にょたエレンで夫婦。の、転生バージョン。
エレンが元男なので、ほぼエレリです。同じ題材ですが転生というからにはこういうのもアリでないかな?という冒険。


旦那様が上司を好きすぎる話


 アンタは前世ってのを信じるか?
 オレは信じてる。だってオレ自身が、いわゆる記憶持ちってやつだからだ。

 オレは前世、エレン・イェーガーという名の少年兵だった。巨人化能力を持つ特別な存在として、人類の敵をばっさばさ薙ぎ倒し駆逐しまくる世紀のヒーロー。
 ……ごめん、ちょっと盛った。
 正直に言えば、オレは特殊な能力を持っている以外には、そんなに飛び抜けて強い兵士じゃなかった。悔しいけど。でも、人類の勝利を目指す意志は、誰にも負けてなかったと自負している。
 そんなオレが憧れていたのが、「人類の敵をばっさばさ薙ぎ倒し駆逐しまくる」力を持った、人類最強の兵士・リヴァイ兵長。
 背中にはためく自由の翼、切れ長で冷徹な瞳、辛辣な言葉、圧倒的な力、仲間への想いに燃える魂。
 まさに人類の、オレの、スーパーヒーロー。

 今世、なぜか女に生まれたオレ、エレン(Ellen)の、最愛の旦那様である。


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 深緑のケープは白衣に、硬質ブレードをメスに持ち替えて、今世のリヴァイさんは外科医をしている。オレの親父の総合病院で最も優秀な医者だ。
 オレと同じく前世の記憶持ちだったリヴァイさんは、彼言うところの豚野郎的クソ金持ちのおっさん共からご指名がある程名の売れた名医になった今も、ずっと救命医を希望して勤務し続けている。

 オレが高校生のとき、親友のミカサを庇って交通事故にあった。あーオレ死んだなぁ、ミカサこの先強く生きてくれればいいんだけど、なんてほとんど残っていない意識で思っていた。
 そのとき助けてくれたのが、リヴァイさん。
 実はこのとき、彼は1時間後に大物政治家の手術予約が入っていた。オレの緊急手術に駆けつけようとする彼に、政治家や家族たちは猛抗議したらしい。院長の娘だから優先するのか、そんなにゴマすりしたいのかって。
 ほぼ意識不明の重体で手術室へ運び込まれていたオレが、その様子を見られたはずがないのに、どうしてかオレは覚えている。
 オレの施術を終えて即座に予定通り政治家の手術も執り行い、両者の手術を成功させたリヴァイさんが、白衣を翻してオレの病室を出て行く後姿。
 あの背中に、オレはかつての記憶を取り戻し、そしてまた熱烈に憧れたんだ。

 神の腕、ブラックジャック、人類最強の外科医、とかなんとか色々なあだ名で呼ばれるリヴァイさん。
 親父によると、あのときの手術がリヴァイさん以外の医師だったら、多分オレは助かっていなかったらしい。
 今世でもまた命を救われた。憧れの思いが、更に燃え上がって恋になるのは、自然なことだった。


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 救命医という仕事上、休みも休みとして保障されない。昼夜問わず呼び出しがあれば即座に飛び出していく旦那様と過ごせる時間は、とても貴重だ。
 久々にゆっくり朝食を摂ってくれるリヴァイさんの姿に、オレがきゅうんと胸を高鳴らせたのも仕方ないと思う。
「リ・ヴァ・イ・さん♪」
 しっかり厚みのある背中にくっついて、両腕を前に回した。身長はやっぱりオレの方が高かったが、この無駄のない筋肉に強いオスの魅力を感じてしまう。
 わざとおっぱいを背中に押し付けて(勿論ノーブラですけど、何か?)、くっきり割れたり盛り上がったりしている腹筋を両手でまさぐって、刈り上げたばかりのすっきりしたうなじに、あん、と甘い吐息を吹きかけた。
「ねぇ、リヴァイさぁん」
 もむもむパンを頬張ってふくらんだほっぺが可愛すぎる。オレの作った食事が彼の血肉になっていくと思ったら、たまらなく興奮する。今すぐ食べちゃいたい。いや食べられちゃいたい。
 ErenとEllenの自我が混雑して、この欲情が男のものなのか女のものなのか、オレにはよくわからない。でもまぁ、どっちにしても、リヴァイさんが欲しいことには変わりないし。彼もオレが前世男であったことを知っているのだから、構うことはない。
 リヴァイさんが家にいてくれる、ともすれば一瞬のこの隙をつかなければ、夫婦の営みすらままならない。だからオレは、いつもこんなふうに明け透けに欲しがってしまうのだ。
 薄い耳朶をはむはむ、右手でおへそを弄り左手はズボンの中へ……



 んぎゃぁあああ!!!
「お、ジュニアが起きたな」
 突如響いた赤子の泣き声に、リヴァイさんはぺいっとオレを引き剥がして、ベビーベッドへ直行してしまった。



 もうすぐ1歳になる愛息子。オレとリヴァイさんの愛の結晶。
 前世からあまり家族に恵まれなかった彼が、当初おっかなびっくり、しかし深い慈しみをもってジュニアを抱いてあやす姿は、世界で一番癒される。ジュニアがオレにそっくりなのもあり、何というか悪くないな〜なんて思うわけ。
 でも、でもでも!
「あの……リヴァイさん、続きは?」
「バカ言え、ガキの前でんなことできるか」
 ふに、ふに、とぐずるジュニアを抱き直して、額にキスをするリヴァイさんは、全く乱れた様子もない、至って平静状態だ。
 パパっ子のジュニアは、一度リヴァイさんにだっこされると、もう絶対に離れない。下ろそうとするとぎゃん泣きするし、姿が見えないとパパ探しの大冒険を始める。そんなジュニアにリヴァイさんもメロメロで、在宅中はいつも一緒だ。
 数少ないチャンスだったのになぁ。
 じくじく疼く足の間の熱を持て余して、オレはがっくりと項垂れた。

 大体にして、リヴァイさんは淡白だ。
 前世、最前線で常に多くの命を天秤にかけて戦い培った強靭な心身で、それこそ救命の申し子と言われるくらいに、どんなときも的確な判断を下せる冷静さを失わない。
 いつもフラットで、落ち着いていて、豚野郎的言動ですらクールかつ辛辣に言い負かしつつ後はサラリと受け流す心の余裕を持っている。
 そのスキルは普段の生活の中でも発揮される。
 例えば、ピチピチの幼妻にすけすけベビードールで絡みつかれても、すんなりスルーしてしまう、等々。

 一応オレも元男だから、したくないときがあるのはわかる。頭の中が危機感でいっぱいのときに「あの女に特別な感情でもあるの」と意味不明な邪推を投げかけられて、マジで何言ってんのこいつうぜっ!と心底思ったこともあった。ミカサには悪いけどあれはオレ悪くない。
 だから、欲しいなってアピールしても、リヴァイさんが乗ってくれないときは無理強いしない。
「けど、ねぇ、リヴァイさん!もうどのくらいしてないと思ってるんですか。オレもうお産の影響もすっかりないし、元気ですよ。何なら二人目に向けて……ナマでも、いいかなって」
 きゃんっと照れつつ背中をつんつん。ちらっと視線だけ振り向いたリヴァイさんに、上目遣いで甘えてみせた。あざといって?これオレの前世からの専売特許だから!
 だけど、さすがリヴァイさん。
「朝っぱらから何言ってんだ、エレンよ。自重を覚えろ」
 完全に見抜かれてる。ほんのちょっとも揺れてない。
「もう、何でですか!リヴァイさん夜も朝もないのに、いつヤるの、今でしょ!」
「世の中の真面目な受験生に謝れ。デカい声出すな、ジュニアがびっくりするだろうが」
「そうやってジュニアばっかり。オレのことも構ってくださいよぉ」
 シャツをぐいぐい引っ張って抗議していたら、ジュニアが最近覚えたつかまり立ちで、パパの肩からぴょいっと顔を覗かせた。
「ぁーま」
「そうか、ママがいたか」
「ぱぁぱ、まんま」
「うん。まんまにしような」
 ほれ、とジュニアを抱かされてしまえば、オレも母親だ。まだ離乳食と半々で卒乳の時期を窺っているジュニアにおっぱいを与える。
「エレン。今朝のまんまはアレか、さつまいものやつでいいのか」
 赤ちゃん語使っちゃうリヴァイさんクソかわ。
 手早く離乳食を解凍して準備してくれたリヴァイさんが、重くなってきたジュニアを抱くオレの腕を支えるようにして、後ろからしっかりと抱きしめてくれる。
 あったかいな。さっきまであんなにゴネてたのに、オレはそれだけですっかり絆されてしまった。


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 けど、オレにだって許せることと許せないことがある。

 愛おしい家族の団欒をぶち壊した元凶、リヴァイさんのプライベート用の携帯電話をぎっと睨みつけて、オレははっきりと怒りを表した。
「せっかくのお休みなのに。何でエルヴィン団長のとこに行くんですか?」
「いや……仕方ねぇだろ。あいつだってこういうときにしか誘えないんだし」
 もごもご言いながらも、リヴァイさんは今にも飛んで行きたそうにうずうずしている。
 ジュニアはいい。オレたちの子どもなんだから。ジュニアを愛してくれるのは、オレを愛してくれるのと同じことだ。
 でもエルヴィン団長は駄目。ていうか、絶対に嫌!!
「仕方なくないでしょ!何で兵長はそんなに団長のこと好きなんですか!」
「その言い方やめろよ、なんかおかしく聞こえるだろうが」
「おかしくも聞こえるでしょうよ。職場でだって毎日顔合わせるのに、何で休日まで一緒にいたいんですか。ていうか休日合わせてるんですか?そんなに団長のこと好きなんですか?」
「エレンよ、落ち着け。今日休みが合ったのはたまたまだし、救命と外科の往復してる俺と小児科専属のあいつはそうそう顔を合わせたりしない。いつも言ってるが変な誤解をするな」
 どうだか、とフンと鼻を鳴らして、オレは猛抗議の表情を保ったまま。
 そもそもこの二人、前世から他を寄せ付けない独特の雰囲気があったのだ。互いの武器を最も活かしあえるパートナーだったことはよく理解しているし、そんな二人に憧れていた。今世でも、団長はやっぱり尊敬できる人で、リヴァイさんが信頼するのもよくわかる。
 別に、オレだって、たまの休日に旦那様を自由に遊ばせてあげないような、狭量な伴侶でいたいわけじゃない。
 だけど、なぁ、わかってくれるだろ?
 妻のおっぱい攻撃をあっさりスルーしてかかる淡白なリヴァイさんが、電話一本でそわそわウキウキして出かけたがるなんて、そんなの悔しいじゃないか!

「…………リヴァイさん。オレと団長のどっちが好きなんですか」
 ウザい女の代表例であるこんな質問をしたくなるのも、何もかもリヴァイさんが悪い。
「あーあ。そっか。兵長は、妻であるオレと、こんなに可愛いジュニアを置いて、団長のとこに行っちゃうんだ」
 オレの腕に抱かれているジュニアは、パパをぱちくりと見つめている。パパお出かけしちゃうんだってと言ったら、意味がわかったのか、必死な様子で両手を伸ばした。
「ぱぁぱ。ぁっこぉ!」
 愛息子に涙目で求められて、陥落しないリヴァイさんなんてリヴァイさんじゃない。  びすびすと泣いてぐずるジュニアを抱きしめて、リヴァイさんはじっとり恨みがましくオレを睨んだ。
「てめぇ……ジュニアを巻き込むのはズルだろうが」
「オレのお誘い放っといて、団長のとこに行こうとするから悪いんでしょ」
 なまじ記憶がある分、どうにも上官と部下の意識を引きずりがちなリヴァイさんに、優先順位違いません?と同じくじっとり睨み返したら、さすがに自覚したのか「悪かった」と小さく頭を下げられた。
 夫としてのリヴァイさんは、案外と素直で温厚だ。こうして尊重のパフォーマンスも衒いなく見せてくれる。そういうところ、可愛いんだよなぁ。
 きゅんとしたついでに、目を閉じてねだったら、すぐにキスもしてくれた。
 はぁ、満たされる。

 オレって性格悪いのかな。前世から持ち越したリヴァイさんへの思慕の念は、高まりに高まって、もうどこまでも独占していたくて仕方がない。
 本当なら今すぐ抱いて、としなだれかかりたいところだが。
 まだべそっかきのジュニアが可哀相だし、何だかんだ言いつつも、せっかくのリヴァイさんの楽しみを奪いたくもないわけで。
「今日のランチは、団長とハンジさんと、ミカサやアルミンも呼んで、ティーパーティーにでもします?」
「……まぁ、悪くないな」
 ちゅ、ともう一度キスをして。さぁ、楽しい休日を始めましょう。