叫んだら、どげん顔するっちゃろか?
 下り坂はまだ中間地点。青い海とクリーム色に輝いている砂浜に向かって、叫ぶならまだ余裕がある。
「ショーエ!!雲、海に映っとる!!」
 風に負けないように、耳元でカズが言う。生え際に軽くその唇が当たって、心臓が一瞬跳ねた。これでわざとじゃないのだから、余計に性質が悪い。
    突然振り向いてキスしたら、どげん顔するっちゃろ?
 コートで素晴らしい跳躍を見せる、細身だがしなやかなカズの身体を、背中で受け止めるのもいい。普段強気なカズが、甘えるようにぎゅっとしがみついている様は、すごく可愛くて愛しくて。
 でも、それだけじゃ。カズはそれだけで満足している。でも自分は、もっともっと貪欲だ。
 お互いにあと一歩が踏み出せないままのこの微妙な空気に、どこか甘え続けている。このもどかしさも、実は少し楽しんでしまっているのだけれど……
    ばってんカズさんが思うほど、俺は安全運転じゃなかですよ?
 キスしたら、どんな顔をするだろう。ギアを入れ替え、アクセルを踏み込むように。突然スピードを入れ替えて、この曖昧な空気ごと奪い去ることができる。
 ちらっと横目でうかがったカズの表情は、何とも幸せそうで。目を閉じて風を感じて、昭栄に身体を預けきって。むっと結ばれがちな口角は自然なかたちで上がっていた。
 ……可愛い。あんまり可愛くて。
 ザザっと車輪が音を立てて、下り坂が終わりを告げる。海岸沿いの道路は風に運ばれた砂でじゃりじゃりだ。
「ガタガタするけん、手ぇ放さんでね。」
 結局今日も、自分の負けだ。


 いつだって踏めるはずのアクセルを踏むのは、いつのことになるやら。


関ジャニ∞「Cool magic city」という曲を聞いて。
爽やかな風、自転車で二人乗り、下り坂、海、なびく髪と無邪気な笑顔。そんなイメージ。 歌は多分バイクだけど;

あんまりもだもだした感じが好きすぎて、ついやってしまいました(笑っとけ)
そっとしといてやってください……。