にょたエレンで、夫婦してます。
エルリのようなエレリくさいリヴァエレっていう(複雑怪奇)
旦那様が上司を好きすぎる話
初めまして。私の名前はエレン・イェーガー。少し話を聞いてください。
私には、結婚して二年になる最愛の旦那様がいます。
リヴァイさんといって、私より15歳も年上の、ワーカホリック気味なひとです。三白眼で無愛想だし、「あ?」とか「テメー」とか「クソが」とか平気で言っちゃう推定元ヤンですが、あれで案外可愛らしいところもあり、私は大好きです。
それもそのはず、結婚にこぎつけるまで、とにかく私から押して押して、幼馴染のミカサには「ヨリキリ、オシダシ、オシタオシの押し技コンボ……」と謎の呪文で称えられるほどに押しまくりました。
そうそう。まずは、私たちの出会いから話しましょう。
あれはまだ私が高校生だった頃のことです。
通学通勤でごった返す電車の中で、私は斜め前に立っていた男性にうっとり見惚れていました。
そのひとは、身長こそ私よりも低く、おそらく女子の平均身長くらいのものでしたが、惚れ惚れするほどの逆三角形の体型で。
スーツの上からでもわかる、絞り上げられた筋肉の流れ。よくあるムキムキゴリマッチョとは違う、効率的に使うために鍛えられた美しい体。
筋肉フェチの私をして、こんなにも理想的な体を持つ人間がいるなんて!と目を疑うほどに、それは素晴らしい肉体美でした。
鞄を支えつつ両手でスマホを弄りながらも、強靭な両足で電車の揺れを一切気にせずネットニュースをチェックしている姿なんて、もう身悶えしそうなくらい素敵です。
あぁ、あの大腿筋に触らせてほしい。張り出した肩甲骨に噛みつきたい。刈り上げたうなじに浮き上がった第7頚椎骨、つまんでみたい。どうして服なんて着ているのか。今すぐ剥いて撫で回したい。
そんなことを考えながらそのひとを舐め回すようにガン見していたので、私は気付きました。
彼の、小さく引き締まった臀部の筋肉へ、女の細い手が伸びたのです!
「ちょっと、あなた何してるんですか!」
あまりの怒りに目の前が真っ赤に染まって、私は即座にその手を掴んで捻り上げました。だって、だって、とても許せることではありません!
「チカン!最低ですよ!いくらこの男性の肉体が素晴らしい筋肉で覆われていて素敵すぎるからって、最早芸術といえるこの体に無許可で触っていいと思ってるんですか?触りたい気持ちはよくわかりますけどちゃんと弁えてくださいよ。あなたみたいな人がいるから筋肉フェチがヘンタイ扱いされるんです!」
こういう人にはきっちり説教しておかないと、と思って熱弁をふるった私に、かの男性は驚いて振り返ったまま固まっていました。ついでに車内の空気も凍りついていました。
電車が駅へと到着して、チカン……いや痴女?は慌てて手を振りほどいて逃げていきました。
「あっ」
「あぁ、いい。追いかけるな」
私を引き止めた男性は、別に女じゃあるまいし、ケツちょっと触られたくらいで騒ぐなと呆れた顔で私に言いました。
やっぱり、これほどの肉体美を持つとなれば、こういうことも多々あるのでしょうか。なんて嘆かわしい。
「あの、ダメです。あなたのその体は、そんな誰にでもちょろっと触らせていいようなものじゃないです。あなたはもっとご自分の体の価値をわかっておくべきです!」
「はぁ……ソーデスカ。ヘンタイの持論には興味ねぇから、ほっといてくれ」
「へ、ヘンタイって、それって私のことですか?違います、だって私、あなたの筋肉が素敵だなぁってずっと見てましたけど、あんなふうに触ったりしなかったじゃないですか!一緒にしないでください!」
ぷんすこ怒る私をハイハイと面倒くさそうにあしらう、そんなクールでマイペースな彼が、リヴァイさんでした。
それからまぁ色々あって、援護を頼んだ友人のアルミンには「脈なし以外の何ものでもない!」と頭を抱えられながらも、母の「どんな筋肉ゴリラを連れてくるかと思ったら……あんなに素敵な人はもう二度と現れないから絶対逃がさないこと!」という力強い応援もあり、二年前にリヴァイさんと結婚。愛の結晶であるかわいいベビーも生まれました。
仕事熱心で頼れる旦那様と、すくすく育つかわいいジュニア。私は二人のために、毎日お掃除にお料理にあれやこれやに、奮闘する日々を送っています。
「リヴァイさん、お弁当忘れないでくださいね」
「たーた、ぁっこ〜」
旦那様曰くハムみてぇなムチムチの手足をじたばたさせるジュニアに、リヴァイさんはちょっとだけ視線を緩めて、お望みどおり抱っこをしてあげる。優しいパパです。
そんなパパの逞しい腕の中で、ジュニアはうっとりしています。見た目も私に似ているのですが、男の子なのに明らかにパパ大好きなその中身も私似なのでしょうか。ちょっとだけ妬いてしまいます。
リヴァイさんがいる間はずっとべったりなジュニアのおかげで、私は随分とあの腕も胸もご無沙汰です。私としては、リヴァイさんが望むなら今すぐ二人目も……なんて思っているのですが。
靴を履いたリヴァイさんから靴べらと息子を受け取って、お見送り。べそをかくジュニアのおでこにキスをするリヴァイさんに、私からもキスを贈ります。
「リヴァイさん、行ってらっしゃい」
「あぁ」
皺もシミもない、髪の毛一つもくっついていない、ピカピカのスーツ姿で出勤する旦那様は、私の誇りです。
なのですが、一つだけ、困っていることがあります。
今日も今日とて、お仕事で疲れている旦那様に精をつけていただこう、リヴァイさんの気が乗れば夜のご奉仕もさせていただこうと、おいしいお料理と大胆な下着の仕込みをしていた夕方。
「今日は遅くなる。エルヴィンと飲みにいくから」
リヴァイさんから連絡があり、私はがっくりと膝をつきました。
いえ、私は何も、旦那様の外食にとやかく言うつもりはないのです。節制のきいたストイックな生活をしているリヴァイさんが、たまにハメを外すのがいけないこととは思いません。それに、こうして律儀に連絡を入れてくれる辺りに、気遣いと愛情を感じるじゃないですか。
何にそんなにがっくりしたかというと、つまり、お相手がエルヴィンさん、ということで。
エルヴィンさんは、リヴァイさんの会社の上司です。個人的にも、リヴァイさんがまだ10代の頃から親しい間柄だそうで、我が家にお招きしたことも多々あり、いつもジュニアや私にまでお土産をくださるとてもいい方です。
そう、本当にいい方なのですが……。
「ただいま」
「お帰りなさい。お水飲みますか?」
ジュニアがすっかり寝入ってしばらく、終電で帰宅したリヴァイさんは、足取りはしっかりしつつも、うん、といつもより隙のあるかわいらしいお返事をくれました。
ネクタイやジャケットを預かって、水を飲ませて、ソファにごろんと横になるリヴァイさんの顔や首筋を濡れタオルで拭ってあげて。
「今日もいいお酒でした?」
エルヴィンさんとのお酒の席の後は、いつも気分よく酔った彼の無防備な姿が見られるので、私もほわわんと温かな気持ちになれる。エルヴィンさんには、本当に感謝しています。
本当に、しているんですけど……。
「エルヴィンが薦めてくれる店はいつもうまい。あいつはぼっちゃんのくせに、庶民グルメにも詳しいから」
「そうですね。この前お食事に行ったレストランも素敵でしたね」
「あそこの舌平目は最高だった。ジュニアにもいつか食べさせてやりてぇな」
「もうちょっと大きくなって、お店でもいい子にできるようになったら、連れていってあげましょう」
「うん。そんときはエルヴィンも呼ぶ。エルヴィンはジュニアをすごく気に入ってくれてるしな。孫ができた気持ちだよ!とか言ってやがったが……悪くない。ジュニアにエルヴィンをじぃじって呼ばせてやろうかな」
ゆるりと目を閉じたまま、エルヴィンどんな顔するかな、と呟いて、リヴァイさんが微笑んだ。微笑んだ、のです。ほっこりと。
いつもクールで、私がキスをしても、ジュニアを抱っこしていても、目に見えてはっきりと表情筋を動かすことはあまりないリヴァイさん。
そんな彼が。
「……よかったら、今週末にでも、うちにご招待しませんか?ジュニアもしばらくエルヴィンさんに会っていないので、きっと喜びます」
私の言葉に、ぱちりと目を開けて、リヴァイさんは飛び起きました。
「いいのか?」
「はい、もちろん。がんばってお食事つくるので、リクエストがないか聞いてみてください」
「わかった。連絡してみよう」
薄灰色の三白眼をキラキラ輝かせて、プライベート用の携帯電話を手にうきうきと絵文字を選んでいるリヴァイさんは、とても可愛い。
こんな夜中に、とたしなめる必要もないほど即座に届いた返信に、リヴァイさんの周囲にぱあっと花が散ったのが、私には見えました。
「エレンよ。土曜日にエルヴィンが来る」
「はい、わかりました。お布団も用意しておきますね」
リビングのカレンダーにまるをつけて、またほっこり微笑んだリヴァイさんが、珍しく、本当に珍しく、自分から私を抱きしめてくれました。
久しぶりに逞しい腕や胸やお腹の筋肉を全身で味わって、私はもう蕩けるほどに幸せな一夜を享受してしまいました。
そんなこんな、幸せながらもちょっと困ってしまう私のこの気持ち、わかっていただけたでしょうか。
リヴァイさんにとってエルヴィンさんは、父のような兄のような、親友であり家族であり、つまりはただの上司ではないことはよく理解しています。
決して、決して、エルヴィンさんを邪険にしようなどとは思っていません。
むしろ、幼児を抱えた私に遠慮してエルヴィンさんを招待するのに気兼ねしている旦那様に、こうしてきっかけを与えてあげたいくらいには、私もエルヴィンさんを大切に思っています。
私は世に数多いるただの筋肉フェチではなく、リヴァイさんの嫁を目指し、そして成し遂げた、いわばフェチ内チャンプです。リヴァイさんの大切な人を大切にできなくて、嫁が務まるはずもありません。
だから、誤解しないでください。本当に、不満を言ったり責めたりしたいわけではないのです。
ただ、ふと時々、私とエルヴィンさんのどっちが好き?なんて不毛すぎる質問が、脳裏によぎってしまうだけで……。
ミカサは「嫁はいつの世もマザコンの旦那に悩まされるもの。エレンは良妻。ファザコンチビには勿体ない」と言って励ましてくれますが。
まぁ、何だかんだ言っても、こういう悩みはリヴァイさんの嫁になれたからこそ持てるものなので。
結局は惚気と変わらない愛おしい悩みが、一つくらいあってもいいな、なんて思っては、幸せをかみ締める日々なのです。