またまた捏造アニメ一期その後シリーズ。
今回は2の後、蘭丸が小十郎たちに懐くまでのお話。4に続きます。
略奪や戦闘場面が出てきますので、苦手な方はご注意を。
「やい!猪め、みんなの畑を荒らすなんて、この蘭丸が許さないんだからな!」
全長なら身の丈ほどもあろうかという猪相手に、小さな体は怯まない。高く跳躍、背に負った弓を構え、流星の如き矢を放つ。
「行っけーーー!!!」
ズダダダダ!立て続けに猪の背に放たれた全ての矢が突き刺さり、巨体が地に沈んだ。
「へっへーんだ、ざまーみろ!」
「「「蘭丸、でかしただー!」」」
軽々と降り立ち胸を張った蘭丸に、村の仲間たちがやんやと歓声を上げた。
最近、すっかりと村に馴染んだ蘭丸は、畑仕事を手伝いながら、村の用心棒のような仕事もやっている。
かつてはいつきと共に一揆衆として立ち上がったこともある村人たちだが、やはり戦いを専門とするわけではない。野犬程度なら追い払えても、猪のような大型の獣や盗賊の類には太刀打ちできずにいた。
その点、蘭丸は幼いとは言え歴戦を経験した立派なもののふ。畑仕事では小さな子どもより役に立たないが、こういった荒事では誰より頼りになる腕を持っている。
これまで、主君のために敵を屠ることだけを考えて磨かれた実力だったが、今はその力でひとを守ることができる。そうして喜んでもらえることが嬉しいと、この村で生活するようになって初めてわかったのだ。
その日、朝餉に村中で切り分けた猪肉にありついていた蘭丸は、いつきとその親衛隊の深刻な表情を見比べ、眉を寄せた。
「夜盗?」
ここ数日、近隣の村で頻繁に夜盗集団が出没している。幸い自分たちの村はまだ被害に遭っていなかったものの、被害の酷い村では復興もままならない状態らしい。
「明日には伊達軍の討伐隊が到着するって聞いてる。でもおら、そいつらをやっつけてやりてぇ。今夜、巡回して夜盗どもを捕まえてやるだよ!」
「それなら、蘭丸も行ってやるよ。」
すんなりと頷いた蘭丸に、いつきはふるふると首を振った。
「いや、蘭丸にはこの村に残って、みんなを守っててほしいんだ。おらと一緒に若衆が出払っちまったら、今度はこの村の女子供が危ねぇべ?」
蘭丸が瞬く。その様子を戸口から覗いていた近所の子どもたちの縋るような熱い眼差しに気付いて、いつきはにっこりと、蘭丸は照れたように笑い合った。
「……わかったよ。みんなのことは蘭丸に任せとけ!その代わり、危なくなったらすぐに呼ぶんだぞ。助太刀するからな!」
「なーにを生意気言ってるだ?おらには田の神様がついてんだ、夜盗なんかに負けるはずねぇべ!」
そうと決まったら腹ごしらえだ。二人はがつがつとごはんを平らげて、それぞれ準備に飛び出して行った。
かくして、夜。いつきたちが隣村で夜盗と戦闘に入ったという知らせに、蘭丸と数人の若衆は武器を手に立ち上がった。
「蘭丸くん」
やわらかで落ち着いた声に振り向けば、長い黒髪の綺麗な女性が小さく手を振っている。
「お辰さん!ダメだよ出てきたら、ちゃんと家で身を潜めてなきゃ!」
慌てて駆け寄る蘭丸に、お辰は、かつて蘭丸が姫様と憧れ慕ったひととどこか面差しの似た微笑みを向けた。
「大丈夫、すぐに戻るわ。それより……蘭丸くんも行くのね?」
「?うん、勿論!敵が見つかったんだし、蘭丸たちも黙ってらんないよ!」
好戦的な蘭丸の笑みに、お辰はそっとその小さな頭を抱き寄せる。
「……止めたりはしないけれど、気をつけて。怪我しないで帰ってくるのよ。」
村に来てからずっと、気にかけてくれていたお辰の言葉に、蘭丸は目を瞠って。
濃姫様……濃姫様も、いつもこうしてくれた。
あたたかくて甘くてやさしい、腕の中の温度も似ている。
泣きたい気持ちをこらえて、にっと笑って顔を上げた。お辰が頷いて家屋に戻るのを見届けたら、弓を握り直し、気持ちを切り替える。
「さぁ、みんな行こう!」
「「「おぉう!!」」」
勢いよく駆け出し、村を抜け、川と田畑と小さな山を挟んだ先の隣村へ……
きゃああぁああああ!!!
かすかに聞こえたのは女の悲鳴。おかしい、まだ隣村の声が聞こえる距離じゃない。だが確かに、今度は子どもの泣き喚く声が。
「ら、蘭丸!?」
「どこに……」
ぴたりと立ち止まり、鋭く反転した体が、疾風のように掻き消えた。
聞こえた、確かに、あの声は!!
若衆の声など耳にも入らず、蘭丸は駆ける。自身の放つ矢と同じ、流星の速度で。今しがた越えてきた田を、川を越えて、畑の真ん中を突っ切り。
村が焼けている。放たれたばかりの炎。火矢が藁葺屋根に。戦える者は鍬を持ち、子どもたちは泣きながら逃げ惑い、
その先に、いかにも粗暴な風貌の男たちが、小脇に女を捕らえて、刀を振りかざすのを。
怒りで血が燃え上がる。引き絞った弓が唸りを上げた。
「いつきちゃん、大変だぁ!!」
一方、隣村で夜盗たちを叩きのめし、縄とむしろでぐるぐるに巻き、かがり火で囲んで転がしたいつきは、村で待機しているはずの若衆が駆け込んでくるのに慌てて振り向いた。
「ど、どうしたんだ!?村で何かあっただか!?」
息も整わないまま伝えられる言葉に、いつきが顔色を失っていく。
伊達軍討伐隊が近付いていることを嗅ぎつけて、夜盗一味は最後の荒稼ぎとばかりに、手勢を二つに割ったらしい。救援に飛び出した蘭丸たちの隙をついて、村が襲われたのだ。
斬られた者はいるが、幸い命は取り留めた。家に放たれた火も広がる前に消し止められて、奪われたものもそう多くない。
全ては、取って返した蘭丸の矢の雨が、雷光をまとい降り注いで、夜盗のあらかたを一瞬で葬り去ったためである。
「それで、蘭丸は?みんな無事だか!?」
「そ、それが……」
一変した状況に、奥にいた頭らしき男と、運よく矢を逃れた数名の夜盗たちは、一斉に馬を蹴り逃走を図った。頭の腕には、長い黒髪。
「お辰さんが!?」
「蘭丸はそいつらを追って、弓矢みてぇな勢いで走ってったらしいだよ」
お辰は村で一番の美女だ。戦で夫を亡くし小さな子ども三人を連れて帰ってきたが、それまでは上方で暮らしていたため、気品も教養もある。確かに、この辺りではそうお目にかかれない「お宝」というわけだ。
蘭丸が一番懐いていたひと。取り戻すまで、蘭丸は絶対に立ち止まらない。
「……みんな、伊達のお殿様に知らせてけろ。おらは先に行く!」
「いつきちゃん!?」
「一人でなんて、無茶だべ!!」
「ひとりじゃねぇ!!」
真っ青な顔で、それでも気丈に顔を上げたいつきに、誰もが口を閉じる。
「蘭丸が行ってるんだから、おらは一人じゃねぇ。でも今おらが行かなかったら、蘭丸は一人ぼっちだ!おらは仲間を守る!守らなきゃならねぇんだ!!」
討伐隊の到着は明日。それまで、とても待っていられない。蘭丸が命を懸けている。お辰の命がかかっている。
間に合ってけれ、無事で、無事でいてけれよ……!!
親衛隊の制止を振り切って、銀色の輝きは山中へと駆けていった。