特に脈絡のない徒然小話。
パラレルなどし放題なので、題・注意文にご用心!
○ある深い森の奥。
一軒の古びた、しかし荘厳な美しさをたたえたお城がありました。
お城にはずっと昔、病で国を追われた王様の魂が住んでいて、森に潜む悪魔たちが悪さをしないよう見張ってくれていると言われています。
それはその森の側の街に住む者ならば誰でも知っている、有名なおとぎ話。国を追われ死して尚、ひとへの愛を忘れない王様の優しさに、子供たちは皆目を輝かせるのです。
「ようやく静かになりましたな・・・」
ひくり、黒銀の毛並をした狼が耳をそよがせ、やれやれと鼻先を窓の外へ向ける。
「ハロウィンに乗じて街へ遊びに出た連中も、皆大事なく戻っております。おかしなヒトにも出会わなかったようで、安心いたしました」
狼は部屋の奥に置かれたソファの傍へ寄ると、行儀よく前足を揃えて座った。
切れ長の瞳が見つめる先には、クッションにもたれ気だるげに月光を浴びる青年。雪のように白い肌をした独眼の彼が、この狼のただ一人の主だ。
「政宗様は、行かなくともよろしかったのですか?皆があなたと一緒に行きたかったと」
「・・・小十郎」
口をつぐんだ狼に、主は笑って手を伸ばす。素直にその腕に身を委ねた狼を撫でながら、その艶やかな毛に頬を寄せる主の表情は穏やかで。
「祭りは好きだが、ただ騒げりゃいいってもんじゃねぇ。だってお前は行かないんだろう?」
「小十郎は、ヒトの臭いはどうにも・・・ですが政宗様のためならば」
「構わねぇよ。菓子をやるならあいつらで十分。貰うならこうしてお前とゆっくりしてる時間の方が、菓子より余程俺は好きだ。」
「・・・?小十郎はいつでも、あなたの傍におりましょうに」
きゅる、と案外に可愛らしい仕草で首を傾げて見上げる狼に、主は悪戯に笑って見せた。
「俺は欲深いんだぜ、小十郎。只でさえ日が出てるうちは動けねぇのに、お前は四六時中あいつらの目付け役として忙しくしてるから」
もっと傍にいろ。俺のことだけ考えてろよ。柔らかな耳に届く囁きに、狼は困ったように尾を垂れた。
あなたの右目として当然の務めです。小十郎は今もあなたのことしか考えておりません。寂しい思いをさせてしまったのなら、申し訳ない。
どれも主なら予想している応えだろう。狼は主の手に頬を擦り寄せた。
「では、お食事になさいますか?」
「・・・まぁ、腹も減っちゃあいるがな。お前はいつまで俺を食いもんで釣れるガキだと思ってるんだ?」
牙をチラつかせながらも不服そうに耳を引っ張る主に、狼は違いますよと呟いて。
月光の下、ゆっくりと、その影が人型に変わる。
「小十郎の全て、あなただけのもの。trickもtreatも、ご存分になされませ。」
不思議な森の、不思議なおとぎ話。ずっと昔から、皆が知っているおとぎ話。
けれどほんとうのことは、森に棲むものたちだけの秘密なのです。
○キャラ弁は愛の証!
「えんそく、いきたくない……」
小さな主がそう言ったのは、この春から通いだした保育園の遠足前日の夜。
いつもなら既に眠っているはずの時間だ。キッチンを覗いて俯いている政宗に、小十郎は驚いて振り返った。
「如何されました?昨日まで、あんなに楽しみにしてらっしゃったでしょう。」
膝をついて抱き上げると、政宗はぎゅうと小十郎の首に頬を押し付けて、ふるふると首を振る。
さて困った。行きたくないと言われても、明日は平日、小十郎は学校に行かなければいけない。
……まぁ、理由如何ではサボってもいいか。あっさりと結論付ける思考は政宗可愛さにすっかりやられている。
「政宗様、遠足も大事な勉強の場です。お休みするのなら、きちんと先生方にお電話しなければなりません。どうして行きたくないとお思いか、小十郎に教えてくださいませんか?」
よしよしとあやすように背を撫で揺らしながら言う小十郎に、
だって、みんながゆうんだ。
えんそくのおべんとう、ぽけもんのおにぎりとか、あんぱんまんのぽてととか。
おかあさんが、つくってくれるって。
しばらくの葛藤の後、か細い声で伝えられたことに、小十郎は思わず言葉を失った。
きっと今日、友だち皆が明日のお弁当自慢をしていたのだろう。普段給食の出る保育園だから、お弁当は大きな楽しみだ。
自分が仕込みを始めかけていたお弁当のメニューをおさらいして、小十郎はがっくりと肩を落とす。そんな子供心、ちっとも気付いていなかった。
特殊な家庭環境だけれど、できるだけ政宗に悲しい思いはさせたくない。だからこそ自ら決意し志願して、未成年どころか義務教育学生の身でこうして親代わりをしているというのに。
「……政宗様。政宗様は、どんなお弁当がよろしいですか?」
「え……?」
「ポケモンでも電車でもアンパンマンでも、政宗様のためならばこの小十郎、為してみせましょう。」
決意のこもる瞳で、くりりと大きな瞳を見つめる。
「政宗様が遠足で、皆の前で自慢できるようなお弁当を、お約束します。それともやはり母上様でなく小十郎の弁当では、喜んでいただけませんか?」
その後、まろぶように駆けて絵本やらカードやらを抱えて戻り、弁当の絵柄を説明する政宗にデレデレの小十郎が。
翌日、子どもたちに尊敬の目で見つめられる中、バスから飛び降りて抱きついてきた政宗に更にデレデレになったのは、言うまでもない。
○現パロ、寒い朝で小話。
群青に薄く朝を混ぜた頃。ふと起きてトイレに行って、政宗はそっと同居人の部屋へ向かった。
避難するように実家を飛び出して幼い頃からの世話役の住むアパートへ転がり込んでから、数年が経ち。
昔は唯一甘えを許してくれた小十郎だったけど、もう高校生になるのだからと最近は風呂もベッドも別にされてしまった。
政宗にも男としてのプライドがある。猫可愛がりされても悔しいから素直に頷いたし、実際自分だけの部屋は嬉しかった。小十郎は配慮の行き届いた大人で、疎ましく感じたことは一度もないけれど。一人になりたいときはなれるように、隠したいことは隠せるように。この難しい年齢に必要な気遣いを、政宗が自覚しないうちにしてくれたのだ。
それでもときどき、例えば風が暴れて眠れない夜や、フローリングを踏む指を思わず丸める冷えた朝、ぽっかりと空いた日常の隙間。
小十郎の傍がどれだけ心地いいか、思い知る。
そうっと潜り込んだ彼のベッドはもっふり温かくて、それはおそらく自分のベッドも変わらないはずだと思うのに、やっぱり違う。
「・・・政宗様、如何なされた?」
背中に頬を寄せたら、寝起きでかすれた小十郎の声。少し冷えた体で寄り添ったから、起こしてしまったのだろう。
いつももういっぱしの男だと言っているくせに、恥ずかしいけど。忙しい小十郎の睡眠を邪魔したくはないのだけれど。
「まだ少し、時間がありますね。」
政宗様と一緒に寝てると温かくていいです、久々に思い出しました。
低い声が小さく微笑んだのがわかって、結局全部お見通しかと悔しいやら恥ずかしいやら。
でも本音はそんな小十郎がたまらなく、好きだ。
「・・・たまにはいいだろ、寒ぃんだよ」
「えぇ、とても懐かしいです。」
「お前ほんとは俺が一人部屋になって寂しいんだもんな。」
「はは、そうですなぁ。政宗様は鋭くていらっしゃる」
こんな寒い朝には特に、こうしていたくなりますな。しがみつくように腹へ回した腕を優しく撫でられて、甘えを許すように先回りした答えに感じていた少しの遠慮も溶け消えた。
なぁ、小十郎は俺のこと何でもわかってくれるけどさ、これは知ってるかな。
こうしてるとさ、ほんとのほんとに、世界中探してもこれ以上安心できる場所はないって、わかるんだ。
お前もそう感じてくれてるか?俺の傍が一番安心できるって、だからずっとずっと一緒にいてくれるんだって、そう思うのは勘違いなんかじゃないよな?
なぁ、俺は自分でもちょっとどうかと思うくらいお前がさ、お前のことさ。
「・・・久々ついでに、政宗様にお願いが。」
小十郎もあなたを抱き締めたいのですが、そちらを向いてもよろしいか?
○寅年ぼんさま!
「おぉっ梵天や、どうしたんじゃそのお耳は!」
「父上、あのぅ、喜多が……」
「そうかそうか、今年の干支だものなぁ。さぁ、父に可愛い虎の子をだっこさせt」
「輝宗様、宴の用意が整いましてございます」
「あっ!こじゅろー!(ぎゅむっ)」
「っと、梵天丸様!?」
「こじゅうろ、きょうは起こしにきてくれなかったから、さみしかったぞ!」
「申し訳ありません…新年の宴の準備に人手が足りないと、駆り出されまして。もうご用意も済ませていらしてくださったとは、さすがは梵天丸様。立派な主に仕えられること、この小十郎の誇りにございます。」
「えへへ……なぁなぁ、こじゅろ、梵天はきょうはとらのこだ!かわいいか?」
「ふふ、勿論。いつもお可愛らしいですが、仮装もよくお似合いで、このまま皆に自慢して回りたいくらいです」
「こじゅろぉ!」
「梵天丸様!」
「ちょっと殿、何ですかこんなとこにうずくまって…やめてくださいよキノコが生えるでしょう」
「だってぼんでんが…儂の梵天がー!!遠藤が小十郎を傅役になんて言うからー!!」
「うわ鼻水つけないでください汚らしい!大体その小十郎のおかげで若が元気になったんですから、我侭言わない!ほらもーアンタさっさと移動してくださいよシッシッ!」
「遠藤の鬼ーーー!!!(号泣)」
輝パパのジェラシーは当人たちには届きません(らぶらぶするのに忙しいから)(パパがんばって!!笑)
○珍しくデキてるんだけど何か病んでるかもしれない小政。
*甘いのを書くつもりが…あれ?病み双竜??
小十郎の私室に入るなり、政宗は言った。
「お前が俺から離れたら、俺は死んじゃうんだからな」
ぱちぱちと瞬いた小十郎は、ふふと穏やかに微笑むと、自身の首にぎゅうとしがみついている政宗の腰を優しく抱き寄せる。
「それはまた、物騒なお話ですな。」
腕だけでなく足まで使って小十郎の体を絡めとりながらも、返された言葉が気に入らなかったようで、政宗は目の前の太い首に容赦なく噛みついた。竜の歯形。
「オハナシじゃねーよ、ほんとだ。」
「そうですか。」
またガブリ。今度は肩口に、うっすら赤が滲むほどくっきり歯形が残される。主は相当御冠のご様子だ。
「政宗様、噛んでもいいですが脱がさないでくださいよ」
「そうですか、とか言うからだろ!死んじゃうんだぞ、どうするんだよ。それもまたそうですかって流すつもりじゃねーだろうなぁ?」
頭を撫でようと伸ばされた腕にもガジガジ噛みついて、政宗が凄む。多くの者が腰を抜かして怯えるだろうほどに鋭いその金の瞳を間近で受けて、しかし小十郎は楽しげに笑った。
「いらぬ心配をされますな。」
こじゅうろうもあなたからはなれてはしんでしまいますよ。だってあなたのみぎめだから。
返されたのは、耳朶への優しい甘噛みと首筋に印が一つ。
「……good。可愛いな、俺の小十郎。」
どうやらお気に召したらしい。政宗はひどく満足気に目を細めて笑った。