「……眠れませんか」
晴れた宵闇を月が高く照らす中、政宗は縁側にどっかと座り込んでいた。
穏やかな声で問う小十郎が携えた盆の上を一瞥して、その隻眼が猫のように細められる。
「気が利くじゃねぇか、小十郎。」
最近、ときどき血が騒いで眠れなくなることがある。きっかけや気がかりがあるなしに関らず、無性に落ち着いていられない。そんな夜は、いつもこうしてじっと闇を見つめ、意識を解放し沈思する。
歩んできた道、歩むべき道、民のこと、敵国のこと、そして己のこと。
浮かぶままに思いをなぞり、再び築き上げ、朝にはいつも通りの奥州筆頭に戻る。誰にも気付かれていないはずだった。
「さすがは俺の右目、だな」
何も言わず酌をする小十郎は、いつも何でもない顔をして、この背を支えていてくれる。猪口を呷ると、まろい酒の味が鼻腔に広がり、肩の力が抜けた。
自分は、決して一人ではない。
それは今更すぎるほどわかりきったことで、口に出すのも馬鹿馬鹿しい。だから代わりに、小十郎の膝を叩いてねだった。
「眠くなられたのなら、部屋へ戻られませ。」
「野暮はなしだぜ。んな勿体ねぇことできるか」
有無を言わさず勝手にごろんと横たわると、小十郎はやれやれと苦笑して膝に乗る頭をそっと撫でた。
「斯様に硬い膝、寝心地がいいとは思えませんが……」
困ったように言う小十郎も、まぁなと笑う政宗も、寄せられる互いの体温が心地よく。何をどう言い繕おうとも結局のところ、それだけを求めていたことに気付いて。
「……小十郎」
「はい、政宗様。」
「虫の音もしねぇな」
「荒ぶる竜に身を潜めているのやも」
「Ha!ならその竜の魂、お前の笛で鎮めるか?」
「ご所望とあらば、何なりと。」
悪戯っぽく笑い合う。離れがたいとは、言わない方が伝わる気がした。
誰よりも気を許した小十郎の膝枕で、何よりも心地よい小十郎の笛の音に包まれて。そうして見上げれば、月の光でさえやわらかに感じる。
I love you
柄じゃない言葉だけれど。
「それは、何という意味で?」
一曲終わっていたらしい。小十郎に聞き返されて、口に出していたかと驚いた。
数瞬、政宗は居心地悪げに身じろぎをして。
「……月が。綺麗だなって、言ったんだ。」
言葉の意味は、察しのいいお前なら、それで充分伝わるだろう。
再びゆったりと頭を撫でる手の温かさに、ゆるやかな眠気が訪れる。
抱き上げられた浮遊感も、小十郎の腕の中ならば幸せで。
密やかに鳴り出した虫の音。奥州の短い夏の夜のこと。
月見様へ捧げるリベンジ小政です。ほのぼ、の…?(あぅー泣)
夏目漱石先生の素敵な日本語をお借りしました。情と風流、なんて浪漫。
小政は言葉を尽くさなくとも通じてそうな感じが素敵ではないかなと…!
このサイトで初のまともな(色々な意味で)小政じゃなかろうか、これ(笑)
でもまだまだ月見様のらぶ主従には敵わないんだぜ…!がんばる!