■ 可 愛 い お と な で 5のお題 (1141様)

1.そんなことで拗ねないでくださいよ
トントンと手際よく朝食の皿を並べて、小十郎はエプロンを外して振り向いた。
食卓には、小十郎の保護者兼後見人兼恩人、つまり血縁関係はないがかくかくしかじかの理由あっての同居人、政宗が座っている。
焼いた餅のごとき膨れた頬を主張して。
「……オムライスには『まさむねさま(はぁと)』って描いてくれって、いつも言ってるのに」
「早く食べてください片付かないでしょう。」
小十郎の頑固者!とぶすくれてスプーンをくわえる、この大きな子どものような人とのやり取りから、誰がわかるだろう。
「あんた一体いくつですか!40も近いおっさんが小学生相手に駄々こねない!」

2.ああまたそんなに散らかして
政宗の仕事の詳しい内容を小十郎は知らないけれど、彼が会社の中でも重要なポストにあり、相応に忙しい身の上であることは、一緒に生活していればすぐにわかった。
ついでに、あまり強くないくせに酒好きで、いわゆる飲みニケーションというやつを思いきり楽しんでしまうおかげで、あれやこれやひっきりなしにお誘いがあるせいで余計に帰宅が遅くなりがちであることも。
だから、その日玄関先からゴトンだのドサドサだのガツゴツだの、日付が替わって久しいこの時間にあるまじき物音が聞こえても、小十郎は慌てなかった。
くしくしと目を擦りながら廊下へ向かえば、玄関先から、くつやらかばんやらジャケットやらネクタイやら、ぽいぽいとあちこちにあべこべに放られている。ついでにぶつかって落ちたと思しきディスプレイ用の小物やら何やらも一緒になって散らばっている。これもいつもの大惨事だ。
お土産とおぼしき紙袋だけは手に持って、だらしない格好で廊下に転がっている政宗に近付けば、
「こ〜じゅ〜うろ〜う。たらいま〜」
うひゃひゃというのかうへへというのか、力の抜けきった明るい笑いでぎゅうと抱きしめられた。
酒臭いタバコ臭い女臭い。これからこの場の片付けだなんて、眠いのにたまったもんじゃない。それでも、まぁ。
「……おかえりなさい。今日も一日、お疲れ様でした。」
うん、と笑った政宗が、自分を育てるためにどれだけ奮闘してくれているか、わかっているから。

3.何ですか、そのきらきら輝く目は
新しい服を買ってやる、と休日に連れ出されて、デパートの中をあれもこれもとうろつく政宗の後をちょこちょこと追っていた。
まだ背も小さくて、手足もひょろっとしていて、子どもそのままの大きくてクリクリのたれ目で、そんな少年が、エネルギッシュな働く男的魅力溢れる男性と、休日に一緒に子供サイズの服を見ていれば、
「素敵なお父様で、いいわね。ぼっちゃんも賢そうだし、お父様に似たのねぇ」
にこにことそう言う店員がいたとしても、別に仕方のないことだと、小十郎はわかっている。
「小十郎、俺、お前のお父さんに見えるってよ!賢くて可愛い小十郎に似た賢くて素敵なお父様だってよ!やべぇたまんねぇな!もっと親子に見えるように、とりあえず手つなごうぜ!パパって呼んでもいいんだからな?」
わかっているけれども、これだけ過剰にはしゃがれたら、ちょっとくらい恨んでも許されると思う。

4.駄目ですったら駄目です
「大丈夫だ、小十郎。お前に迷惑はかけないから。」
「だから、駄目だって何回も言ってるでしょう」
「何でだよ!」
「何ででもだよ!有給とって遠足についてくるなんて不気味なこと、されるだけで迷惑だよ!」
遠くでビデオ撮影するだけなのに…と未練がましく呟く政宗に構わず、小十郎は憤然と自室に戻って行った。
ていうか部下に謝れ!!

5.本当に嬉しそうに笑いますよね
おいでおいで、と手招きされて、ソファに座る政宗のそばへ寄っていく。ひょいと抱き上げられて、膝の上に座らされた。ぎゅむーっと抱きしめられて、かいぐりかいぐり頬ずりされる。
「あー、極楽ごくらく♪」
見上げれば、会社ではその鋭さに社内がピンと引き締まるらしい鋭いつり目が、ほにゃ〜んと緩んでいた。
「……お仕事、大変ですか?」
「んー?ふふふ」
大きな手が、何度も何度も、優しく小十郎の頭を撫でる。
「仕事ってのは大変なものだからな。でも俺には小十郎がいてくれるから、ラッキーだよな。こうして幸せ充電できる」
だからちゅうさせろー!と頬や頭にむちゅむちゅ唇を押し付けてくる政宗から逃れるフリをして、小十郎は政宗の胸に深く顔を埋めた。
こんなに優しいこの人に、無理をさせて、苦労をかけて、それでも一緒にいていいのか。
小十郎のちっぽけな手では返しきれない、大きすぎる愛情に泣きそうだ。本当に聞きたいことはまだ聞けない。