一学期は、何だかんだといつの間にやらうやむやで、教室での思い出しか作れなかった。
夏休みは、どこぞの権力だけは絶大なおっさんたちに拉致されて、思い出どころの話じゃなかった。
そんなジャイアンが二学期になって最初にしたことが「小十郎とデートしたいしたいしたいしたい〜〜〜!!!」という駄々こねであったとしても、誰が責められるだろう。
さすがの小十郎も諫めきれない勢いと鬼気迫る形相で、政宗はとうとう休日の約束を取り付けた。
しかも、なんといきなり、片倉家訪問である!
ジャイアン、気合いを入れる!
舞い上がる政宗を後目に、小十郎はどんよりと疲れきった表情だ。
やんちゃな時代を卒業してから、家の裏手にそこそこ広い畑を作った小十郎は、学校以外の時間はいつも畑の世話に当てている。特に今はちょうど夏野菜の収穫やら秋に向けての手入れやらで忙しい。休日に遊んでいる暇なんてない。
猫の手も借りたい。この際、ジャイアンの手でもいい。
そんなわけで、「畑仕事を手伝うなら」と条件付きでおうちデートを了承したものの。
うちにはアレがいるからなぁ・・・。
片倉家に住まう恐怖の存在。アレとジャイアンが出会うその日は、人類の(とまで行くかはわからないが、とりあえず間違いなく小十郎の)存亡を賭けたエックスデーになるだろう。
思い浮かべただけで胃が痛む、気が重い予定ほど、泣きたくなるぐらい早く訪れるものである。
夏そのままの真っ青に澄んだ空が眩しい日曜日。
前日に某大人の権力を最大に行使して手に入れた限定和菓子をお土産に、政宗は待ち合わせの駅前に立っていた。
七三スーツで。
「・・・・・・ねぇ、一昔前の少女マンガじゃないんだから、そのかっこはどうなの?ていうか畑仕事するんじゃなかったっけ?」
「shut up!!ご家族にご挨拶するのに変な格好していけねーだろ人間第一印象が肝心なんだから!ていうかお前何でいるの?」
周囲にひそひそクスクスやられている政宗に、必死で他人のふりをしていた佐助はとうとうツッコんだ。
だって隣にイケメン台無しの七三スーツ(ニヤケきった笑顔のオプションつき)が延々立っているのだ。自分が他人のふりをしているとはいえ、向こうから話しかけられもせず延々と立っているのだ。
そりゃもう関わりたくはなかったけれども、関わるなというのが無理な話。むしろそれができていれば、佐助の人生の苦労のうち8割くらいは回避できていたはずだ。
さて、実は一方のジャイアンもまた、隣に立っているスーパーのおばちゃん丸だしマイバッグを持った友人の存在をできるだけ無視していた。
こちらの理由としては、何もオカン風マイバッグを持ち歩く男子高校生と知り合いだと思われたくないというわけではなく(だって今更だから)ただ純粋に、隣にいるその存在をなかったことにしておきたかったのである。
なぜこいつがここにいるのだという疑問は、そのまま嫌な予感を生んだ。聞いておいてなんだけど、できれば聞きたくないその理由。
「え、だって今日片倉さんちで畑のお手伝いするんでしょ?お手伝いしたらおいしい野菜、お裾分けしてもらえるからさ〜」
「・・・・・・・・・・・・死んでくれ、本気だ(ぼそり)」
「ちょっと何物騒なことつぶやいてんの呪いなう!?てかすっごい台詞盗られた感あるんだけど何でだろ!?」
政宗にとって、佐助は気のいい友人だ。それは今も変わりはない。変わりはないのだけれど、
「てめぇは、二人っきりにしてあげようかな〜とか気ぃつかえねーのかこのオカンが!子育てオカンが!!」
「だって片倉さんが忙しいから手伝いにこいって言ってたから!政宗だって知ってると思ってたんだよ!」
ここにきてようやく、今日のおうち訪問が「デート」ではなく「人足として駆り出された」だけだと悟った政宗のショックは計り知れないものだった。耳の奥で文字通り、ガーン!と鐘の音が鳴るほどだった。
デートだと思ってたのに、二人きりだと思ってたのに、コブつき!!
衝撃の事実にガーンガーンと打ちのめされている政宗は知らない。
ある種ライバル関係にある元親も珍しく「来てもいいぞ」と言われていたことも、伝説のアニキからのお誘いを元親が更に珍しく光速でご遠慮願っていたことも。
半裸ヤンキーを従える漢が「俺は怖いから死んでも行きたくない」とぷるぷる震えるほど恐ろしい何かが、この先に待ち受けているのだ。