*別れという門出。ハンジさんの性別はお好みで。


番外編 ハンジさんとにょた兵長


「行くんだな、ハンジ」
 朝の青い光の中、馬を傍らに佇む姿に目を細めた。
 羽織ったケープには、翼の文様がない。身軽な旅装姿。それだけでハンジの選択は伝わった。

「初めて壁外に出て以来口にしたことがなかったけどさ、実は私には夢があったんだよ。きらきらしい子どもが調査兵団を志した理由。皆食われちゃってもう今じゃ誰も知らない、その夢っていうのはさ」
 肌寒いのを気にせず外へ出て、ハンジの手を取った。ぎゅっと握られる。
「世界中のあらゆるものを見たいんだ。動物も、植物も。道端の石もさぁ、その土地によって形が違うんだって知ってた?見える星も変わるらしい。雲の形や流れる速さはどうなのかな。空の色は?雨のにおいは?知りたいんだ、もっともっと」
「お前らしい」
「そうだろ。叶うんだよ、今なら。本当に。私、今ちゃんと起きて現実にいるのかな?」
 ちょっと一発殴ってみてよ、と言われて、馬鹿言うなと笑った。
 笑って、殴る代わりにぎゅっと抱きついた。背中に腕を回し合って、お互いの体温と匂いをしっかりと刻み込む。
「兵団に残ってもよかったんだけどさ。違うんだよ。私はもっと自由に、心のままに、好きなだけ好きなものを見に行きたい」
「あぁ、行ってこい」
「もう憎しみと向き合うのは終わり。本当に好きなものを心行くまで研究したいんだ」
「それでいい」

 肩口に、ぽとぽとと雫が染み込む。
 わかっていたけれど、リヴァイはハンジの胸に顔を埋めたまま、気付かないフリをしてもう一度、行ってこいと呟いた。
「いつかさ。もし、あーもう腹いっぱい!やり尽した!って思ったら。そのときはここに戻ってくるよ。変なものいっぱい見つけて話してやるから、朝までだって、次の次の朝までだって、リヴァイは聞いていてくれる?」
「……楽しみにしてる」
 お互いにそれほど若くない。ただでさえ酷使した体に残された時間で、ハンジの興味が尽きるとはとても思えない。
 叶わない約束だろう。それでも。
 ばっと顔を上げたハンジは、いつものように明るく笑って、悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
「次会うときには、あなたの家族が増えているといいな。できればあなたにそっくりの。そうしたら私は大爆笑間違いなし!」
「何で笑うこと前提なんだよ、クソメガネ」
 ぎゃはは、とらしい笑い声を上げて、ハンジは馬に飛び乗った。
「期待してるよ、リヴァイ!じゃあ、行ってくるね!」
 馬を駆けさせて、振り返らないまま大きく手を振って。
 ハンジの姿は、すぐに見えなくなった。


 いつも、あの戦いの最中でさえ、「またね」と言って別れるのがハンジだったのに。
 人類勝利の日にも流れなかった涙が、ぽつりとリヴァイの頬を伝って、落ちた。



ハンジさんが実は一番兵長と精神的に繋がっている、というのがとても好きです。