エルヴィンと!


 あまり人の多くない場所で静かに暮らしたい。
 リヴァイの希望にエルヴィンは快く頷いて、市街地のような喧騒がなく、治安も悪くなく、ついでに調査兵団本部への移動もスムーズに行える土地を探し出して、家を建てた。
 身の丈にあった大きさの清潔な家と馬小屋があり、ほんの少し歩けば何かと助けてくれる気のいい村人たちがいる。
 彼の説明した立地条件にわずかな疑問はありつつも、文句のない環境だ。リヴァイは心からエルヴィンに感謝して、この小さな家での新しい生活を始めた。

 そしてすぐに、そのわずかな疑問は解消された。

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「やぁリヴァイ、お邪魔させてもらっているよ」
「おいエルヴィン。毎度毎度言ってるが、仕事を抱えてうちに転がり込むな。しかも家主の留守中に勝手に入るんじゃねぇ」
「冷たいな。私とお前の仲じゃないか」
 村で卵や牛乳を分けてもらって帰ってくれば、エルヴィンが涼やかな顔でダイニングテーブルにどさどさと積んだ書類と向き合っていた。
 リヴァイは一応の体裁として抗議はしつつも、もう驚かない。
 最初は驚いたし、何か起こったのかと心配した。しかしさすがに、ほぼ連日と言っても過言ではない程度の頻度で繰り返されれば、悟らざるを得ないだろう。
 つまり、この男は最初からこれが狙いで、兵団本部と行き来しやすい場所を選んでいたのだ。
「新しい兵団の体制を早期に固め上げるために、このところ缶詰なんだ。あのまま執務室に閉じ込められていたら発狂する」
「だからってここまで出てくる必要もねぇだろ。本部内には私室もあるし、兵団の食堂にもいい料理人が入ったって聞いたぞ」
 エルヴィンが逃亡する度に、兵団本部でがっくりと肩を落としているであろう部下たちの姿を思い浮かべると、リヴァイの方が申し訳なくなってくる。
 紅茶を入れてエルヴィン専用と決めたカップを差し出しつつ、暗に戻ってやれと視線で促すと、彼は茶目っ気たっぷりに肩を竦めてみせた。
「いやだね。私はもう我慢しない。私室よりリヴァイの家の方が清潔だし、リヴァイのごはんの方が私にはおいしい。道中で気分もリフレッシュできるし、仕事がはかどるなら場所なんてどこだっていいじゃないか」

 もう40を過ぎるかどうかのおっさん相手に、そういうところがちょっと可愛らしいと思ってしまうのは、彼言うところの「私とお前の仲」だからこその贔屓目なのだろうか。
 いや、でも、考えてみてほしい。
 ほんの少し前まで、人間らしい情を削ぎ落としても勝利を得るのだと、決死の思いで生きていたエルヴィン。
 そんな彼の、こんなにも肩の力が抜けた、素のままのわがままを見せられて、心を動かさない人間なんているのだろうか。
「リヴァイ、今日のごはんは何かな?」
 にこにこわくわく。
 そんなエルヴィンの表情に、今日もまたリヴァイは負けた。
 そもそも、長い付き合いの中でエルヴィンに勝てたことなど一度もない。命令だ、と冷たく言われても、お願いだよ、と優しく微笑まれても、リヴァイが「リヴァイ」である限り、エルヴィンの求めに応えない選択なんて、あるはずもなかった。
「……卵を貰ってきたから、ジャーマンオムレツにする」
「それは楽しみだ。さっさと仕事を終わらせてしまおう」
 卵はふかふかだと嬉しいな、なんてまた可愛らしいわがままを聞きながら、もういっそ、念のためと作られていた客室をエルヴィンの仕事部屋として与えてしまうべきか考える。
 そうしたら、仕事部屋で仮眠も取れる。体が楽になるだろう。
 それに、寝起きで崩れた前髪をもっと見られるようになるとしたら。あの無防備なエルヴィンの姿は、割と、結構、胸にきゅうっとくるものがある。捨てがたい選択肢。

 兵団幹部の者たちに泣かれたり叱られたりしそうなこの提案を、口に出すべきか否か。これは最近のリヴァイの懸案事項の中で、特Aクラスの重要課題だ。



エルリのにょた兵長は甘え甘やかしつつナチュラル夫婦思考。