俺たち同盟国!〜真田主従編〜


 苛烈だった陽はやわらかく降り注ぎ、吹く風がひやりと背を撫でる。
 そんな秋も深まってきた頃合、奥州では迫る雪の季節に備え、
「かったくらどのぉおおおお!!!」
「うるせぇー!!すぐ目の前にいるのに叫ぶな、鼓膜が破れるだろうが!!」
 ……少々賑やかな日々を過ごしていた。

 この夏紆余曲折を経て同盟を結んだ甲斐・武田とは、友好的な関係が続いている。信玄の名代として真田幸村、お目付け役の猿飛佐助は既に何度か奥州へ来訪しており、確かに雪が深くなる前にもう一度向かわせると手紙も来ていた。
 真田が来ると何かにつけ政宗殿勝負!とうるさいが、当の政宗は不敵な笑みで楽しげに応じているし、そのために政務もちゃかちゃか片付けてくれるので、小十郎も小言を控えるようにしている。
 今日も政宗は早々に起き出して、政務は数日分前倒しで片付けたのだからいいだろうと、朝から竹刀を振っていた。小十郎が畑に向かっても、いつもの文句も出なかった辺り、相当楽しみにしていたらしい。
「いやーごめんね右目の旦那!うちの旦那は興奮するとすぐ声張っちゃう癖があってさぁ。悪気はないんだよ、ほら旦那、ちゃんと謝る!」
「うむむ……申し訳ござらぬ。某、片倉殿にいただいた野菜について、謝辞を申したくつい……」
 ぺこぺこと頭を下げる佐助と、しょんぼり項垂れてしまった真田。二人の様子に、小十郎はやれやれとため息をついた。
 敵ともなれば厄介すぎるこの主従だが、こうして和やかに面していると、一種牧歌的なその様子に毒気を抜かれてしまう。頑なに「同盟国の使者殿」への態度を崩さなかった小十郎も、今ではすっかり地のままである。
 特に佐助に対しては、やんちゃな主に振り回される姿につい共感を覚え。伊達印の野菜を分けてやり時々は愚痴に付き合い、互いの苦労を労い合い。周囲に「おかん同盟」などと呼ばれる程に親しくなっていた。
「……ん?おい猿飛、何だお前その背の荷物は。」
 ここは政宗から賜った小十郎の畑。城にいる国主へ挨拶をしてから来たならば、当然賓客用の部屋を与えられるのだから、そんな大きな風呂敷を背負っているはずがないだろうに。
「それがさー、真田の旦那が……」

「Hell Dragon!!!」
 響き渡る轟音と共に、近くの木が一本、丸焦げで倒れた。
 青い雷の軌跡を辿れば、それはもう不穏な目つきでこちらを睨む、政宗(六爪完全装備)の姿が。

「「…………」」
 何をそんなに怒っているのか、想像できてしまった従者たちが言葉を探して沈黙する中、
「政宗殿、名乗りもなくいきなり固有技とは、危ないでござるよ!!」
 真田は腰に手を当て、どこか得意げに注意してくださった。
「てめぇえええ誰のせいで俺がこんな機嫌悪いと思ってんだこの×××!!!」
「わーっわーっ!!異国語わかんないと思って旦那に変な言葉教えないで!!」
「政宗殿、目の前にいるのだから落ち着いて話しましょうぞ。片倉殿の鼓膜が破れたら如何される」
「真田てめぇ、お前と俺を一緒にすんじゃねーよ!!お前の叫び声城まで聞こえてんだよ馬鹿が!!」
「なんと!?某は馬鹿ではござらぬぅううう!!!」
「Ha-n?どう考えても馬鹿だろ」
「ふぐぅ……ば、馬鹿って言った方が馬鹿でござるぁ!」
「って言う奴がもっと馬〜〜〜鹿」
「やめてぇええ竜の旦那やめてぇえええ!!!」

「 う ・ る ・ せ ・ え !!!」
 ピシャーーーン!!!


 より白みを帯びた小十郎の雷に当たり、プスプスと音を立てながら正座する三人を前に、小十郎は眉間をひくつかせながらも乱れた髪を撫でつける。
「まず真田!」
「はっ、はいでござる!!」
 シャキン、と背筋を伸ばす若虎に、竜の右目が一喝。
「いくら好敵手を名乗っても、政宗様は国主であらせられる!!信玄公の名代を預かる身で政宗様への挨拶よりも先にここに来るなんざ、武田は奥州の竜を軽んじたと見られても仕方のねぇ失態だぞ!!」
「も、申し訳ござらん……」
「小十郎……!」
 反省しきりといった様子で俯く真田とは反対に、政宗は隻眼に喜色を浮かべた。その国主を並べて正座させているのはどうなんだと思わないでもないが。 
「み、右目の旦那。確かに軽率だったけど、旦那はただ野菜のお礼が言いたい一心だったんだよ。」
「某、あれ程に野菜を美味と感じたのは初めてのことでござった故。道中片倉殿の畑を見たらつい、この感動をお伝えせねばと……」
 二人の言葉に、小十郎の表情から少し険が薄れる。手塩にかけた愛する野菜を誉められれば、悪い気はしない。
「……そうか。その気持ちは嬉しいが、道理というものがある。猿飛、こういうときこそお前が主を諌めろ。信玄公が真田にお前を付けるのは、お前が最も真田に忠なる臣だからだろう?追従し庇いたてするだけじゃ、忠は果たせねぇんじゃねぇか?」
 話が自身の部下に及ぶと、真田は慌てて政宗に向き直り、がばっと手をついて頭を下げる。
「奥州筆頭伊達政宗殿!此度の失態、全てこの真田源次郎幸村が責!佐助が何度も待てと申すのを、某は……!真に申し訳ありませぬ!!」
「だ、旦那」
 一心に詫びる背中が、大きく頼もしい。ぐっと熱くなる目頭をこらえながら、佐助も同様に平伏し、主と運命を共にする決意を示した。
 突然に畏まった二人に驚いて、怒りなどどこかに行ってしまった政宗は、気が抜けた顔でひらひらと手を振る。
「Ah、別に仕置きも何もするつもりはねぇよ。もういい、気にするな。」
「政宗殿……!なんと寛容なる御心、ありがたく存じまする!!」
「いい、もういいから顔上げろ!っておい鼻に土ついてんぞ、拭いてやれ忍!」
 存外照れ屋な政宗の様子に微笑んで、小十郎もその隣へ跪く。
「ご立派でした。政宗様……そのお優しさ、正しく小十郎の誇りにございます。」
「こ、こじゅ……」
 心の底から賛辞を述べるその声は慈愛に溢れて、政宗はぽぅっと頬を染めて小十郎を見つめる。
「ですが政宗様。あなたをお諌めしなければならぬ小十郎の心、お察しくださいますね。」
「……お前は俺の、一番の忠なる臣だからな。」
 優しく目を細めて、そっと頬を包む小十郎の手。その温かさに、政宗は素直に耳を傾け。

「政宗様は、奥州の王。いくらお怒りであったとはいえ、意味を聞かれて答えるに憚るような、汚い言葉を遣ってはなりませぬ。宜しいですね?」


 あんだけ暴れてそれだけって、甘すぎるんじゃないかな。小十郎も他人のこと言えないよね。大体問題そこ?
 戻りの遅い四人を迎えにやって来て、一部始終を眺めていた伊達成実は、傍らで同様に佇む鬼庭綱元に心底うんざり顔でそう言った。



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