女子高生むねさま、今回は高1の冬のお話です。
Midnight Lover .... Monday
今度の月曜日は祝日。せっかくの三連休、土曜日は部屋の大掃除をして(こう見えて綺麗好きなんだから!いいお嫁さんになれるだろ?)日曜日はかすがや仲のいい友だちと、女だらけでちょっと遠くの水族館まで行くことになっている。
でも、肝心の月曜日の予定が埋まらない。
真田と佐助は居候先の道場で何だかあるらしくて遊べないし、慶次を誘うとナンパな集まりに混ざらなきゃいけなくて、ちょっと今のテンションと違うっていうか。
別に家でゆっくりしててもいいけど、せっかくの祝日なのにな。
そう、溢したのは別に他意があったわけじゃなかった。大好きなひとは多忙な社会人で、そんな彼と珍しく、ちょっとだけな、とは言われたけれど、とにかく繋がった電話で、一生懸命思いつく限り喋っていただけ。
それが、まさかこんな展開になるなんて!
「こ、こんにちは!まっ…伊達、です!」
押したチャイムの音は、ピンポンじゃなくて、オルゴールみたいなやわらかい音楽を奏でて。
「ちょっ、待……!!」
「うっさいすっこんでろ、いやーんいらっしゃい!!さぁ入って入って!!」
スライド式の玄関の扉が開く瞬間に何かものすごく鈍い音がして、迎えてくれたのは超笑顔の、超絶美女だった。
小十郎は普段マンションで一人暮らしをしているが、どうやら実家もすぐ近くにあるらしく。
『連休中は何かと駆り出されて実家にいるんだが、何なら遊びにくるか?』
宿題でも見てやるよ、と続いた小十郎の言葉はそっちのけで、政宗が舞い上がったのも仕方のないことだと思う。
だって、まだお付き合いどころか、政宗の気持ちも伝えていないのに、いきなり実家にご招待だなんて!
もうそれからは、大掃除なんて手につくわけもなく、土曜日から無理矢理かすがを引きずり込んでファッションショー。お題はもちろん、年上の彼のご家族に好印象な服装!
ついでに日曜は、魚なんてそっちのけでお土産選びに必死になった。そこは女同士、皆も親身になってサポートしてくれて、盛り上がったテンションは絶好調。
だったんだけど。
いざメールに書かれた住所に辿り着いて、ようやくちょっと冷静になった。というか、頭に冷や水をぶっかけられたが如く、ひやーっと足元が凍り付いてしまった。
目の前には、純和風の古式ゆかしい堂々とした佇まいの家。門扉にはものすごく達筆な「片倉」の表札。白くて丸い石の敷かれた前庭に点々と続く飛び石。
出てきたお姉さんも、その後ろで後頭部を押さえて涙目になっている小十郎も、ごく普通の洋装だったから、ちょっと安心したけれど。
政宗も学校の友人たちからすれば相当ハイソなお嬢様だが、フローリングの高層マンションに姫ベッドという種類だったので、この手の所謂「お屋敷」の雰囲気には、ちょっと気圧されてしまったのだった。
「ごめんねぇ、入りにくい家で。古いくせに佇まいだけは立派で。この家からこいつが出てきたら、もう完璧そっちの筋じゃない、昔から宅急便の人とかによく怯えられてたのよぉ」
「アンタに言われたくねぇよ…っていだだだやめ!!」
お姉さん・片倉喜多さんは、うふふ〜と素敵な笑顔で小十郎の首を絞めている。逞しくて強そうな小十郎が本気で青くなって腕を叩いているのを見て、政宗は慌てて手に持った紙袋を差し出した。
「あ、あの!お…わたし、昨日友だちと水族館に行ったんです。それで、つまらないものですが、お土産です!」
差し出したのは何の変哲もないよくあるご当地印のクッキーだったが、喜多は小十郎をていっと放り出して、きゃあんと嬉しそうに声を上げて受け取った。
「ありがとう!私ここの、イルカのミッツーとヤッスー大好きなの!嬉しい〜!」
ミッツーとヤッスーは名物イルカで、人懐っこいヤッスー(体が大きい方)を天敵の如く毛嫌いするミッツー(なんか鋭角な方)が、ショーの最中、ヤッスー目掛けて水をはねまくり攻撃をしかける姿が定番として有名だ。
政宗的には何ともシュールな風景だったが、喜多はあれがことのほかお気に入りで、二匹が大阪の水族館から移ってきて以来、年に三度は見に行っているらしい。
「普通水族館にそんな何度も来ないだろ?だからあいつ、もう完全にあの水族館の係員に覚えられてて、顔パスどころか世間話して帰ってくるんだ」
お茶を淹れるわね、と席を外した喜多の姿が見えなくなると、心底疲れた顔でため息をつく小十郎。
「……なんか小十郎さん、痩せたね。」
よしよしと頭を撫でる政宗に、ぷっと噴き出して笑った、その様子が。
あ、今の表情、初めてだ……。
実家でくつろいでいるからなのか、何だかいつもより幼げで。お返しに優しく頭を撫でられながら、きゅんきゅんする気持ちを止められない。
小十郎の生まれ育った家で、ほのかないい香り(そう、いつも小十郎のコートから漂ってくる香り!)に包まれながら、ちょっと力の抜けた座り方で、前髪がはらりと額にかかっている、そんな小十郎に微笑まれたら。
あぁん、もう、ときめきすぎて死んじゃうかも!!
と思ったら、もっときゅんきゅんなイベントが待っていました。
「でねー、小十郎ったらこんな面して昔はすごい泣き虫でねぇ」
るんるんと戻ってきた喜多さんの手には、お茶とお菓子と一緒に、なんとアルバムが!
ぎょっとして奪おうとした小十郎は現在光の拳でノックダウン。伸びた小十郎の頭の下に座布団を敷いてあげた政宗は、頬を高潮させてアルバムに見入っていた。
生まれたばかりで産着に包まれて寝ているものから、成人式の写真など。歳を経るにつれて少なくはなっていたけれども、末っ子だという小十郎の写真はとても丁寧に綴られ記録されていた。
気の抜けた横顔、稚くはにかんだ顔、つっぱってプイと視線を逸らしているもの。
知らなかった彼の姿が、こんなにもいっぱい!!
どんなに見ても、見ても見ても、目を皿のようにして焼き付けても、まだ足りない!
「小さい頃はねー、母さん以外が抱っこしようとすると、もうすんごい勢いで泣いて。父さんなんて、仰け反って嫌がられたのがショックでたまんなくて、しばらく寝室で泣いてたのよ。」
喜多が指差したのは、彼女にそっくりの綺麗な女性に抱っこされて、くま耳のニット帽を被った小十郎の写真。その下の覚書には、『小十郎・二歳の家族旅行』とある。
「う、かわいい……!」
くりくりのたれ目で、むちむちのほっぺで、きょとりと首を傾げてカメラを向いているその姿は、完全に反則だった。
きゅうーっと感激に身悶える政宗に、喜多がにまにまと笑いながらページを捲っていく。
「これが三歳くらいの頃ね。ようやく懐いたのが嬉しくて、この頃は父さんがべったりだったから、そんな写真ばっかりでしょ?」
写真の中の男性は、少し面差しが小十郎と似ている。膝の上の末息子に頬ずりをして、でれでれに相好を崩している辺り、余程嬉しいのだろう。溢れんばかりの幸せオーラが微笑ましい。
小十郎さんも、お父さんになったらこんな風なのかなぁ……。
浮かんだものが何だったか、その蕩けきった顔を見れば聞かずともわかるだろう。喜多が小さく耳打ちする。
「小十郎ね、結構子ども好きよ?」
「へぁっ!な、ふぁあ!?」
んっふふふー?悪戯心たっぷりな笑みを向けられて、政宗は真っ赤になってブンブンと両手を振った。
「ち、違います!おれ、あぁあのわたし、そんなこと!小十郎さんのBabyなんて、そんなこと思い浮かべてませんから!!ほほほほんとですから!!」
否定すればするほど、口を開けば開くほど、墓穴を掘るタイプの政宗は、
「あーんもうかーわーいーい〜〜〜!!政宗ちゃん、小十郎なんかに勿体ないわ!あたしがお嫁さんにほしい〜!!」
ふっくらしたお姉さまの胸の谷間にもぎゅーっと抱きしめられて、パニックになりながらも言葉にならない言葉を上げてジタバタ。
「………………姉貴、セクハラはやめろ。」
意識を取り戻した小十郎に無事救出された頃には、混乱と酸欠で息切れを起こしていた。
その後、小十郎と一緒に夕食作りをして(実はこの日、お父さんとお母さんは出張で九州に行っていたらしい。残念なような、ちょっとほっとしたような)
小十郎が「台所に入るな」と鬼のように警戒する程に料理音痴らしい喜多は、政宗の手際の良さと料理の腕前を大絶賛してくれた。
政宗ちゃんなら、応援したげる。小十郎のこと、よろしくね?
帰りがけにこっそりと伝えられた言葉が、ふわふわと耳元で漂ってくすぐったい。
「政宗、寒くないか?」
家まで送ると隣を歩く小十郎に慌ててうなずくと、ふうと吐かれたため息が白くなって闇に浮かんだ。
「疲れただろう、あの人の相手は。昔からあの調子で、マイペースというか勝手というか……」
「でも、賑やかで、楽しかった。おれ、喜多さん好きだな!」
あったかいし、きれいだし!指折り言い募る政宗の頭をくしゃりと撫でて、小十郎は少し照れたように微笑む。
それに今日は、小十郎さんのこといっぱい知れて、嬉しかったから。
その表情にまたきゅん!と高鳴る胸で、思い切って飛びついた腕に頬を擦り寄せた。
小十郎の耳が赤かったのは、冬の寒さのせいなのか、はてさて。