リヴァイ班と!
街の入り口まで荷馬車に乗せてくれた村の老爺に礼を言って、リヴァイは待ち合わせ場所である広場へと向かった。
「兵長、こちらです!」
私服のペトラがにこにこと頬を上気させて手を振っている。今日も白いフリルシャツに藍色のリボンタイが実によく似合っている。黒とグレーのストライプが入ったズボンの裾をいくらか折り曲げて穿いているのが、少年のような彼の魅力にぴったりだ。
ペトラはおしゃれだ。階級や任務を取り外した一個人となってからは、隣に並ぶのに少し勇気がいる。
しかし今日は、普段よりはほんの少しだけ進む足が軽かった。
「兵長……新しいお洋服ですか?素敵です!とっても!」
瞳をきらめかせてペトラが褒めてくれるので、リヴァイも照れくさいながらも嬉しくて、ちょこんと口の端に笑みを乗せた。
細かい意匠のレースをあしらった袖口がふんわり広がったブラウス。ひざ下丈のスカートは、深く明るい紺碧が美しい。背中側で締めるリボンがちょっと恥ずかしいが、シンプルなだけより遊び心はあると思う。
「今日はゲストも呼んでますから、兵長のこのお姿を見たらきっと喜びますよ」
さりげなく背中へ手を添えて促すペトラについて、リヴァイはとあるカフェの扉をくぐった。
「エルド、グンタ!」
「お久しぶりです、兵長」
「お元気そうで何よりです」
日当たりのいい清潔な店内には、元リヴァイ班の二人が座っていた。
エルドは作図班として遠方調査隊に、グンタは移住地の建設と拡大を主任務とする部隊へ配属されているため、あまり会えない。二人の笑顔を見て、リヴァイはほっと息をついた。
ペトラが椅子を引いてくれた席に座り、改めてエルドとグンタを交互に見つめる。頬もこけていないし、隈や怪我なども見られない。精悍で活力に満ちた顔だ。
「お前たちと会うのは本当に久しぶりだな。特にグンタとは、もう半年以上になるか」
「行きっぱなしの任務ですからね。でも、やりがいはありますよ」
「今日はたまたま休みが重なってよかったですよ。オルオとエレンは可哀相に明日まで任務で帰って来られませんが」
「いいんだよ。その二人は何かしら伝達配達って兵長のお家に入り浸ってるんだから、今日くらい仲間はずれにしてやる」
フンと鼻息荒く言い放つペトラに苦笑するエルドと、お前が言うかと肩を竦めるグンタ。全員揃わないのが残念だが、相変わらずの懐かしい雰囲気だった。
「さ、兵長。ここのお店はスイーツと紅茶が自慢らしいので、好きなものを頼んでくださいね」
差し出されたメニューブックを覗き込むリヴァイに、ペトラとエルドがあれやこれやとメニューの特徴を説明してくれる。グンタはスイーツよりも紅茶の種類に熱心に目を通していた。
今日はもともとペトラから、最近話題のカフェに行ってみたいが男性だけでは入りにくいので、と誘われていた。リヴァイが頷いたので、ペトラが気を利かせて班員を誘ってくれたのだろう。
「ペトラが甘いものが好きなのは知っているが、エルドとグンタは無理をしていないか?」
「いえ、そんなことは。移住地にはまだ砂糖も果物も流通が少ないので、楽しみにしてました」
「俺はどちらかというと、作るときの参考に」
エルドの言葉に、そういえば彼はいつも楽しげに調理当番をしていたことを思い出す。
「そうか、エルドは菓子も作るのか」
「非番の日にちょろっとやる程度ですが。腕前はなかなかのもんだと思いますよ」
「あー!お言葉ですけど、兵長の作るスイーツも負けてないと思うよ!」
なぜかペトラが自慢げに胸を張るのに、エルドとグンタが驚いた顔でリヴァイを見つめた。
リヴァイは料理など、兵団にいる頃にはしなかったのだ。抜きん出た実力から、当番を分担するような下っ端の地位にいた期間は極端に短く、必要に迫られることがほとんどなかった。そもそも興味もなかったため、休日でも自炊はしていなかった。
「いや、その。一人になって料理なんかもしてみてはいるが、エルドほどうまくはない。手の込んだものはまだあまり作れないし……よかったら、暇なときにでも、色々と教えてほしい」
照れくさそうに頬を掻くリヴァイを見て、エルドとグンタはほぅと息をついた。
彼らにとっても大切な上官は、穏やかな生活を楽しめているのだ。それは戦いの日々が終わった今の時代に相応しい姿で、何よりも喜ばしいことだった。
「俺でよければ、いつでも。どんなものがいいか考えておいてください」
ほくりと微笑んで言うエルドに続いて、グンタも目元を和ませる。
「……兵長は随分と変わられましたね。以前のお姿も、勿論俺たちにとっては憧れと尊敬の象徴でしたが。今の女性らしい髪型やお衣装も、とてもお似合いだと思います」
相変わらず眉のない強面な彼が、存外優しい声で話す。それが心からの賛辞だとわかっているリヴァイは、うぅ、と唸って視線を落とし、気まずそうに白状した。
「実は先日、流行やら何やらに騙されて服選びを失敗してな……今日の服装はエレンの見立てだ。せっかくだしと卸してみたが」
「「「えっ」」」
「恥ずかしい話だが、私の女子力はあいつにも到底及ばん、お粗末なもんだ」
どういうことだ?
エレンと買い物に行ったってことか。
私、聞いてない!
素早く忙しないアイコンタクトが三人の間で交わされる。結果、完全なるエレンの有罪確定だ。
「あー……エレンのセンスもなかなか隅に置けませんね」
「そうだな、意外だがあいつの選ぶものは悪くない。このスカートは海の色に似ているそうだが、お前たちもそう思うか?」
ぎりぃっと奥歯を鳴らすペトラの般若顔から視線を逸らして、エルドとグンタは生温い笑みで紅茶に口をつける。
エレンに選んでもらった服を、エレンのいないときに着てきてしまうとは。
リヴァイは男が服を贈る意味合いを理解していない。エレンを気の毒に思いつつも、結局エルドもグンタもリヴァイをたしなめることはしなかった。
悪いな、エレン。抜け駆けしたお前が悪い。
帰り際、リヴァイは店頭に並べられたディスプレイを覗き込んで、焼き菓子のセットを一袋購入した。
オルオへの土産だと言うと、ペトラはあからさまにぶーたれて、エルドとグンタはオルオに代わってと嬉しげに頭を下げた。
「オルオが戻るのは明日だと言っていたな。明日、オルオと顔を合わせる奴はいるか?」
「「「……」」」
エルドとグンタの目は中央のペトラに向けられているが、彼はその視線を宙に逸らして知らないフリのポーズだ。
「……エルド、グンタ、ペトラ」
リヴァイの目が据わり、軍靴でするようにカツッと踵を鳴らして居住まいを正した。その音に反射的に敬礼の姿勢で揃う三人に、再度問う。
「お前たちの中で、明日オルオに俺からの伝達を確実に伝えられる者は誰だ」
「はい!私です!」
かつての上官そのままの表情と圧迫感。久々のそれにペトラが青ざめて声を張る。巻き込まれたエルドとグンタは歯を食いしばって汗をかいていた。場所柄かなり浮いているが、構っている余裕はない。
「ペトラ。お前には明日、この菓子と伝言をオルオへ必ず届けてもらう。できるよな?」
「勿論です!伝言内容をお願い致します!」
「次の機会には、お前も必ず顔を見せてほしい。息災でいろ。以上だ」
「承りました!!明日、私ペトラ・ラルよりオルオ・ボザドへ、必ず伝達致します!!」
「いいだろう。俺の問いを一度無視したことについては、エルドとグンタの召集という功績をもって不問に処す。ペトラよ、次はねぇぞ」
「はいっ!申し訳ありませんでしたぁ!!」
ペトラの半泣きの謝罪が街路中にこだました。
突然に始まった兵式のデモンストレーションに周囲から視線がビシバシ飛んでくる。
目を吊り上げていたリヴァイもさすがに力を抜いて、未だ敬礼姿勢で動かない部下たちに楽にしろと手を振った。
「では、解散。と言いたいところだが、私は家の近くの村まで帰る足が必要だ。馬車をつかまえるのを手伝ってくれると助かるんだが」
「あ、俺馬ですよ。乗せていきましょうか?」
「兵長、俺の馬の方が安定感ありますよ」
「ちょっと二人ともずるいよ!私だって立候補したいのに、こんなタイミングで言えないじゃんかよー!」
「……お前たち、私の話を聞いてたか?」
何で全員、揃いも揃って馬に乗せる前提で話しているのだろうか。
ちなみにエレンは抜け駆けで次の約束をしているので、お土産ナシなのでした。