ふと目が覚めた。枕もとの時計を見ると、午前0時。


AM0:00


 一度寝たら朝まで熟睡タイプの自分にしては珍しい。まだぼんやりとした頭でそう思い、カズはむぅと眉根を寄せた。冷えた空気に身震いをして、温かい布団にもぐりこむ。
    なんか、狭か……。
 不必要なほど大きなベッドのはずなのに、なぜか妙に狭苦しい。しかし寝ぼけているカズの頭は、すぐに心地よい温もりにその疑問を忘れた。もぞもぞと布団の奥へもぐりこんで、傍らの温かい何かに抱きつく。
    こん枕あったかか……ちかっぱデカか枕っちゃね〜……
 そこでカズの目が開いた。無意識に抱きついた「枕」は、枕にしては触感が硬い。質感も布よりも弾力があって、カズの肌によく馴染んでいる。そして何より、自分は「枕」から生えた二本の腕にしっかりと抱きしめられていた。
 どう考えても、枕じゃない。見上げれば、案の定というのか。

 そこにはすうすうと気持ちよさそうに、昭栄が眠っていた。


    なし、こいつはこげんとこで寝とーと?
 今週は二人の休みが合わなかった。カズは明日休み、昭栄は明後日。今日はお互いホームで試合があって、昨日の電話で、会えるのはもう少し後になりそうだな、なんて話したばかりである。
 いるはずのない昭栄がぴっとり自分にひっついて寝ている。その腕は絶対離さないとでも言わんばかりにカズの体に巻きついて、きっとこのせいで寝苦しくて起きたんだと思うとちょっといらっとした。
    蹴り落としちゃろーかな、まったく……。
 カズがその腕から逃れようと身じろぎをすると、昭栄がのしかかるように更にむぎゅっと抱きついてくる。
「……カズさぁん、……むにゃむにゃ……」
 何か寝言を言いながら、腕の中のカズにすりすりと頬を寄せる昭栄に、カズは諦めて大人しく目を閉じた。

 カズが一人暮らしを始めてから、たまにこんな風に、昭栄が突然やって来て隣で眠っていることがある。始めはわけがわからず揺り起こして、一体どうしたと聞いた。
『なんかカズさんにちかっぱ会いたくなったとです〜。』
 その答えにあきれてしまって、叱る気も諭す気も失せた。どうせ言っても聞かないから、それ以来昭栄の好きにさせている。
 本当は心のどこかで、少し嬉しかったのかもしれない。休みがずれているから、わざわざ来ても次の日の早朝に慌てて帰らなければならないし、夜は夜でえっちができるわけじゃない。
 それでも会いに来てくれる。ただ会いたくなった、それだけの理由で隣で眠っている昭栄の存在が、何だかひどく嬉しいのだ。愛されてるなぁ、なんて、わかりきったことなのに。
 慣れない時間に起きたせいか、なかなか眠れない。寝返りを打ちたかったけれど、昭栄にがっしり捕まえられていてそれもできない。仕方なくほんの少し体をずらして、昭栄の顔を見上げた。
    こいつ寝顔までアホ面たい。
 噴出しそうになるのを必死でこらえて、まじまじと昭栄の寝顔を眺める。夢でも見ているのか、しまりなく笑んだ顔。ときどき「カズさ〜ん」などとつぶやいてはへらへらと笑っている。
 アホだなぁ〜としみじみと思って、試しに頬をつついてみた。まだへらへらしている。今度は頬をつねってみた。
「うぅん……」
 さすがに気になったようで、昭栄はゆるく首を振ってカズの指から逃れると、カズを抱きすくめるように頬ずりを始めた。今度はカズが慌てて首をすくめる。
    い、たか……!
 頬ずりをされるたびに、生えかけの無精ひげにちくちく擦られて痛い。カズはこれがひどく苦手だった。しかし寝ている昭栄はお構いなしに、更にすりすりと頬を寄せてくる。
    痛かっちゅーとろーが!!
 それでも明日早く起きなければならない昭栄を起こすのはかわいそうで、何とか距離をとろうと胸を押すが、びくともしない。
    くそ、無駄に鍛えよってからに……!!
 すりすりちくちく、繰り返される刺激に、カズは耐えかねて声を上げた。
「だぁあっ、いい加減にせろーーー!!!」
「ごふっ!!」
 無防備なあごをカズのこぶしに跳ね飛ばされた昭栄は、ベッドから転がり落ちる。突然の事態に全く頭が回らないようで、あごを押さえてきょろきょろと辺りを見回している。
「カ、カズさん!!雷、雷が落ちよったですよ!?あ、地震かもしれん!!はよ避難せんと、カズさん!!」
 布団に包まったカズの背中を必死で揺すって訴える昭栄に、カズはこらえきれずに噴出した。
「ア、アホじゃ……雷?しかも地震って、ぶふっ!ありえんっちゃろ!!」
 げらげら笑うカズにやっと天変地異ではないことに気づいた昭栄は、脱力してベッドに顔を伏せる。
「なん、も〜……カズさんひどかよ〜!びっくりすっとでしょ!!」
 まだ笑い続けているカズに、昭栄はむっとふてくされて、ベッドによじ登った。もう一度布団に入って、笑いに震えるカズを背中からきつく抱きしめる。
「ショーエ、苦しか!」
「カズさんが意地悪やけんお仕置きですと!!」
 そう言ってこちょこちょとカズのわき腹をくすぐる昭栄に、カズは笑いながらじたばたと暴れだした。
「やめ、ショー、ぶはっ!!はは、くすぐった……!!」
「カズさん、ごめんなさいは〜?」
「アホ、なん言……っはは、も……っいい加減にせろっ!!」
 頭をごつっと殴られて、やっと昭栄の手が止まる。笑いすぎてぜいぜいと息をつくカズを抱きしめて、さらさらの髪に口付けた。
「どこぞのアホのせいでちかっぱ疲れた……」
「かわいそうっちゃね〜。誰がそげんひどかこつしたと?」
 お前だ!と軽く頭突きをされて、ひどいひどいと声を上げながら、昭栄の顔は緩みっぱなしである。今度は抵抗せず、腕の中に納まっているカズの後頭部に頬を寄せる。
    はぁ、かわいか〜。
 多少無理してでも会いに来たくなるのは、カズと過ごすなら、こんな他愛のない時間も大好きだからだ。じゃれあって笑いあって、楽しそうなカズの顔が見られるだけで嬉しくなる。
「俺こげんしとーだけでちかっぱ幸せです!」
 もう一度髪に口付けると、カズが回された昭栄の腕に頬を寄せた。自分だって嬉しい、そう口では言えない代わりに。
「えへへ〜……カズさん大好き。」
 調子に乗った昭栄の手が、カズのトレーナーの下に入り込もうとする。むっと眉根を寄せたカズは、その腕を思いっきりつねった。
「なんこの手は。なーにが、こげんしとーだけで幸せとや?」
「あれ、どげんしたとでしょうね?手が勝手に動いとーよ〜。」
「アホ!!」
 叱られたけれど、昭栄は悪びれもせずに手を進める。ただ純粋にじゃれあうだけの時間だって大好きだけれど。
    だって、やっぱりそれだけじゃ我慢できんもん。
 たまにしか会えないのだから、せっかく会えたときくらい、恋人と甘いひととき〜なんて期待してもいいじゃないか。
「やめ、ろ!お前明日」
「明日は午後から練習になりました。カズさんは明日お休み。だけんよかでしょ〜?」
 いいわけないだろ、と言おうとして。すでに昭栄が止まる気がないことに気づいて、カズはため息をついた。
「……ほんっとアホ犬っちゃね……。」
 明日が試合ならば問答無用でやめさせたのだが、明日は練習らしい。そもそも試合前夜にここに来たら、即追い返しているけれど。昭栄だってそこまでバカじゃない。
 もう一度ため息をついて、カズはあきらめて体の力を抜いた。
「……一回だけやぞ。」
 眉根を寄せたまま、振り向いて見上げるカズの言葉に、昭栄は幸せそうに笑う。
「好いとーよ。」
 そうささやいてキスをした。


2006,功刀一生誕企画様に載せていただきました。
お題提供:【Air.】(master/yuki様)日常的な10のお題