*むねさま高校二年生。付き合い始めてちょっとくらいの頃の話です。
Midnight Lover .... Friday
初めてのデートの日、少しでも大人の小十郎につりあうように、一生懸命おしゃれした。背中の大きく開いたワンピースと10cmヒールのパンプスで、お化粧もちょっと色っぽく。
これで大学生くらいには見えるかな?ちょっとは喜んでくれるかな?ドキドキしながら待っていたのに、小十郎は政宗を見るなり眉間に皺を寄せて、不機嫌に黙ったまま真っ先にデパートに連れて行かれた。
ぽかんとしながら言われるままに洋服をとっかえひっかえ、最終的にはプリーツスカートにカーディガンなんて、制服とほとんど変わらないような格好で店を後にして。
レストランで向かい合って座ったとき、小十郎が「可愛いぞ」って満足そうに微笑んだから、それでようやくその意味がわかって泣きそうになった。
政宗は、確かにまだ高校生で、未成年の子どもだけど。
だいすきなひとがいて、そのひとのためにおしゃれをして、もっともっと愛されたいと、思うくらいにはオトナなのだ。
頭を撫でてくれる、その優しい仕種が好き。テストの愚痴も先生の悪口も、困った奴だって笑って聞いてくれる、その余裕が好き。手を繋ぐとすっぽりと包まれるその大きなてのひらが、飛び込んでもビクともしない逞しい胸が、すごくすごく好き。
でも、好きだから、ほんとうにすきだから、もっともっと、これだけじゃ満足できない。手を繋ぐだけ?ぎゅっと抱きしめてくれて、それで終わり?
おれは、小十郎が思うほど、コドモじゃないのに。
大きな手に身体を撫でられたら、どんなかんじだろう。その胸に裸のまま包まれたら、どんなにしあわせだろう。
ねぇ、おれって悪い子?
触れ合うたびに、募る想いは止められない。愛されたい触れられたい、小十郎に全部を奪ってほしい。小十郎の全部を教えてほしい。
女の子から欲しがるなんて、小十郎は嫌かな。はしたない子だって、嫌われるかな。怖いけど、でも、だって。
夏の夜、休日の前、彼の部屋で手料理を振舞って。
苦笑いの小十郎にねだって一緒に観た映画の、ずっと年上の男の人に一途に恋するヒロインが言った。
だって好きなの、何が悪いの?私が彼を好きな気持ちに、汚いものなんてありえない!
物語の結末はありがちなハッピーエンド。きっと少し前の自分なら退屈にあくびをしていた。分かりきった結末だなんて、わかった風なことを言って。
でも、今は。
あぁおれもアンタみたいに、素直に言ってもいいのかな。勇気を出して、だってこんなにも、今好きで好きでたまらないんだ!
「こじゅ……今日は、帰りたくない……」
見上げてくる潤んだ瞳と、赤らんだ頬が可愛い。小さな手がぎゅっとシャツの裾を握るのに、小十郎は思わずいつものように頭を撫でた。
小十郎にとっては、それは愛情表現で、甘やかして可愛がりたい、政宗への特別な気持ちを込めた仕種であったのだけれど。
「こども扱い、しないで!小十郎、おれのことすき?どうして、どうして……」
抱いてくれないの?なんて、今にも泣きそうな、震える声で言われたら。
駄目だ、この子は未成年だぞ。
両の腕が強く政宗を抱き寄せる。
傷つかないように、大人の俺が、守ってやらねぇと。
ぐいと顎を上げさせて、かぶりつくように唇を奪った。やわらかい、かわいい、ちいさなくち。
政宗、俺の特別な、
つるりとした歯列の奥、甘い味を追いかけて、縮こまる舌を絡めとる。擦り合わせ嘗め回し啜り上げれば、頬や頭皮をまさぐる手に伝わる熱が上がっていく。
たった一人、俺の可愛い、
「ぁ、ふ……こじゅぉ……っ!」
かわいい、まさむね。おれのまさむね。
そう、大切な大切な、世界でたった一人、幸せにしたい、俺の、政宗だ。
なんとか繋ぎ止めた理性を総動員して、ゆっくりと唇を離す。
政宗は息も絶え絶えにぽろぽろと涙を零し、小十郎の腕にしがみつくのもやっとだ。慌てて抱きかかえて背中を擦ってあやしてやると、震える指先がきゅうと胸元を握り締める。
今まで、唇を触れ合わせるだけのキスだって、数える程しかしていなかった。政宗は小十郎が初恋のひとだと嬉しそうに言っていたから、経験値なんてないに等しい。
あぁ、だから駄目だと言ったのに。
この身の内にある熱は、容易に解放してしまえば政宗を喰い尽くす勢いで暴走する。はっきり言って自分はそんなに大人じゃない。政宗は小十郎の一番優しく丁寧な心を向けられているから気付かないだけで。
政宗が大切だからこそ抑えられるものは、政宗を好きになればなるほど強くなる。ぐちゃぐちゃなくせにバランスよく成り立つ小十郎の中身を、いきなり剥き出しにぶつけられた政宗はきっと怖かっただろう。
「すきだ。好きだよ、政宗。お前が可愛くてたまらない。だから怖いんだ、俺はお前を傷つける。」
こめかみに唇を寄せて、精一杯この愛しさが伝わるように。
「乱暴にしたくない。もう少し、待ってくれないか?」
焦る必要はないだろう。どうせ俺はもう、お前を一生放してやらないんだから。
大人気ないと呆れられるかな、独占欲丸出しの声に小十郎は苦笑してしまったけれど。ふるりと伏せたまつげを震わせた政宗が、背中に腕を回して一言、
「……すきだよ、こじゅうろう。」
その甘えた声で名前を呼ばれる、ただもうそれだけで満たされた気持ちになったなんて、大の男が嘘みたいな話だが。
柔らかな髪を撫でて、額や頬にそっと口づけて、手を繋いで瞳を合わせて。そのときの小十郎は、それを見ればきっと世界中の誰もが納得してしまうだろう、穏やかな微笑みを浮かべていた。