*捏造は第二期が始まる前にやっちゃうべきだよね!
というわけでアニメその後設定。いっそ清々しく趣味丸出しです。
諸大名の力を結集して臨んだ信長包囲戦から、季節は巡り。長い冬も明け、奥州にもたわわに実った夏野菜が日差しを浴びて輝く季節がやってきた。
「小十郎様〜!」
「小十郎さまー!」
主の夕餉に新鮮な野菜をと、自らが手入れする畑で収穫に励んでいた片倉小十郎は、弾む子どもの呼び声に汗を拭って顔を上げる。
手を振りながら競うように駆けてくるのは、前髪を結っておでこを出した少年・蘭丸と、二つ結びと白い肌が愛らしい少女・いつきである。
「見て見て、蘭丸が初めて育てた胡瓜だよ!」
目の前に来るなり蘭丸が差し出したのは、四本の胡瓜。笊からはみ出しそうなほど大きく、濃い緑が瑞々しい。
「ほぉ、いい色してやがる。なかなか筋がいいじゃねぇか」
「ほんとっ?やったぁ!」
小十郎に褒められて、蘭丸は子猫のような瞳を輝かせた。それを押し退けるように、今度はいつきが小十郎の目の前に茄子の乗った笊を掲げる。
「小十郎さま、おらの茄子も元気に育ったべ!」
こちらも深い紫が艶を放ち、一つ手に取ると実がぎっしりとつまった感触が伝わってくる。素晴らしい出来だ。
「あぁ、さすがにいつきの育てた茄子は違うな。これはうまそうだ」
一方を褒めればもう一方がそれに張り合って、腰元にまとわりついてくる二人の子どもに、小十郎は無意識に微笑を浮かべていた。
戦の後処理も一段落ついて、久々に農家の視察に出回っていたとき。いつきの隣で土いじりをしている蘭丸を見たときの驚きは、破天荒な主を持つ小十郎にとっても近年稀に見るほどだった。
蘭丸は先の戦の後、当てもなく彷徨っていたところをいつきに拾われ、それ以来この村に身を寄せていたらしい。かつて魔王の子と怖れられた蘭丸は、天真爛漫ないつきと気のいい親衛隊のおかげで、今ではすっかり村に溶け込んでいる。
そして不思議なことがもう一つ。
「小十郎様!これ、中でも特別よくできたのを選んできたんだ。小十郎様に貰った種でできた胡瓜だから、一番に食べてもらおうと思って」
子どもの順応力に舌を巻きつつも、やはり様子が気になって何度か顔を見せているうちに、どうやらすっかり懐かれたらしい。小十郎が畑に出ると、決まってこうして訪ねてくるようになっていた。
「その胡瓜がいいって、選んでやったのはおらだよ。蘭丸はまだ野菜の見分けがつかねぇから」
「な、何だよ。小十郎様、いつきが他の村に呼ばれて行ってる間、その茄子に水をあげたのは蘭丸だよ!」
「むーっ、それなら、蘭丸に畑のこと一から教えたのはおらだ!胡瓜がうめぇのはおらの教え方がよかったんだべ!」
「そんなこと言うの卑怯じゃないか!蘭丸だって、畑を荒らした猪を仕留めて村の皆で分けただろ!」
どっちがより褒めてもらえるか、自分を挟んでやいやいと言い合う二人の頭を、ガシガシと力強くなでる。
「わかったわかった。蘭丸もいつきも、偉いぞ。よくがんばってるな、いい子だ。」
しっかりと二人の目を見て褒めれば、満面の笑顔が迎えてくれる。
こんなことは、梵天丸様以来だな。
子どもは大概、小十郎を見ると泣く。そのくらいでなければ竜の右目は務まらない、そう思って別に気にしてはいないけれど。
「小十郎さま。今日は日差しが強いから、ちょっと休憩するべ!」
こっちこっちとまだ小さな手に引かれて歩く感覚は、何とも懐かしく心地よいものだった。
小屋の庇の下に並んで腰掛けて、賑やかな子どもたちの声を聞く。この明るい声で語られると、他愛のない話もひどく煌いて感じる。癒されるひとときだ。
……が、そんな和やかな空気の中に、恨みがましい念が一筋。
「ねぇ、蘭丸の胡瓜食べてみてよ!がんばって育てたんだから、絶対おいしいよ!」
笊から仲良く一本ずつ手にとれば、不穏な視線が更に強くなる。
「小十郎さま、どうかしただか?」
子どもたちはその視線に気付いていないらしく、きょとんと首を傾げている。それはそうだ、この念は小十郎に伝わるようにだけ送られているものなのだから。
ため息を一つ。
「……いつまでもそんなところで佇まなくとも。こちらへいらっしゃいませんか、政宗様。」
目をやれば、畑の入り口辺りの木の陰から、政宗の隻眼がジトっとこちらを睨めつけている。予想通りのその姿に、また一つため息が落ちた。
「小十郎!俺を放っておいて、こんなとこでのんびり休憩か?」
ご機嫌斜めで寄ってきた政宗を、いつきは嬉しげに立ち上がって迎える。蘭丸は対照的に、うげっとあからさまに顔をしかめた。
「青いお侍さん、久しぶりだな!今年もいい野菜ができただよ!」
「よぅ、いつき。元気そうなのは何よりだが、俺の名前を忘れちまったか?」
「あっ……えへへ、ちゃんと覚えてるだよ!政宗さまだ!」
「Good! で、そこのでこっぱち、席を空けろ。小十郎の隣は俺が座る」
「はぁ?誰がどくかよ、蘭丸だって小十郎様の隣がいいんだ!大体いっつもいっつも邪魔しに来やがって、真面目に仕事やってんのか?」
いつきの頭をなでた優しい兄貴分の表情は一転、政宗は怒りを顕に蘭丸のおでこを思い切り鷲掴む。
「てめぇ小十郎、こんな生意気な餓鬼を相手にしてる暇があるなら、俺に構え!」
「政宗様……とりあえずその手を放されませ。幼子のようなことを仰いますな。」
「そうだっいい大人のくせに我侭だぞ!」
「Shut up!! 大人も子どもも関係あるか。小十郎は俺の右目だ、誰より俺を大事にするのが当然なんだよ!」
手を外そうともがく蘭丸に得意気に言い切ると、政宗は隙をついて笊から残りの一本を取り上げた。
「あっ!や、やめろよ!」
「Ha、この俺が直々に食ってやろうってんだ。光栄に思えよ、you see?」
完全にへそを曲げて聞く耳を持たない政宗に、小十郎が喝を落とす直前。いつきが立ち上がり、政宗の手にあった胡瓜を奪い返した。
「こら、やめるだよ!!」
思わぬ叱責の声に、男三人の動きが止まる。いつきはまるで母親のように、腰に手をあてて政宗を見据えた。
「この胡瓜はな、蘭丸が小十郎さまに貰った種から、初めて育てた大事なもんだ。政宗さまはお殿様で偉いお人だけど、蘭丸が一番に小十郎さまに食べてもらうって言ったら、そうじゃなきゃいけねーんだ!」
「いつき」
くりっと目を丸くした蘭丸に、いつきがにぱっと笑って胡瓜を手渡す。
「それに、欲しいならおらにもくれって言わなきゃいけねーだ。そしたら蘭丸だって、意地悪なこと言わねぇもんな?」
「……うん!」
さすがの独眼竜も、いつきには弱い。笑い合う子どもたちの愛らしさに負けて、罰の悪い表情で頭を掻いた。
「ah〜……そうだな。Sorry蘭丸、俺が悪かった。小十郎、早く食べてやれよ」
「は、ではありがたくお先に。」
促す言葉に従って齧れば、小気味いい音と共に、夏らしい青さと大地の甘味がいっぱいに広がる。鼻筋を駆ける爽やかさに、思わず目を閉じて。
「……こんなにうまい胡瓜は、今まで食ったことがねぇな。」
素のままの口調でこぼれた言葉に、蘭丸は飛び上がって喜んだ。
実は恐らく来るであろう政宗のために用意されていた四本目の胡瓜。美食家の政宗を唸らせるほどのそれを、四人で齧った。
目の覚めるような夏の青空と、庇の下に吹く風。相変わらずぎゃいぎゃいと言い合っている政宗と蘭丸の声ですら、何か心安らかに感じる。
眉間の皺もため息も忘れる、平穏な時間が過ぎていった。
色々な夢を、ことごとくブッ込んでやりました夜露死苦!!
小十郎の二度目の子育て(笑)このネタでいくつか話を考えてます…ふへへ(怖)
第二期で本当にそんな姿が見れたらいいのに!