後日談 とある兵団専属医の私邸にて
「えぇ、えぇ。そういうことですか。アルレルト分隊長から内密にと手紙を預かったときには随分と心配したものですが、そういうことならば」
らしくなく椅子に浅く腰掛けて緊張した様子のリヴァイに、医師は目尻を下げて何度も頷いた。
かつて女性を捨てきって戦い抜くことを望んでいたリヴァイからこのような話が出るとは。長年兵団専属医として勤務してきた彼女にとっては、ひどく驚くべきことであり、同時にとても嬉しいことでもあった。
「この一年、しっかりと養生をしていたようですね。あなたは以前から一人だと不摂生になりがちでしたから、食事時を狙って訪問しなさいと皆さんにアドバイスしていた甲斐がありましたよ」
「あんたの差し金だったのか」
なるほどとリヴァイが苦笑する。思い起こせばこの一年、あの食卓に一日のうち一度も客人が座らない日はほとんどなかった。
まるで母親のように、リヴァイの体のことも心のことも、よくわかってくれている。そんな彼女だからこそ、このような相談もできる。
「結論から言いましょう。妊娠は可能です」
「…………本当に?いや、あんたの腕を疑ってるわけじゃないが。ただ、そんな」
「えぇ、簡単ではないでしょう。あなたの体は発育不全の影響で小さいし、月経も不定期。本当に子どもを望むなら、妊娠にも出産にも努力と覚悟が必要です。医師としても女としても、父親となる人としっかり話し合って決めてほしいわ」
出産は女性にとってかなり危険度の高いものだ。ましてやリヴァイの体と年齢では、挑むのなら、命懸け。
巨人のうなじは目に見えたし刃の届くものだったが、こればかりは体の中の、手も足も出せない場所で起こる戦いである。もしかしたら、リヴァイにとって、最も過酷で恐怖の戦いとなるかもしれない。
「それでも、その……欲しいと言ったなら。あなたは応援してくれるだろうか」
医師はその答えに目頭を熱くした。まっすぐに見上げてくる、娘のように思う小さな彼女の、真摯な胸の内がとても嬉しかったから。
平穏な世界がやって来たのだ。戦うことでしか生きられなかったリヴァイが、それを望めるほどに。応えたいと思える愛情をうけて、癒されて、今、ようやく。
「勿論、私の知識の限りを尽くして。まずは女性の力を高める食べ物でしっかりと体を作りながら、妊娠しやすい頃合を見つけることから始めましょう」
そうと決まれば、と大きく手を叩いて、リヴァイにノートとペンを渡し、医師は張り切って話し始める。
「リヴァイ兵士長!いいですか、私の訓練はとても厳しいですよ。しっかりと学び実践するように!」
「……了解した。あなたの指示に従おう」
実は公にもほとんど見せたことのない敬礼のポーズで、リヴァイはくしゃりと相好を崩して、声を上げて笑った。
おまけの蛇足 とある日の調査兵団長執務室
「最近兵長の様子がおかしいです」
「兵士長が医師のもとへ通っているという噂を聞きました」
「もしかして、兵長……病気!?」
「いや、そんな話は私も特に聞いていないな。顔色もむしろ以前よりよくなっていると思うが」
「ですよねぇ。でもじゃあ何で兵長は医師に掛かって……えっ」
「まさか」
「それって」
「「「…………………………」」」
「……何だいその目は。睨まないでくれ、私は無実だ」
「えぇっ!?団長じゃないんですか!?そんな、私、団長なら許そうと思ってたのに」
「ということは、エレン?」
「いやいやいや!違うに決まってんだろ!まだ結婚どころかお付き合いも認めてもらってないんだぞ!」
「エレン、君は若いのになかなかしっかりしているんだな」
「団長、感心してる場合じゃないです。え、本当に団長じゃないんですか?」
「大人って汚い……」
「まさかとは思いますけど、嫌がる兵長を無理矢理……で言えないとかじゃないですよね!?」
「なるほど。君たちが私のことをどう思っているのか、とてもよくわかったよ。次回の任務告示を楽しみにしておくといい」