転生パロ。後輩エレンと先輩にょた兵長。
特に何も考えていない頭の悪いアホラブコメ(笑)時系列いろいろに小話です。


■オレの彼女を紹介します。

 あごのラインで切り揃えられた、さらさらの黒髪。
 きゅっと吊りあがった黒目の小さな瞳は、長くけぶるように落ちかかるまつげで鋭さが少し和らいでいる。
 腕の中にすっぽり納まってしまう華奢な体。細い手足、くびれた腰。お尻も胸も小さいが、触れるとふにふにとやわいのを知っている。
 真っ白な肌はすべらかであたたかい。これまた小さな頭と小さな顎の上にはちょこんと小作りな赤い唇があって、はむはむくわえたらぷるりと弾力があって柔らかい。
 すっと長く整った桃色の爪。気の強さを表すようにツンと上向いた鼻筋。つるんとしたかかと。慎ましく窪んだへそ。
 くっきりした肩甲骨は、今にもそこから翼が生えて飛んでいってしまいそうな形をしている。

 本当に、この人はきれいだ。

「なんだよ……もう、撫で回すな」
「どうして。いいでしょう、触りたい」
 うっとりと告げれば、彼女は困ったように笑って、裸の胸にエレンの頭を抱き寄せた。ほんのちょっとの谷間に頬をすりすりと押しつけて、やさしく甘いそこに吸い付く。
「ばか。おっぱい星人」
「ヘンタイみたいに言わないでくださいよ。大体おっぱい星人がリヴァイさんのちっぱいで満足するわけないでしょ」
「てめぇの揉み方が悪いんじゃねぇのか、あ?エレンよ。ちっぱいで悪かったな」
 フンとへそを曲げて起き上がってしまったリヴァイを追って、エレンは背中から巻きつくように腕を回した。ぎゅっと胸に彼女を閉じ込めてしまう。
「悪いなんて言ってないです。リヴァイさんのちっぱいかわいい。オレの手にちょうど入っちゃうのがいいです。やわらかくてきもちいい」
「…………」
「オレ、リヴァイさんがリボンとか水玉のブラしてるのすごく好きだな。かわいい。いっつも今日はどんなかなーって期待してます。そんで脱がしたときピンクのここが出てくるのが最高に興奮する」
「きもい、ばか、さいてー」
「だってかわいいんだもん」
 あんまりにも甘ったるい声で言われて、リヴァイはぎりっと眉間に皺を寄せて歯を剥きエレンの腕を抓った。
「クソさみーこと言ってんじゃねぇ!」
 しかし、ほんのりと赤くなった耳を、背中から抱きつくエレンは見逃さない。
「リヴァイさんのツンデレ」
「うるせぇ。クソすけべやろー」
「きもちいいの好きでしょ?」
「……くそセクハラやろー」
 悪態をつきながら身悶える彼女のちっぱいをいじめつつ、エレンはとろけそうに笑って、リヴァイを抱えたままシーツの波に再びダイブした。


■オレのあのひとがこんなに可愛いわけが…あった。

 一般的に、高校入学の日、15歳の少年が浮かべる表情を思い浮かべてみてほしい。
 エレンは、その真逆の顔をしていた。
 落ち窪んだ眼窩には深い縦線が走り、カサカサの唇からはどんよりしたため息ばかりが漏れる。子泣きじじいでも背負っているのか情けない猫背で、足取りも重く覚束ない。金色の大きな目は虚ろで瞳孔ばかりが開かれている。
 控えめに言って、かなり怖かった。仕立てのしっかりした新品の制服が泣いている。自分だって夢溢れる他の生徒に着てほしかったと叫んでいる。そんなかんじだ。
 これが、実は志望していた進学校に落ちて今まさに巷で有名なヤンキー校で鴨人生の始まりを迎えんとするガリ勉系少年だったなら、ある程度納得できる姿だったかもしれない。
 しかしエレンはどちらかと言えば個人的正義感に障る人間には「駆逐するぞ害獣どもめ!」と叫んで飛び掛る危険人物認定済の少年だったし、入学するのも良家の子女の登竜門で有名な、むしろ両親や友人たちからは「頼むからあの学園で駆逐魂出すなよ」と必死で諭されるようなお上品な学園だ。そんなに言うなら地元の公立校行くよと言いたいところだが、医者の息子には色々あるのだ。
 中学卒業まで、いきいきと危険少年人生を謳歌していたはずのエレンが、なぜこうなってしまったのか。

 春休みに入り、突如として前世の記憶が戻った。
 言葉にしがたい壮絶な記憶の渦に、数日間気絶して眠った以外には何をしていたかも覚えていないほど混乱した。ここで、家族との仲によそよそしい溝が生まれた。
 混乱が落ち着いてすぐさま、エレンは二人の幼馴染を訪ねた。前世から親友であったアルミンと、家族のように育ったミカサ。二人ならきっと受け入れてくれると信じて飛び込んだエレンを待っていたのは、心底の優しさを宿した、明確にカウンセリングを薦める言葉だった。ここで、親友たちとも距離ができてしまった。
 誰も自分のことをわかってくれない。
 いやもしかしてやはり、自分は今、何かおかしな妄想に取り憑かれて狂ってしまっているのだろうか。
 家族も、友だちも、自分自身すら信じられない。一体今、こうして生きている現実は本当に現実なのか、それすらわからない。
 腫れ物に触るように促してくる家族から逃げるように、気付いたら高等部の学舎へ辿り着いていて、



「あっれー、エレンじゃん。やっほー!つかすげー顔ブフゥwwww」
 廊下でめちゃめちゃ明るいお姉さんに爆笑されています←今ココ。



 ふざけんなよ何だよオレのシリアスなこの二週間ばかりを返せよ!!と叫びたい。叫びたいが、あまりの衝撃に声が出ない。
 ちょっとぼさっとした無造作ハーフアップ、眼鏡、やや肩幅の広い長身細身、中性的なその顔つき。
「は……ハ、ハン…………!?」
「そうだよハンジだよー。ハンジぞえ!なんつって!なになにーどったのエレン〜。地下牢にいたときよりヤバイ顔してるよ?こんな平和な世界でさぁ、うら若き少年のする表情じゃないって!元気出せよー!」
 前世で見慣れた兵団服とは全く違う、セーラーカラーにボックスワンピースの学園女子制服を着ているが、この見た目にこのテンション、間違えるはずがない。
 ハンジ分隊長。ハンジさんだ。
 しかも、記憶がある!
 自分がおかしかったわけじゃない。あれは確かに、どこかの世界のいつかの時代で、本当にあったことで。そこを生きたエレンの魂が生まれ変わり、新しい体と人生を得た。妄想でも幻覚でも幽霊の憑依でもなんでもなく、本当にそうだったのだ!
 その証拠に、
「ハンジ!おいクソメガネ、そこにいんのか?」
「あーっリヴァイ!いいとこに来た、こっちこっち!」
 ハンジの声に導かれて、階段を折り返し姿を現したその人は、
「へ、ちょ…………」
 刈り上げじゃなくクラシカルボブだし、小さくても厚みのあった体躯は更に小さくほっそりしているし、ハンジとお揃いの制服の胸元はささやかながら膨らんでいて、純白のソックスが目にも眩しい、つまりは記憶とは大分違う姿ではあったけれど。
「…………エレンか?」
 随分と可愛らしくなった声で、それでも、自分を呼ぶときの響きは変わらなかった。
「へい、…………ちょ、へいちょお!!!」
「うぉっ!?」
 兵長だ。リヴァイ兵士長。人類最強で、上官で、厳しくも優しい、大好きだった、オレのリヴァイ兵長。
 ぎゅっと抱きしめた体は小さくて細くて柔らかくて、でも温かい。トクトクと脈打つ鼓動の音が密着した体を伝わってくる。生きている。このひとは、生きて、確かにここに存在しているのだ。

「へいちょ、うわぁああん兵長、兵長生きてる!!生きてるかわいいぃいいいうわぁあああん!!!」
「おい、コラ。エレンよ。落ち着け」
「兵長だ兵長なんですよねオレっエレンですエレンなんです!!兵長、オレの兵長!兵長のエレンですほんとうにほんとうなんです!!」
「いやわかってるから。エレンってさっきから呼んでるだろうが。俺のかどうかは知らんがお前がエレンなのはよくわかったから」
「よがっだ、おれ、オレ……もう一生独りぼっちだって、頭ん中ぐちゃぐちゃなのに誰にもわかってもらえなくて怖くて、すげぇ怖くて」
 会いたかった。会いたかった。会いたかった!
 ひぐっと喉を鳴らして泣くエレンに、リヴァイは一度言葉を呑んで、肩口にぐりぐり擦り付いてくる頭を優しく撫でた。
「エレン。ほら、よしよし。がんばったな。俺も、会えてよかったぞ。いいこだから泣くな」
 顔を上げさせて、取り出したハンカチで涙を拭ってやる。
「ったく、ばっちぃな。ほらチーンしろ」
 あの、兵長が。しかめっ面で舌打ちしつつも、鼻からてぃるーと流れ出た液体まで世話してくれるなんて。
 昔ミカサが故郷のサブカルチャーとして紹介してくれたニンジャコミックのカップルの如く、リヴァイの手で鼻水をかんでもらいながら、エレンは思った。
 あ、これもう結婚しよ。するしかないわ。


■天使な小生意気!

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった顔をきれいにしてもらってから、エレンはまたリヴァイにぎゅむっと抱きついた。
 サイズも凹凸も何もかもぴったりの抱き心地。やはり自分と兵長は運命で結ばれた存在なのだ、とエレンは強く確信した。
「兵長、好きです。大好きです」
「そうか」
「ぎゅってしていいですか?」
「もうしてるな。さっきからずっとな」
「えへへ!じゃあキスしていいですか!」
「やだよ」
「えぇっ!!?」
 ぷいっと腕から離れてしまったリヴァイを、涙目でエレンが追う。どうしてどうして、と尻尾を丸めてきゅんきゅん鳴いて縋る子犬のような姿に、リヴァイもさすがに足を止めて振り向いた。
 ビシ、と人差し指を鼻先に突きつけて、
「あのな、エレン。俺は今生では女だ。17年も女をやってりゃ、前は前今は今、身も心も女人生を楽しんでる」
 どうだ見ろ、かわいいだろうと言動は女王様然としているが、ちんまりした体でふんぞり返る様は確かにかわいらしい。
「これは自慢だが、俺は生まれてこの方、ちやほやされなかった瞬間なんかねぇ。そしてそれに満足してる。可愛がられるのは気持ちがいい。それっていい女の特権だろ?つまりだな」
 ふんすと胸を張るリヴァイは、自信満々に唇の端を吊り上げて言った。
「俺を欲しいと思うなら、俺がどれだけ価値のある女か、お前の行動で見せてみろ。いきなりキスを迫るなんてお粗末なやり方じゃ、俺は納得してやらねぇぞ?」
 順序だてて、大事に大事に、大切に愛でてみせろ。そうじゃなきゃ、やなんだよ。


 あの瞬間の、魅惑的で艶やかでそのくせ清らかで可憐な、あの表情と声。
 思い出すだけで迸る何かを、どうして抑えることができようか……いやできない。ズダン!と叩き割る勢いで机に握った拳を振り下ろして、エレンは叫んだ。
「お、オレ……オレが間違ってました!兵長、いやリヴァイさん!オレ、あなたを世界一大事にして射止めてみせます。絶対に満足させてみせます!」
「エレンおい、落ち着けって。場所わかってる?ここ俺たちのクラス、お前の前にいるの兵長じゃない、俺ジャン。クラスメートになったジャン。その件あと何回聞けば落ち着いてくれんの?とりあえず鼻血拭けよ怖いから」
「うぉおお兵長ぎゃんかわ!!結婚しよぉおおお!!!」


■×××××様がみてる。

 入学式の日の朝、学舎の廊下のど真ん中で、人目とか外聞とかを一切気にせず号泣と抱擁と熱烈なプロポーズというミラクルコンボをかます。
 そんなセンセーショナルな出来事は、あっという間にエレンの名前を学園内で有名にした。
「しかもねー、相手がリヴァイだからね。リヴァイ、才色兼備で学園内の憧れのお姉さまってやつだから。リアル少女マンガ人生送っちゃってるから。うけるw」
 ぎゃははとおなかを抱えて笑うハンジは、かの事件以来、エレンとリヴァイをネタにしては笑い転げて、人生幸せそうだ。そろそろ腹筋も割れてきている頃だろう。
 昼休憩にわざわざ教室を訪ねられてまで笑いものにされているエレンはといえば、あの日以来すっかり心穏やかに、過去の記憶の何もかもを受け止めて消化できるようになっていた。
 理解者を得ると共に愛に目覚めて、内面の充実は外見にも輝きを与えた。亡羊として、門を潜ってからあの瞬間まで、ナニあの人ぼっさいもっさいこっわいと周囲からヒソヒソやられていたのが嘘のように。
 キラキライケメンに生まれ変わったエレンは、日の光に艶めく髪をサラリと風に遊ばせて、金の瞳をきらめかせ、つやつやの頬に微笑を乗せる。 「そうなんですか。さすがオレの愛するリヴァイさん……強く優しく美しく、オレ以外の人間まで魅了してしまうなんて、罪なひとですね」
「ぶっほぉおwwww」
 まぁちょっと、多少、違う方向に振り幅が大きかったようで、言動にアレな感がありハンジの腹筋を駆逐しまくるという副作用はあったものの。
「でも仕方ないですよね。リヴァイさんが魅力的なのは当たり前だし。オレ、どんなにたくさんの人がリヴァイさんを好きだとしても、誰にも負けないくらい愛してる自信ありますから!」
 ぱぁあああと後光がさすその笑顔は、夢と希望と愛に満ち溢れている。
 あの日、クラスメートとして再会したジャンが、あれっお前って意外といい奴だったんだな……とエレンが涙ぐむほど優しい言葉をかけざるを得なかった、あのエレンを思えば、その笑顔だけで胸が温まるというものだ。
 主人公とはこうでなくては。あんな今にも首を括るか無差別殺傷事件でも起こしかねない闇のオーラを纏った姿はもう見たくない。
 愛って、偉大だなぁ。
 そんなジャンやモブたちの安堵の思いを、ハンジは平気な顔で踏み潰した。
「いやーどうかな。エルヴィンには負けるかもよ」
 言わなくていいでしょうそんなこと今こいつの前でさぁ!!
 分隊長!アンタほんとに生き急ぎすぎです!!

 教室内で群集に徹する少年少女たちは、ツッコみたいのを必死で耐えた。
 だってエレンが。エレンの目が。輝きを瞬時に失って瞳孔ぱっかり。笑顔も固まって引き攣っている。絶望再来の予感。
「…………えっ?今何て言いました?オレよく聞こえなくて」
「えー?だからエルヴィンだって。エ・ル・ヴィ・ン!」
「あーあーあー何だろ、急に耳の調子が」
 カタカタ震えながら抗うエレンにも、ハンジは容赦しなかった。
「ダメだよ、エレン。リヴァイのこと追っかけるなら、あいつからは絶対逃げられない。だってね」
 エルヴィン、あの子の父親だよ。


 リヴァイ・スミス。それが今世でのリヴァイの名である。
 それを聞いた瞬間、エレンには見えた。
 生れ落ちた瞬間から彼女を腕に抱き、よだれも涙もおむつの世話も厭わず、よちよち歩く彼女と手を繋ぎ、イベントにはデジカメと一眼レフ持参で駆けつけ、風邪をひけば一晩中看病をし、蝶よ華よと可愛がる、七三ヘアーの金髪男。
 そうしてまだ稚い小さな彼女は、金髪七三にぴょんと抱きついてこう言うのだ。

――――リィ、おっきくなったら、えぅびんのおよめさんになる♪

「うわぁあああああ嫌だいやだいやだぁあああああ!!!!こんなのひどい!!なんで、どうしてこんなに世界は残酷なんだ、くちっ、くちくしてやるぅうううう!!!」
「エレン落ち着け!!大丈夫だから、お前には兵長との未来があるから!!頼むから生きろ死ぬな!!」
「どうかなー?リヴァイだからなー?ファザコン万歳で未だに反抗期きてないしなー?ウォール・エルヴィン鉄壁だからな〜〜〜???」
「分隊長ぉおお!!!イジメだめ絶対!!!」
 クラスのモブに徹していたモブの中のモブ、モブリットが耐え切れず飛んできてハンジを締め上げる。
 その隙にジャンがエレンの両腕を掴んで噛み千切るのをやめさせつつ、これから先リヴァイとのあまあまイベントがどれほど待っているか、そしてそれは肉親でないエレンだからこそ得られる未来なのだということを、必死に説いて聞かせた。
 エレンの目からぼとぼと涙が落ちて、全力で拮抗していた腕の力が抜ける。
「ジャン……っ、おまえ、いい奴だな。生まれ変わっても馬面とか思ってて本当にごめんな……!」
「お、おう!そんなこと思ってやがったのかと殴りたい気持ちは山々だが、もういいからとにかく元気出せよ!」
「ぐすっ……そうだよな。父親じゃできないこと、恋人ならいっぱいできるもんな。エルヴィン団長には渡さない。兵長のバージンはオレのものだ!」
「えっ、ちょ、」
「ありがとうジャン!オレ、兵長に会いに行ってくる!」
「待てコラ、おいエレン!?おま、絶対兵長の前でそれ言うんじゃねーぞ!!?俺が殺されるわ!!!」
 極論を言ってしまえばそうなのだが、あまりに素直すぎる。
 エレンの宣言にジャンが真っ青になって追い縋るも、この恋路においては宿敵と言っていい存在の出現に焦りと混乱を極めたエレンを止められるはずがなかった。
 数分後、一学年上のクラスのフロアで、頬を餅のように腫らして気絶しているエレンが発見されることとなる。

 律儀にもエレンを追っていったジャンを尻目に、モブリットはハンジに問いかけた。
「何であんな意地悪なこと言ったんです?エレンが可哀相でしょう……」
 ぴゅいぴゅいと口笛を吹いてとぼける気満々だったハンジだが、彼の苦い表情を見て、だってさぁと唇を尖らせる。
「リヴァイはずっと、私とエルヴィンだけのお姫さまだったんだよ。どうせすぐに奪られちゃうんだし、こんくらい乗り越えてもらわなきゃ」
 前世今世と腐れ縁を続けてきたハンジは、からかう一方でエレンに嫉妬もしていたらしい。今や立派な小姑状態。ウォール・エルヴィンの前にウォール・ハンジ。鉄壁の守りだ。
 コイバナする相手は選ぼう。エレンにそう忠告することを、モブリットはため息とともに誓ったのだった。


■俺の頭の中の消しゴム、今すぐ仕事しろください。

 リヴァイと手を繋いで、特にあてもなく街をぷらぷらと歩いていたときのこと。
 ふと通りかかった店の前で立ち止まり、エレンはディスプレイされたマネキンを指した。
「リヴァイさん、こんなの着ないんですか?似合いそうなのに」
 女人生を満喫していると話すリヴァイは、いつも大抵スカートだ。基本的にフェミニンを好んでいるようで、いつもワンピースだったり、レースのついたものだったり。色でいえば白やピンクやオレンジ。
 しかし、エレンの指すマネキンはそれらから対極と言ってもいい、原色使いで布が少なく、肩や太ももが強調された、所謂ギャル服。リヴァイは首を傾げた。
「ふわふわしてるの、かわいいだろ?お前はこういうの嫌いか?」
「いえすごい好きです。すっごい好きです。ていうかリヴァイさんが好きです。何着てても大好きです。でもほら、たまにはこういうカジュアルっていうか、ちょっと攻めたかんじのやつもいいんじゃないかなって」
 ねっねっと繋いだ手を振って言い募るエレンを、リヴァイは可哀相に…と憐憫に満ちた目で見ていた。
「お前……そこまで飢えてんのか?」
「だって焦らしてんのリヴァイさんじゃないですか!ちょっとくらい見たいって思って何が悪いんですか!オレわるくない!まちがってない!」
「うるせーな。俺がそうホイホイ簡単に股開く女でいいのか、やだろ?まだ我慢しろ」
「わかってます貞操観念しっかり者なリヴァイさんオレの嫁!我慢するから一回だけ着ましょうよこれ、オレ買ってあげますからぁ!」
 ぴぎゃーと泣いて彼女の露出を懇願する、残念なイケメン。
 周囲の女性たちは遠巻きに冷たい視線をエレンへ送っているが、懇願と欲望の的にされているリヴァイ本人は、それほど気分を害した様子もなく、もう一度まじまじとマネキンを見上げた。
 うーん、としばし唸って、
「でも、こういうの、エルヴィンの趣味じゃないんだよな」
 サラリと宣った。

 ハイ出ましたよ金髪七三の呪い。
 やさぐれる心中がエレンの口の端をひくひくと引き攣らせるが、何とか必死で平静に冷静にと呪文を唱えて深呼吸。
 現在ただの目の上のたんこぶとはいえ、エルヴィンは前世じゃ歴代団長でも実力随一の切れ者で、尊敬しか抱けない立派な男性で、だからこそ悔しいほど頭が上がらないすごい人だったのだから。
「えっと……リヴァイさん、いつもふわふわなの着てるの、団長の趣味なんですか?」
「そう。あいつ昔から、俺にドレス着せては私のお姫さま〜って甘やかすのが大好きだったからな。今日もこれあいつが選んだ服だ」
 可愛いシンデレラ、とか私の白雪、とか囁いている姿が簡単に想像できた。
 今すぐ忘れたい。
「…………やっぱり、デートすんのにエルヴィンが選んだ服じゃまずかったか?」
 不愉快な想像図にぎしっと奥歯を鳴らしたエレンに、リヴァイはばつが悪そうに眉間を寄せて、ぎゅっと抱きついた。
 エレン、おこ?
「いえ全然おこじゃないです。好きです!」
 視線の問いに、でれ〜んとやに下がったエレンが答える。
 その即答ぶりに満足したリヴァイは、エレンの腕をとってショッピングモールの中へ歩き出した。
 兵士として体を苛め抜いていた前世ほどではないが、それなりに男らしい二の腕にぺったりと頬をくっつけて、くふんと笑う。
「いいこだからご褒美。下着も選ばせてやろうか?」


 どうしよう、兵長が可愛すぎて生きるのが辛い。ウソめっちゃ幸せ。ところでこの世から金髪七三の存在だけ上手に駆逐する方法がないか一緒に考えてくれない?
 バイトから帰宅したジャンがスマホをチェックすると、そんなエレンからの惚気と呪詛が入り混じるラインで画面が埋め尽くされていた。
 俺、何であいつと仲良くしちゃってるんだろう。辛い。