我儘な君へ5のお題 (rewrite様)


1.これではまさに世話係
「政宗様。」
 ぴしゃり、冷ややかな声音で名を呼ばれ、政宗は不貞腐れた表情を隠しもせず顔を上げた。
「何だよ。小言なら聞き飽きたぜ、何刻正座させりゃ気が済むんだ?」
「では一体何度同じ説教をすれば身を改めていただけるのか、お聞きしたいものです。」
「だーかーら、ちょっとした悪戯!joke、trick、mischief!めくじら立ててんじゃねーよ」
「ほぉ、小十郎の畑をもぐらより派手に掘り返すのがちょっとした悪戯。おかげで屑しか残りませんで、実った野菜を政宗様の血肉としていただこうと流してきた汗水も無駄になってしまいましたが、ちょっとした悪戯。それは愉快ですなぁ」
 常にぴんと伸びた背筋で座す小十郎は、微笑みを浮かべつつもひくひくとこめかみを痙攣させている。逞しく鍛え上げられた身体と数年前にできた頬の傷があいまって、その迫力は筆舌に尽くし難い。
 さすがに正直、肝が冷えたが。廊下からこっそり様子を窺っている従兄弟が必死になって謝れと目線で促してくるので、政宗は意地になってフンと顔を背けた。
「政宗様は、御歳いくつにおなりか?」
「Ha、もうそんなこともわかんねぇのか。今年が終わりゃ十七だ」
「おや、覚えていらっしゃいましたか。これは意外。ではその新年を迎えれば晴れて伊達の家督をお継ぎになる身であることは?」
「……んだよ、何が言いたい?」
 てっきり恫喝が来ると予想していた政宗は、戸惑いに眉をひそめる。視線を向けた先には、片眉を跳ね上げて口端を歪める、小十郎得意の揶揄の表情が浮かんでいた。
「これではまさに童っぱの世話係だと、そう言ってるんですよ。」
 一番、突かれたくないところを。
 この男は昔から、そういうところを突き刺すのが、世の誰よりも上手いのである。

2.「愛想が尽きた」
「……Ah?」
「って、言われたらどうすんだよ。このままじゃ小十兄、今度はほんとにキレてどっか行っちゃうぜ?」
 少しは素直になったら?呆れ顔の成実が言う。
「いくら思春期反抗期っつったってさぁ、限度ってもんがあるだろ。気心知れた従兄弟だから言うけど、最近の政宗、結構ヒドいよ?褌焼却事件はすげー笑ったけど」
「るっせぇな……」
 そんなことはわかっている。他の誰より、自分が一番。
    だけどうまくできない。どうしたらいいかわからない。
 いつもあの背中を追ってきた。不敬で不遜で怒ると鬼みたいな奴だけど、傍にいてほしくて追いかけた、あの日の気持ちは失ってはいない。
 失ってはいない、けれど。
 変わってしまったのだ。傍にいてほしい意味も、求めるものも、想う温度も。

3.僕以外には無理だろう
 成実は知っている。
 きっかけは、政宗の初陣。成実は二人の帰りを城で待っていたから、直接目で見てはいないけれど。
 帰城するなり小十郎が深い頬傷からくる発熱で寝込んだ。幾日も目を覚まさない彼の枕元でうなだれる政宗を見て、すぐにわかった。
 変わってしまったのだ。『出来すぎるほど優秀な傅役』は、『決して失えない愛しい男』に。無垢な思慕は苛烈に渦巻く想いに。
 ここ最近、突然政宗が小十郎に対して目に余る反抗を始めたのは、その想いの裏返しにすぎない。気を引きたくて、もっと自分を見てほしくて、貪欲に膨れ続ける気持ちを制御できなくて。
 それにしたって一体いつまでこの調子でいるつもりだろうと、半ば呆れて見守っていたのだけれど。
「畑に妬いただけだなんて知ったら、小十兄どんな顔すんだろな。」
 見てみたい気もしたが、邪魔をするわけにもいかない。既に走り去った政宗の背中を思い浮かべて、やれやれとため息。
    思い出せ。天秤は秤ごと奪い取るんだろ、『伊達政宗』はさ。
 発破を掛けて送り出すなんて、自分も大概付き合いがいい。ぼやきつつも満足そうに、成実は道場へ向かって行った。

4.それだけは聞けない願い
 あれは忘れもしない、政宗の初陣を何とか無事終えて臥せった後、ようやく起き上がって、仕事を始めようかという日の朝のこと。
 意識を取り戻してから一度も姿を見ていなかった主が突然現れて、
「お前はもういらない、どこへなりとも行け、畑を耕して生きろ。そう、仰った。」
 たった一つ、見つけた光を失う。あの、衝撃。
「あなたは小十郎の全てです。空っぽの器に、あなたが意味を与えてくれた。そのあなたに捨て置かれる、そう思ったあのときに比べれば」
 畑の土を整える手を止めて振り返った先には、まだ歳若い主が。涙を堪えて、押し隠すために不貞腐れた声で、怒っているかと訊ねるから。
「何という程のこともありませんよ、政宗様。」
 懐かしいいつかのように、胸に飛び込んでくる主を優しく抱きとめる。
 この人は知らないのだ。
 結局のところ何だって、ただあなたの傍にいられればいいと思う、この気持ちを。

5.本当の願いを言ってごらん
 それでもここまで疎まれてしまっては、もうこれ以上お傍に置いてほしいなどとは言えないか。
 あのときからずっと脳裏を掠めていた、哀しい決意をようやく固めて、小十郎は静かに微笑んだ。
「大きく、なられましたな。もう傅役など、あなたには必要ないのでしょう」
「……What?どういう意味だよ」
「いらぬと言っても聞かないから、耐えかねて出奔でもするよう仕向けられていたのでは……」
「なっ……違う!!そんなんじゃない、そんなこと、一瞬だって思ったことない!!」
    ずっと、そばに。いてくれるんだろ、こじゅうろう!
 その瞬間、感じた安堵が如何程のものだったか、とても言葉じゃ表せない。
 腕の中、ぎゅうとしがみついて言う主。必要とされている。そう思えばただただ嬉しくて、つい声音も追及も甘くなる。
「では、何故にこのようなことを?」
「悪かった……つい、やりすぎた。」
「反省してくださったなら結構ですが、この際です。言いたいことがおありなら、どうぞ小十郎にはっきりと仰ってくだされ。」
 瞳を覗き込んで言えば、むぐ、と耳まで赤くなって言いよどむから。
    あぁ、まさか。何ということだ!
 唐突に、何だか笑ってしまいたくなるくらいあっさりと、無体の数々の理由がわかってしまって。
 怪我で寝込むなど不甲斐ないと幻滅されたか、嫌味な奴だと腹に据えかねる思いが爆発したか。とにかく疎まれているのだとばかり思っていたのに。
    ……これは、この人ばかりを責めるわけにはいかねぇな。
 そう、政宗が知らないことが、もう一つ。普段小言ばかりの小十郎だが、本当は。
「……政宗様は、真実小十郎の全てなのですよ。俺はあなたの右目、あなたのために生きることこそが喜び。」
    あなたが望めば何だって、叶えてさしあげる。
 ただ一人の、愛しい、我が主。さぁ、本当の願いを言ってごらん。


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