間に合わなかったけど、おれ諦めない!
と雰囲気ぶち壊しなコメントで引き続きアニメ一期その後です。


「小十郎様ぁ!大変ですぜ!!」
 巻かれたむしろごとかがり火で燃えそうになっていた下手人を引っ立てさせつつ、賊の足取りを追わせる指示を出そうとしていた小十郎は、先に隣のいつきの村へ向かわせていた部下が農民を一人抱えるようにして飛び込んできたことに眉を引き攣らせた。
「てめぇ、政宗様の民を粗雑に扱うんじゃねぇ!!」
 ぎゃっと悲鳴を上げて平伏した男から解放されて、農民はへっぴり腰ながらも小十郎を見上げる。
「片倉さまぁ、大変ですだよ!いつきちゃんが、いつきちゃんと蘭丸のやつが!」
「どうも、女が一人攫われて、蘭丸といつきで追っかけたみてーっス」
 唯一の救いとばかりに拝んでくる農民と、子ども二人が危険に晒されているとあって血気盛んに息巻く部下たちを前に、小十郎は深くため息をついた。
「ったく、あの餓鬼ども……」
 討伐隊が明日着くという情報を流したのは、小十郎の策だった。実際に明日着くのは復興のための資材を運ぶ人足部隊で、真実討伐隊である小十郎たち少数部隊は、秘密裏に先んじて出発していたのである。
 本当なら被害の一報が入ったその日に精鋭を引き連れて城を出ているはずだった小十郎が、数日動けなかったのには訳がある。
 そも、ここしばらく、伊達軍は非常にピリピリとしていた。
 ―――伊達領内に、間者の気配あり。
 独眼竜が納める土地だ、その動向を気にして間者を放つ国などいくらでもある。甲斐の武田も越後の上杉も、派手な動きはしないまでも、影を掠めるようにして子飼いの忍びを放っている。ただの諜報活動なら、いつも通り勝手にさせていただろう。
 しかし、今回は違う。
 相次ぐ夜盗、婚礼荒らし、人攫い。闇討ちや遊女殺し。各地で荒事が頻繁に起こっていた。まるで、誰かに唆されたかのように。
 そしてその存在は、小十郎を慕う一人の農民によって明らかになる。
『一揆を起こせ、豊臣方につけば年貢が半分になるそうだって。おらたちの村は大丈夫だども、周りの村の奴らがこそこそ話しとるんでさぁ』
 いつきたち北部の農民は、伊達とつながりが深く強く団結をしている。しかし南部では、有力な武家の存在もあり、北部ほど強固な結束はない。
 不満を煽り、欲に火をつけ、足場を崩す。姑息だが、非常に簡易でわかりやすい手だ。
    ぼた餅食いの大猿ごときが、ナメた真似しやがって……!
 最近突然に中央で覇権を握った豊臣が黒幕となれば、竜の右目が表立って堂々と城を空けるわけにもいかず、間者の始末に数日をかけた。その間に中央への牽制と各領内への対策も終えて。
 事情があるとはいえ、この数日は長く、大きな損失だった。いつきと蘭丸ならば、自ら危険に身を投じるだろうことも予測できることだ。
 ハラリ、小十郎の前髪が落ちる。
「こっ、小十郎様……」
「……おめーらは引き続き、民の安全の確保と手当だ。俺が戻るまで、一人でも死なせたり悪化させたりしたら…………」
 わかってんだろうな、あぁ?
 ギラリと光る目に見下ろされて、兵たちはこくこくと必死に頷いた。
「わわわわかってますぜ、小十郎様ぁ!」
「任せてくだせぇ、小十郎様ぁ!!」
「死んでも死なせませんぜ、小十郎様ぁ!!!」
 彼らの答えに満足したのか、ふっと流し目で微笑んだ小十郎は、主の猛りに応えるように唸る愛馬をけしかけた。


 蘭丸が誰にも負けない自信を持っていることの一つに、足の速さがある。
 大人ほど背丈はないがその分身軽で、信長の走らせる馬にも負けずについて走ったときは、主から直々に「韋駄天よ」と誉められたものだ。
 その蘭丸の足をもってすれば、いかな奥州の馬といえど、賊ごときが手に入れられる程度の馬足では振り切ることは不可能。
「……ちぃ!いい加減にしやがれ餓鬼が!!」
 潰れかけた馬を捨て毒づいた頭の前に、五人の男が立ち並ぶ。抜き身の刀をちらつかせるが、粗野な構えだ。息も荒く、下品に目をぎらつかせているだけで、まるで覇気がない。
 ふと、脳裏に蘇る。片倉小十郎の構えは隙がなくて、洗練されていた。伊達政宗の身体からは、視線を送られただけでへたりこんでしまうくらいの、圧倒的な強さが放たれていた。
 あのとき感じた恐怖を思い出す。あれから感じ続けていた無念を呼び起こす。
    もう二度と間違えない。もう二度と、失わない!
「蘭丸くん!」
「黙れ女ぁ!!」
 艶やかな黒髪を乱暴に鷲掴む小汚い指に、蘭丸が弓を構えたとき。
「ぅあ…………!!」
 火花の爆ぜる音、次いで重く切り裂く破裂音。掠った熱の塊に、細い腕と太ももから血が噴き出す。激痛に体勢を崩しながらも、蘭丸は飛びのいて背を木に預けた。
「種子島……!?」
 木々の間の闇から、また五人ほど男が出てくる。そのうち二人の手には、かつて慣れ親しんだ、種子島が抱えられていた。
「なんでお前たちみたいなのが、そんなの……!?」
 大名でも数を揃えるには苦労するのだ、たかが夜盗を生業にする小物が手にできる代物ではない。驚愕の表情の蘭丸を前にして、夜盗一味はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「お前たちみたいなのたぁ、口が過ぎるんじゃねぇか、坊主よぅ」
「どっかの戦場で大量に余ったもんを、親切なお方が渡してくだすったのよ」
 上がる笑い声を他所に、蘭丸は気付いた。その銃身に刻まれた家紋。削られてはいるが、あれはまさしく。
「蘭丸くん!私はいいから、今すぐ逃げて!」
「ち、うるせぇな……!先に喉でも切っちまうか」
 気丈な声に苛立つ頭が、白い喉に刀を当てる。
「よぉ、餓鬼。大好きなお姉さまが目の前で血ぃ流すとこ、よーく、」

 見てろよ、と続くはずだった言葉は、身体ごと吹き飛ばされて掻き消えた。

「蘭丸!お辰さん!無事か!?」

 一振りで大の男を吹き飛ばしたどデカい木槌を構えて、銀色の髪を煌かせた少女が地に降り立つ。
「い、いつき!?何で来たんだよ!?」
「むっ……何でもなにもねーべ!蘭丸が無茶すっから、助けにきたんでねーか。」
「バカ!あいつら種子島なんか持ち出してんだぞ、早く逃げろ!」
 蘭丸の言葉にも怯まず、いつきはフンと胸を張った。
「おらの大事な仲間たち、傷つける奴はおらがお仕置きしてやるだ!」
 種子島を構えようとする動きを、振り下ろした木槌の振動で体勢を崩させることで邪魔をして、いつきがにっと笑う。
「お辰さん、おらが来たからにはもう安心だべ。怪我してる弱っちぃ蘭丸の代わりに、おらがちゃーんと守ってやるからな♪」
「んなっ……!!」
「行くべ、だいかんぱーーーー!!」
 吹雪と共に突っ込んでいく細い背に、駆け寄ったお辰に抱き寄せられるようにして支えられながら、蘭丸が真っ赤な顔で叫ぶ。
「蘭丸は弱くないぞ!いつきのバカーーー!!!」

 緊張感のない子どもたちのやり取りだが、その腕は間違いなく一級品だ。手下が次々と倒れる中、気を失っていた頭は霞む視界で状況を確認すると、這うようにその場を逃げ出した。
「冗談じゃねぇ、冗談じゃ……許さねぇぞ餓鬼どもが……!!」
 この先にある隠れ家には、まだ種子島が一つ、予備として残されている。そこまで辿り着けば、それさえ手にすれば。
「Ha-ha!!いいねぇ、随分派手にやってるじゃねぇか!」
「政宗様……」
「おっと、そんな怖ぇ顔すんなよ。わかってるって、今回俺は手出しナシ、だろ?」
「然様。奥州筆頭伊達政宗公は、今も小十郎の言いつけ通りに城を守っていらっしゃるはずなのですからな。」
 突然に降って湧いた声と、伸ばした手には激痛。手の甲を踏みつける足の先を辿れば、
「Shit、小言はなしだぜ……よぅ小十郎、足元の鼠はどうすんだ?」
「……この程度の小物、あなたが爪を抜くまでもありませぬ。」
 鬼がいた。それがその男の最後に目にしたものだった。


 後を追ってきた部下たちに一味の処理を任せると、双竜はお手柄の子どもたちのもとへ向かった。
「Hey、よくやったなお前ら!なかなかの戦いぶりだったぜ?」
「あっ……青いおさむらい!?」
 驚くいつきの頭をぐりぐりと撫で回し、政宗が誇らしげに笑う。
「腐れたヤローの陰謀で遅れちまったが、なんとかケリもついたぜ。これでもう危険はねぇはずだ、よくがんばってくれたな」
 その言葉に、いつきは涙を浮かべて頷いた。しかし蘭丸は、かっと瞳を燃やして、二人の男を睨め上げる。
「なにが、なにがよくやっただよ!?お前たちがグズグズしてるから、死んじゃった人もいるし、家を燃やされた人だっているんだぞ!!お辰さんが怖い思いしたのも、いつきが戦わなきゃいけなかったのも、全部お前たちのせいじゃないか!!」
 お辰に背を支えられながら、義憤に震える蘭丸の姿は、もうかつての純真で残虐な「魔王の子」ではなく。
 純粋な子どもの前に、小十郎が膝をつく。大きな瞳をまっすぐに見つめ返し、
「……すまなかった。」
 頭を下げた。

 蘭丸は言葉を失った。無礼者と斬りつけられてもいいと思っていた、相手は独眼竜とその右目。自分は織田軍の生き残り。どう考えても、頭を下げられる必要があるとは思えない。
「お前たちにも、お前たちの仲間にも、多大な犠牲を強いた。これはひとえに俺の責任だ。」
 顔を上げない小十郎に、蘭丸も、いつきもお辰も、何も言えないまま。
「……馬鹿言うんじゃねぇ、小十郎。」
 ただ一人冷静に口を開いた政宗は、竜の目で蘭丸を見つめる。
「俺は謝らねぇぜ。俺は領主だ、いろいろ事情もある。ただいたずらに見殺しにしたわけじゃねぇ。だが」
 不安げに見上げるいつきの頭をもう一度撫でて。
「民の声は正直に受け止めるぜ。責任も俺がとる……領主だからな。」
 座り込む蘭丸の前に片膝をついて、頭を下げたままの右目の背を叩き、
「蘭丸。皆を、守ってくれたこと。感謝してるぜ」
 ぐりぐりと頭を撫でるその手は、向けられた笑みは。
 蘭丸を、敵じゃなく、ただの子どもでもなく。大切な民の一人として、戦う力を持った男として、認めているものだった。


 その後、怪我をしているからという逆らい様もない理由で、小十郎の背中に負ぶわれて山を降りた蘭丸は。
「傷は痛むか?」
「……平気だよ。」
「そうか。……蘭丸は強いな。」
 寄りかかってもびくともしない、広くてあったかい背中と、隣で政宗に肩車をされてはしゃいでいるいつきの声に。
 出迎えの村人に囲まれて撫でられたり泣かれたり怒られたりしながら、
    あぁ、これからは、こんな暮らしも悪くないのかも。
 武士のくせに土と日向の薫りがする小十郎の陣羽織の背を握って、微笑んだ。



とうとう二期も始まりまして、まったく間に合わないばかりか全然親子風景が書けなくて非常にぎりぎり(歯軋り←やめなさい)
ともかくシリアスに書きたかった部分は書ききったのですが、やっぱりね!ね!(何だよ笑)そのうち凝りもせず何か書いているかもしれません(笑)