特に脈絡のない徒然小話。
現代小梵で芸能界パロ詰め。ご用心!
○人気子役と付き人俳優で小話
*人気子役・梵さまと付き人俳優・小十郎。あえて七歳と二十五ちゃいくらいで(笑)
よく晴れた青空の午後、あたたかな光とやわらかな風に包まれながら、親子は洗濯物を畳んでいる。
『パパ、ちがぁう!タオルはこうやって、はしっことはしっこをあわせるの』
『あぁ、こうか?』
『うーん・・・まぁまぁかな?』
『こいつ!』
父につかまえられてきゃらきゃらと笑う少年は、畳みかけていたタオルにくるまり父の胸にぎゅうと抱きついた。
『・・・おせんたくものから、パパのかおりがする』
やさしくてあったかくて、せかいでいちばんいいかおりだね。
「カーーーット!!オッケー!!」
途端に親子二人の穏やかな午後は拍手と喧騒に包まれる。
「お疲れ様、最高でした!」
「いやーよかった!いい画が撮れたよ〜二人とも!!」
「まさに理想の親子、理想の休日!やっぱり二人にお願いして正解!」
庭の隅や部屋の背後には、カメラや音声、照明といった器具。わいわいと二人を囲んで誉める人々の手には絵コンテ。
先程まで父の腕に甘えていた少年は、ぴょんと立ち上がると腕組みをして振り向き、
「こじゅうろー!おまえ、なんださっきのえんぎは!かわいいむすこをぎゅっとするのに、あんなやわなちちおやがいるかよ!」
偉そうな態度でプンプン怒る彼に、父であったはずの男は心底申し訳なさそうに眉を垂れる。
「すみません、梵天丸さま!乱暴にならないようにとつい・・・」
「わっつふーる!おれのつきびとだから、おややくをまかされたんだぞ!もうにどとえんりょはゆるさねぇ。おれのかおにどろをぬるんじゃねぇぜ、ゆーしー?」
「はっ!肝に命じますれば・・・!」
片膝をついて面を伏せる男に少年は満足そうにうなずいて、彼を囲む大人たちににっと笑顔を向けた。
「せんきゅー、すばらしいCMにさんかできてこうえいだ。スタッフのみんなにささえられて、すごくきもちよくできた。またいっしょにしごとがしたいぜ!」
そう、少年・政宗は、天才と呼ばれる人気の子役。
西洋の紳士のように礼をして一人ひとりと握手をしながら、こちらは武士のごとく深々と礼をとる付き人俳優・小十郎を従え。
日本で一番多忙な小学生は、次の現場へと向かっていくのであった。
○若手俳優と天才子役で小話。
*若手俳優な小十郎19歳と天才子役な梵さま9歳。
『……では次の質問。小十郎くんと政宗くん、仲良し兄弟役で共演することが多いですが、実際はどうなのかな?』
「はは、まぁ年も離れてるし、仲良しっていうのは……どうなんでしょうね?」
『一緒に何か食べに行ったり、遊びに行ったりはする?』
「ぼん、このまえ、こじゅーろう兄ちゃんに、たこやきかってもらいました」
きゃあああぁあああ!!!
ファンと報道陣で大盛況だった新ドラマのPRイベントが終わり、楽屋への道を歩く小十郎を、小さな足をせかせかと動かして政宗が追う。
「へい、こじゅーろう!きいたかよ、あのかんせい!おんなっていうのは、おれみたいにかわいいおこさまがだいすきなんだぜ。めつきのわりぃこじゅーろうにはむりなはなしだな!」
舞台上での白い羽根が舞い花が咲くと言われる『天使スマイル』はどこへやら。
まだ甲高く愛らしい声が紡ぐクソ生意気な台詞に、同世代からは『抱かれたい男No.1』お姉さまからは『手懐けてみたい男No.1』ヤローからは『兄貴と呼びたい男No.1』と雑誌を賑わす小十郎の秀麗な眉目が、ひくりと引き攣った。
「馬鹿だな、あの歓声の半分は『ちみっこにたこやき奢る優しい俺』へのもんだってわかんねーのか?大体アレはお前がたこやき買わなきゃ帰るって我侭言ったんだろうが」
「は、まけおしみはみにくいぜ!」
「……知ってるか?哺乳類のガキって母親の愛情得るためにわざと可愛く生まれてくんだってよ。」
「えっ?」
「お前はガキだってだけで可愛い可愛い言われてんだってことだよ」
辛辣に片眉を跳ね上げる小十郎。
「悔しかったら、純粋に『こじゅーろうお兄ちゃん』って呼べるくらい、心の底から可愛いお子様になってみろよ。天才子役サン」
歩き去る背中を見つめたまま、政宗はしばらくぱくぱくと言葉を失って。
「…………〜〜〜こじゅーろうなんか、だいっっっっきらいだ!!!」
原因は政宗の生意気さか、はたまた小十郎の大人気なさか。
映画やドラマじゃ心通わせる役で度々共演するこの二人、世間では実の兄弟よりも微笑ましいと人気だが……。
どうにもこうにも、非常〜に、折り合いが悪いのであった。
○若手俳優と天才子役で その2
まさか、自分で右目を突くなんて。
『梵天丸様!!』
駆け寄って抱き上げた体は痛みに震えて、それでも血濡れの手は小刀を離さないまま、ゆっくりと。
『こ、じゅ……目を。梵天丸の、目を……』
差し伸ばされた重み。血と覚悟の。
それはまさしく、雛が殻を脱ぎ捨てる儀式。
『なんと、お強いお方か……梵天丸様!あなたこそ我が主!この後決してお傍を離れず、あなたをお守りする。どうかこの小十郎を、あなたの右目に……!!』
呪いの証を抉り取り、浅く呼吸を繰り返す幼い主を掻き抱く。胸の内からほとばしるものを飲み込めなくて、瞳から溢れ続けるものを止められなくて。
ただ、ただこの情けない自分に微笑んでくれる隻眼だけが、
『こじゅうろ……おれの、右目』
あなただけがこの世で唯一の僥倖だと。
「カーーーット!!!オッケー!!!」
静まり返っていたスタジオに一気に音が戻ってくる。
ここは来年から放映される大河ドラマ『竜の雛―独眼竜政宗と右目』の撮影現場。今は大河史上異例とも言えるほぼ1クールに及ぶ政宗幼少時代の撮影中。
梵天丸に話題の天才子役・政宗。傅役・片倉景綱に人気俳優・小十郎。配役の妙と不思議な縁で、期待度最高潮の中、二人のクライマックスシーンの撮影が、今、終わった。
状況はわかっている。わかっているのだが、どうしてだろうか。
体が、動かねぇ。
こめかみを巡る血潮の熱さときたら。身体中がドクドクと音を立てて、震える腕から力が抜けない。
体の、心の、奥底から。主を放すなと、『景綱』が叫んでいる。
首筋に縋りついたまま、動かない小さな体。ぴとりと触れている頬が滑る、それは血糊だとわかっているのに。二人肩で息をする、燃えてしまいそうな体温が泣きたいくらい嬉しい。
「……こ、じゅ」
梵天丸様。
まだ幼い声に、指先に、そう応えようと口を開いて……
「小十郎くん、政宗くん!どうしたの、大丈夫!?」
スタッフの声にはっと我に返った。
あぁそうだ、このちっこいのは『梵天丸様』じゃない。生意気で小憎らしい子役の政宗。自分だって忠義の『景綱』じゃなく、ただの現代人・小十郎だ。
がむしゃらに力を込めていた腕が緩む。政宗も憑き物が落ちたかのように、ぼんやりとした瞳でぱちぱち瞬いた。
「……こじゅ?」
「……まさ、カットだ。」
しばし互いの目を見遣って、頭がはっきりしてきたら。
「な、なんだよ!ぎゅってしすぎだぞこじゅーろう!くるしくてぼーっとしただろ!!」
「お前だって俺にしがみついてうっとりしてたじゃねーか!早くそのべったべたな血糊洗ってこい!」
「うるさいっばーかばーか、ハーゲ!!」
「うっせぇのはお前だクソガキ!!」
真っ赤な顔でぎゃいぎゃい喚きだす、いつも通りのようなちょっとぎこちないような。
そんな微笑ましい様子にその場にいた全員が思わずにやけてしまったのは、仕方のないことかもしれなかった。
ついでに、後日テレビ雑誌の特集が軒並み二人の熱演シーンで盛り上がっていたのも、真っ赤になって憤慨しつつ捨てられなくてつい本棚にしまっちゃう本人たちの姿があったのも。
うん、仕方ない仕方ない!