ドンガラガラガラガシャーン!!ガツゴツ!
「何事だ!?うるさいでござろう!!」
「ハイハイ旦那、余所見しない!片倉さんの鬼指導受けたいの?」
「小十郎っ、ここの長文訳完璧だろ?」
「んー……あぁ、いいですね。他に課題は?」
ボコパコ。カラカラカラ……


ジャイアン、思いやりを知る!


「ってちげぇーーーーだろ!!何で誰も俺を心配しねぇんだよ今すっげ痛かったのに!?陰険ヤロウに不意打ちされてすっげ可哀相なのに!?」
 たんこぶだらけの元親が涙目で起き上がり主張する。
 勉強中に破壊音と共に登場なんて、それは迷惑な行為だったろう。でもそれは元親のせいじゃない。元親はちゃんと、声をかけるタイミングを図って待っていたのだ。
    一言、大丈夫か?ぐらいあっても!
「なんだ、うるせぇと思ったらお前かよちかべ。片付けしとけよ」
「いい?bは餡団子、dはみたらし。この図のとこに最初に書いとけば絶対間違えないでしょ?」
「うぉおおさすがは佐助ぇ!!」
「おい、騒ぐならてめぇも教育的指導だぞ。嫌なら真田と一緒に宿題しやがれ。」


 翌日、ヤンキー二人に世紀末おばかの一年代表・困ったトリオが揃って宿題をきちんと提出したことに、教師陣が泡を吹いて気絶したり明日の我が身の無事を神に祈ったり狂喜乱舞して今夜の打ち上げの席を予約したりしている中。
 昼休みの屋上は違う意味で賑やかだった。
「だーかーら!!お前とアニキはどういう関係なんだって聞いてんだろ!?」
「てめぇこそ何なんだよ!!俺のhoneyを勝手にアニキとか呼んでんじゃねぇ!!」
 がるるると牙をむいて睨み合う眼帯二人。普段から一般生徒があまり目を合わせないようにしている程眼光の鋭い彼らがお互い本気でメンチを切る様は、非常に物騒なものがある。心なしか空気まで肌に痛いようだ。
「勝手にじゃねぇ、俺はもう何年も前から片倉のアニキをアニキって呼んでんだ」
「Ha!だったら俺は生まれた瞬間に小十郎と赤い糸で結ばれてたな」
「はぁあああ!?」
「あ゛ぁあん!?」
 いや、痛かった。別の意味で。

 やんのかこら表出ろこらと威嚇を続けている二人の間では、小十郎が半ば意識を無にして弁当を食べている。
 密かに『変人の巣窟』と呼ばれあまり人が寄り付かない屋上へ、自分の縄張りだと競って誘いに来た眼帯コンビに無理矢理連れ去られた。小十郎はその瞬間に平和な世の儚さを悟っていたから、頭上の言い合いにも微動だにしない。
 一応共に昼食の席を囲んでいる真田と佐助に至っては、重箱をがっついたり携帯を弄ったり、見事に我関せず。
 そんなこんなで延々と続く一方通行にさすがに疲れて、二人はどっかと座り込んだ。
「O----kay、仕方ねぇ。ちぃっと腰据えて話しようじゃねぇか?」
「望むところだぜ。これじゃ埒が明かねぇしなぁ?」
 バチバチと散る火花。政宗は腕を組みぐいと胸を張って、元親は崩した足に腕を乗せて前屈み。姿勢は対照的だが柄の悪さはそっくりである。
「とりあえずよぅ、お前は昨日何でアニキに勉強教わってたんだ?」
 まずはわかりやすいところから、とトーンを落とした元親に、重箱から顔を上げた真田が親切に教えてあげた。
「はたふらどふぉは、まはむぇふぉのの、はていひょうひへふぉはぅ!!」
 頬袋ぱんぱん状態だったが。
「……そうそう。片倉さんはねー、政宗とはちょっと前に知り合って、まぁ色々あって昨日からカテキョをやってるってわけ。」
「かっ、カテキョ!?アニキがかよ!?」
「はぁらはっきはらほういっひぇうへふぉはろう」
 自分の話を聞いてるのかと不服そうな真田には構わず、元親は羨ましいとかこいつには勿体ねぇとか一人で騒いでいる。キモチワルイ興奮具合だ。
「Hey、そういうてめぇは何なんだよ?小十郎の知り合いだったのか?」
 イライラと眉根を寄せる政宗の言葉で自分の世界から帰還した元親は、一転得意げに笑ってみせた。
「俺はよ、まぁ言うなれば弟分っつーか、後継者っつーか。アニキのことは四年前から知ってんぜ!」

 四年。四年というと、元親はまだ小学生、小十郎が中学生である。予想外の年月に、さすがの政宗もぎょっと目を見開いて固まった。
「な、なんだよそれ」
 思わず声が震えたが、無理もない。だって四年だ。政宗と小十郎には、初めて出会ってからも二週間程度、ちゃんと知り合ってからはたった数日の歴史しかないのに。
「あぁ、お前地元こっちじゃねぇもんな、知らないか。アニキはよぅ、俺らにしたら伝説の人だぜ!なんたってチームの……」
「長曾我部」
 やめろと不機嫌そうに言った小十郎に、むぅと子どもっぽく膨れる様にも、気安さが滲んでいるように見える。
    俺、小十郎にそんな風に我侭、まだ言えねぇよ……。
 政宗は自分の中にある遠慮に気付いて何も言えなくなった(口に出していたら佐助など顎を外す勢いで驚いただろうが)。
 俯いた政宗に、佐助と真田は視線を交わす。が、もっふもふと咀嚼を続けている真田は役に立たないし(頬袋が空であっても結果は同じだったかもしれない)かと言って佐助が割り込もうにも、テンションの上がっている元親は伝説のアニキしか見ていない。
「大体、アニキも冷てぇじゃねぇか!同じ学校に入ったから挨拶しに行っても、全然見付からねぇし」
「……ときどき柄悪ぃのが訪ねてくるって、お前か。」
「昨日だって俺のこと完全に無視してたろ!政宗ばっかり構ってよぉ、俺だってアニキの後輩だぜ?」
「うるせぇな……そもそも、アニキってのやめろ。俺はもうてめぇのチームにゃ関係ねーだろうが」
「何でだよ?引退したってアニキはアニキだ!」
 どんどん機嫌が悪くなる小十郎に、まるでわんこが大将を慕うような目で食い下がる元親。雲行きの怪しさに慌てて、無理矢理にでも引き離そうと佐助が身を乗り出しかけたとき。

 一歩早く動いたのは、言葉もなく落ち込んでいたはずの政宗だった。
「元親、いい加減にしとけよ!小十郎が嫌がってんじゃねぇか!!」
 きっと顔を上げて、小十郎を背に守るように前へ出て、元親を押し退ける。
「四年前からの弟分だか何だか知らねぇがなぁ。誰にだってベラベラ喋られたくねぇ、触れてほしくねぇことはあるだろ!」
 そう、政宗は気付いたのだ。
 元親は確かに、政宗よりもずっと前から小十郎のことを知っているし、まだ政宗が知らないこともたくさん知っているだろう。
 けれど、小十郎の様子はどうだ。元親が昔の話をしようとする度、ぐっと眉間に力を込めて、逸らした目は苛つきに濁っている。吐き捨てるような物言いだって、らしくない。
 政宗と話すとき、小十郎はいつもまっすぐに瞳を向けてくれる。色の薄い澄んだその目がどれほど綺麗か、政宗はよく知っていた。口は悪くても、言うべきことはきちんと相手に伝わるように説明してくれることも。
 突然の家庭教師の依頼だって、結局は受け入れて真剣に向き合って誉めてくれる小十郎が、こんなにも嫌がることなら。
「アンタの大好きな『アニキ』の伝説なんか、俺は知らなくていい。俺が好きなのは、小十郎だから」
 年月なんて関係ない。
    俺の方がずっとずっと、小十郎を大切に想ってる!
 要は、どれだけ『小十郎』その人への愛情に溢れているかってこと。


 元親に向かってだったけれど、今のは正真正銘の告白だ。政宗は振り向いてじっと小十郎を見つめた。
「……政宗」
 小十郎は驚き、戸惑った顔をしつつ、でも政宗の本気は読み取ってくれたらしい。今までのように仕事として政宗の言動を流すことはしなかった。
「どうして、俺なんだ?」
「Ah?何度も言ってるだろ、運命だからだ!」
 それでも、間髪入れずに返ってきた答えには、到底納得もいかなくて。
    案外こいつのこういうところ、嫌いじゃねぇが、な。
 ふぅと息をついて、浮かんだのは微苦笑。
「……とりあえず、ヤニくせぇ奴とは付き合えねぇな。」
 キスしたくねぇだろ?意地悪に片眉を上げてみせた小十郎に、政宗の顔がざっと青くなる。ポケットの煙草とライターをぽいぽいと放り捨てて、
「禁煙する!もう吸わない、約束するから、小十郎〜〜〜!!」
 屋上を後にする背中を追って、一生懸命に訴える政宗の声が、だんだん遠ざかりながら響くのに。
「………………え?政宗の好きって、そういうこと、なんデスカ?」
「え、チカちゃん知らないで張り合ってたの?」
 あれじゃ完全に誤解されてるよーバカだねぇ。固まる元親を哀れんで手を合わせた佐助に、真田はまだもっふもふと咀嚼を続けながら首を傾げた。
 結局一体何の話だったのか、よくわからなかったので。



ジャイアンは、思いやりの心を、覚えた!
効果:こじゅうろうに、やさしくする

ひとが嫌がることはしちゃいけません。 しかしお前にだけは言われたくねぇよ!とも言えず、結局アニキは不憫なまま(笑)
これにて第一部完。
二人の恋の行方は、全力で被害者な友情模様を含め、待て次回!です!

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