女教師むねさまと転校生小十郎シリーズそのに。


○佐助くんと女教師むねさま。
俺様のクラス担任・伊達政宗先生(女性)は、なんかいろいろ変わっていると思う。
教師としても大人としても、風紀的に如何なものかなドケバい服装や派手派手ネイルにピンヒールなとことか。
クラスのある教え子に公然と恋して堂々とセクハラを繰り返しているとことか。
理事長を筆頭におかしな先生ばかりの学園だから、特に誰も問題に思ってないのかな?ともかくフツーの学校じゃまずPTAと戦争起きそうなアレコレがあったりするんだけど。

伊達センセが恋してる教え子くんの親友な俺様は、案外この人嫌いじゃないんだ。
っていうとすぐ「これだから男子は」とか言われるけど、別に変な目で見てるわけじゃなくてさ。
例えば、そういや今日はひなまつりだねーと言ったら、
「まぁな、でも先生はお雛さま飾ってないぜ?片付け忘れたら婚期遅れるって言うだろ、おれはいつでも小十郎の嫁になれるように端から飾らないことにしたんだ!なーこじゅvvv」
てかそもそもセンセの歳でひなまつりはなくない?とか、ツッコみたいけどまぁそこは置いといて。
あそこまではっきり一生懸命で一途な姿見てると、なんか応援したくなるんだよね。
まぁ、ほら。俺様の親友もね・・・いい奴だけどちょっと変わってるから。あ、それは知ってる?そうなんだよねー。
でもさ、凸凹しつつナイスカップルだと、俺様は思う。最近ちょっと、二人の仲を応援してみたりしてるんだ。
進展があったら教えてあげるよ、二人を応援する仲間じゃない。特別君だけ、無料にしとく。


○女教師むねさまとはんべ先生。
ふんふん♪軽快な鼻歌とともに、政宗は鏡の前で化粧をしていた。
女に生まれたからには、美人でありたい。そして愛する人に誉められたい。
「『先生、毎日きれいですね』…なんてな!もうっこじゅったら照れんなよSo cute!」
念入りに手入れをし飾り立てつつ、一人で喜んでくねくね照れるのは、最早政宗の日課。そうして気分を盛り上げて、元気に出勤する。これが毎朝のお約束である。
のだが。
「やぁ政宗くん、今日はいい天気だね」
「……本当に。朝から嫌な顔見なくてすめば最高だったぜ」
正門でばったりと出会った二人は、きれいな顔ににっこりと微笑みを貼り付けた。
「そういえば気になっていたんだけど、最近化粧が薄くなったんじゃない?ようやく立場ってものを理解したのかな」
「Ha-ha!誰かさんと違っておれは若いからな、塗りたくんなくても綺麗なんだよ」
「へぇ、年甲斐もなくギャルみたいにケバケバしくするしか脳がないと思ってたけど、成長したんだね」
「まぁ、最近はnaturalが流行りだし?ところでその紫に近いどピンクのRouge、今時買う人いるんですねぇ」
にぃいっこり。
笑顔の二人の周りには、爆ぜる雷光と蠢く闇のオーラ。
暫しそうして張り合った後、紫の眼鏡が特徴的な、地学教師・竹中半兵衛はフンと背を向け、
「まったく、こんな非常識な担任のクラスでいいなんて、片倉くんは向上心に欠けているよ」
見事に政宗の逆鱗を突く捨て台詞を残し、社会科教員室へと去って行った。

「こじゅ!いいか、絶対あんなケバ年増紫女の言うこと聞くなよ!目も合わせんな喰われるぞ!」
伊達先生と竹中先生の不仲は以前から有名だが、政宗お気に入りの小十郎を竹中が自身の受け持つ特進クラスに勧誘したことがきっかけで、最近めっきり犬猿の仲だ。
教室に駆け込むなり、きぃ!と眦を吊り上げて小十郎にタックルする政宗は、色々な意味で相当に御冠である。
「・・・先生、他人のこと言えないでしょう」
「なんだよ、おれはケバくないだろっ!お前が何で学校にそんなケバい化粧で来るんだって言うから、ちゃんとがんばってるのに酷い!」
「いや、そっちじゃなくて」
そもそもちょっと化粧が薄くなったからといって、紫を基調にしたコーディネイトな竹中にも派手さじゃ全く負けていないし、竹中と政宗の年の差は5つ程度だったはずだし、何より小十郎を真っ先にとって食おうとしているのは他ならぬ政宗なのだが。
「なぁ、小十郎はチーク、ピンクとオレンジどっちが好き?」
気を取り直したのか、長い睫毛をパチパチさせて小十郎を見つめ、
「・・・今日の色の方が、似合うと思います。」
きゃあんとなついて喜ぶ姿の素直さに負けて、誰一人口に出してはツッコめなかった。

○女教師むねさまと転校生の出会い
それは桜も散り緑が濃くなり始めた、5月の頃だった。
襟ぐりの広い白のシャツはパリッと決まって、まつげのカールもいいかんじに仕上がり、政宗は上機嫌。こんな気分のいい日には、何かいいことがあるに違いない。
  そう、たとえば…
お気に入りのストーンを散らした変形フレンチのネイルチップで飾った指でひょいと一枚の書類を摘む。
「片倉、こ・じゅう・ろう、ね……」
時期外れの転校生。今日から政宗の教え子になる少年は、鳴り物入りの不良だと噂があるようで。事実添付された写真を見れば、不機嫌そうに少し逸れた視線も、寄せられた眉間も、左頬の傷も、なかなか雰囲気があるではないか。
でも。
「ふふん、結構cuteじゃねーかv」
このくらいの年齢なら、ちょっとくらい反抗してる方が可愛いというもの。政宗のピンクベージュのグロスで象った唇は、楽しげに弧を描いていた。

「片倉小十郎です。よろしくお願いします」
「oh・・・たまんねぇ低音voiceだな!」
校長室で引き合わされた小十郎は、背もちょうど政宗より頭一つ分高く、写真で見るより色の薄い瞳と、年齢にしては渋く落ち着いた響きの艶声で、何と言うか、ものすごくおいしそう。
思わずくふっと笑みを漏らした政宗に、学年主任の竹中教諭がキッと視線を鋭くした。
「政宗くん、君は……」
「おっと、そろそろHR始まるか。片倉クン、センセイと一緒に教室へ行こうな?」
嫌味を言われる前に、とさっさとそこを後にして、教室へ向かいがてらあれこれ小十郎に説明をして歩く。小十郎は見た目より従順に、指差された先に顔を向け、相槌を返しながらちゃんと話を聞いていた。
  案外真面目だな。それに頭も悪くない。
「…と、まぁ詳しい設備なんかは、世話焼きの奴がクラスにいるから、案内させるとして。何か聞きたいことあるか?センセのスリーサイズはまだ内緒だぞv」
「そうですね、とりあえず今日の時間割を」
  …あと、ちょっとノリ悪ぃな。
色気たっぷりのウインクをサービスしてやったというのに、何事もなかったかのように動じず、さらっと真面目に質問を返してきた小十郎に、ちょっとむっとする。
「あー、時間割表な。どこ入れたっけな〜…」
何だよ、ちょっと男前だからって思春期少年が余裕ぶっちゃって。言っとくけどおれはその辺の女とは違うんだからな、いくら好みのタイプでも生徒なんて範囲外だし、そんな簡単じゃないんだから!
ぶつくさぼやきながら手荷物のプリントの束をガサガサ漁っていたら、

ボキッと硬い音がして、
がくん、と浮遊感。

膝から力が抜けて後ろに倒れ込みそうになって、でもすぐに身体が安定した。
しっかりと筋肉のついた、それでもまだ若木のような伸びやかさのある、少し高めの温度がとても肌に心地いい、小十郎の腕の中に包まれたから。
「…大丈夫ですか?」
響く低音に一瞬目を閉じそうになって、チャイムの音で我に返る。
「お、おぅ!いい身体してんなThanks…ってプリントが!おれのヒールが!!」
足元にバラまかれたプリントやら、カツンコツン鳴る音が気に入っていたヒールがぼっきり折れて転がっている様やらにぎゃっと頭を抱えた政宗に、
「今の、予鈴ですよね。急いで拾って行きましょう。とりあえず俺のスリッパを履いてください」
冷静な小十郎はてきぱきと、政宗の足元に自分の上履きスリッパを揃えて置いて、鞄からコンビニの袋を取り出してパンプスと折れたヒールを仕舞い手渡して、さっさとプリントを拾い集める。
あまりに手際がよすぎて、政宗が立ち直り手伝う前に、小十郎の作業は終わった。
すくっと立ち上がると、何か言おうと口を開いたままぽかんとしている政宗をじっと見つめて、
「…先生、校内で10センチ越えのヒールなんて、やめた方がいいですよ。廊下は滑りやすいし、階段もあるし、転んで怪我したら危ないでしょう」

まぁ、俺が言うのもお節介な話ですけど。ぽつんとそう付け加えて、また何事もなかったかのように廊下を歩き出す小十郎の、その背中に。
  ……きゅん!
胸の高鳴りが止まらない。だんだん顔が熱くなって、指先がふるふると震えてしまう。
あぁ、まさか、そんな、10も年下の少年に、あんないい声でお説教されるなんて!危ないでしょう、なんてそんな、まるで妹に言い聞かせるみたいな優しい言い方!

今まで、その美貌と姿態で数多の男を虜にしてきた政宗にとって、自分の自由にならないばかりか、小言なんて言ってくる男に出会ったのは初めてだった。
「どうしよう、おれ……クセになりそう……v」
かくしてこの瞬間から、担任の先生と転校生のちょっとおかしな学校生活が幕を開けたのである。


……ってM疑惑かい!(笑)


○女教師むねさまの三者面談
カラリと教室のドアが開いた瞬間、二人の間で時が止まった。

今月は毎年恒例の三者面談シーズン。
来年受験生となる高校二年生にとっては、この一年はとても大事だ。中には本人より家族の方が躍起になっている家庭もあり、波乱万丈に面談が進む中、とうとうこの日が訪れた。
片倉小十郎の面談日。
政宗は清楚な白ジャケットに、いつもよりちょっと長い丈のスカートで、気合万全に待機していた。
  将を射んとすれば馬。
とりあえずご家族に好印象を与えておけば、先々必ず事を運びやすいのは間違いない。
小十郎からは、「多忙な人ばかりなので、誰が来るかわからない」と言われている。父か、母か、それとも祖父母か。獲物を狩る鷹の目で笑んだ政宗は、蛇か鬼でも出るかのように意気込んでいた。

そして、冒頭に戻り。
「………、まさむね…ちゃん?」
「喜多さん、なのか……?」
時が再び流れ出して、互いに押し出すようにお互いを確認。
間違いなく目の前にいるのが知り合いだとわかり、それに纏わる諸々のエピソードが走馬灯のように駆け抜けていく。
「…政宗ちゃん、あなたの話してたの、まさか……」
確かに、出た。蛇や鬼よりもっと、ずっと厄介な存在が。


「……そうですか、片倉くんのお姉様。しかし、確か初めてお会いしたとき、姓を正岡と名乗っていらしたように思うのですが」
「ええ、正岡喜多ですわ。少々事情がございまして」
「事情、というと?」
「込み入った話です。この子を徒に傷つけたくはありませんので」
「申し訳ありませんが、私も片倉くんの担任として、きちんとお聞きしておかなければならないので」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

ぴしぴしとぎこちない笑みを向け合う女性たちの横で、いつも通り内面の読めない平然っぷりで座っている小十郎は、気付いているだろうか。
にぃいっこり、微笑み合うと、二人の視線が一斉に彼に向けられた。
「ねぇ小十郎、こちらの先生、お姉ちゃんのことを疑っているみたい。忙しい中を可愛いあなたのために駆けつけたっていうのに、酷いわねぇ」
「小十郎!お姉さんは何か隠したがってるみたいだが、先生を信じろ。お前が悲しくなるようなことにはしない、絶対に守ってやるから、安心して話していいんだぞ?」
喜多が悲しげに小十郎の左腕を引き寄せれば、政宗も真摯な様子でぎゅっと彼の右手を握る。そのままちろりと横目で互いを見合う、その様子は。
「いやだ、うちの可愛い弟のこと呼び捨てにしてらっしゃるの?いくら担任だからって、ちょっといただけませんわ、その手も。小十郎、嫌だったら嫌って、素直に言ってもいいのよ?優しい子なんだからv」
「お姉さんこそ、年頃の青少年にそんなにべったりじゃ嫌われますよ。な、小十郎。いっつも色々がんばってるけど、辛いときだってあるもんな。大丈夫、センセーはちゃんとわかってるぞv」

あぁ言えばこう言う、水と油のような反発っぷりで、延々と続くちみちみとした嫌味合戦。
小十郎の前に三者面談があった佐助が、興味本位で覗いたその様子から、脳裏に『この泥棒猫!』『お義母様!?』という例のアレを浮かべてしまったのは、無理からぬことで。
その上更に、
「失礼しまーす小十郎〜オニイチャンも来ちゃったよ同伴ブッチしちゃったー」
とかなんとか賑やかに現れた綱元(左頬が紅葉型に腫れている)によって、
「……!?お、お前、鬼庭綱元!?」
「え、……もしかして伊達政宗?もしかして担任のせんせーって伊達?うわーとりあえず言っとくけどうちの小十郎喰わないでね★」
「喰うってなんだよ人聞き悪い!!ていうかなんなの、お前らマジでどういう関係!?」
更なる混乱に満たされていくその場で、全員の思惑の中心にいるはずの小十郎少年は、
  遠藤先生の跡を継いで法学部か、趣味を極めて農学部か…。
本来ならこの場で話に上るはずの進路について、のんびりと思考を巡らせていた。