風邪のお見舞い(タイトルそのまんまです・・・;)








馬鹿犬が風邪を引いた。いつも元気に俺に向かって走ってくる姿が、今日は無い。



「あげん馬鹿でも風邪なんち引くもんなんやなー」

「カズ・・・そげん言うたったらタカが可哀想っちゃろ」

「ヨシかて同んなしこつ思うっちゃろ?」



ニッと口の端を挙げて笑みを向けつつ言えば、ヨシも「まぁ、な・・・」と言い淀みながらも肯定した。
ぷっと吹き出して冷たい風の吹き荒ぶグラウンドを部室へと横切る。朝練を終えて着替えを済ませ、教室へ向かおうとすると、制服のポケットに入れておいた携帯がブブブと振動した。すぐに振動が途切れた事に、それがメールだと解る。
パカッと携帯を開いて見てみれば、差出人は風邪で休んでいる筈の昭栄から。その名前の表示を見て顔を顰める。



「アイツ風邪ば引いとうっちゅうのに、なしメールなんぞしてくるとや」

「何じゃ?メールばタカからなんか?」

「ん。・・・・・・・・・があ!あんのアホがぁ!大人しう寝とれや、ボケぇぇーー!」

「なっ、何じゃ!?どげんしたとや、カズ?」



俺の突然の怒りっぷりに隣を歩くヨシが驚き、怒りの原因であるメール文章を見せた。
『カズさんに会えんくて寂しかです〜(TT)カズさんも寂しか?寂しかですよね?俺もですーーvv』
勝手に俺が寂しがっていると自己完結して「俺も」ときたもんだ。ハートマークまでつけてアホか、アホじゃ、アイツ!



「熱で頭おかしぅなったとやろか、タカの奴」

「ふん!アイツは普段から頭沸いとうったい!」



ぷりぷりと怒りながらメールの返事を律儀にも返している俺にヨシが笑っていた事など気付かなかった。
返したメールは『ボケた事ぬかすな!寝とれ、アホ!』のみ。



「ばってん、寂しかなんはほんまやよなぁ。タカの明るい声ば無かやと部内全体が元気無か気ばするけん、ちかっぱ調子狂うっちゅうか・・・」

「そうか?せからしいのが居らん方が静かで良かじゃ」

「素直やなかやな、朝練ん時のカズばいつもよか声小さかやったとよ?」

「・・・そげんこつなか。気のせいじゃ、気のせい!」

「そがんこつにしといたるか」

「おい、”しといたるか”って何じゃ、ヨシ!」

「おっと、チャイムば鳴るぞ。急げー」

「逃げんな、コラー!」



廊下を走っていったヨシの後を追いかけて、通りかかった教師に注意されつつ教室に入る。ガタガタと音を鳴らして席につき、朝のHRの教師の長ったらしい話を右から左へと聞き流して、風邪の熱に浮かされているだろう昭栄の顔を何となく頭に思い浮かべた。
ばってんマジに珍しか。どぎゃん寒か日でも喜んで走り回っとう奴が風邪なんぞ引くやなんてな。
ここ最近は朝晩の気温が一気に下がり、日中でもほの寒い。昭栄の奴は部活中に「走ったら暑ぅなったとー」なんて言いながらこの寒い外を半袖なんかで居たから・・・
自業自得っちゃね。やっぱりアホじゃ、アイツ。
そんな事を思ってくっくっと笑った。

寒い外とは違って窓際の自分の席は太陽の暖かな日差しが降り注ぐ。廊下側の寒い席じゃなくて良かった、などと思ってボーっと外を眺めていたら、またも携帯が振動した。
開いてみれば、やはりというかそれは昭栄からのメールで、ピキリとこめかみに青筋が浮かぶ。
大人しぅ寝とれて言うたっちゃろが!と眉間に皺を寄せて、とりあえずメールを見た。



『寝とうだけって暇です〜。サッカーしたかー!(><)』

「んなもん知るかーー!」



思わず叫び、携帯を床に叩きつけたくなった。が、そこは理性で踏み留まる。携帯に罪は無い、うん。
怒る俺に、後ろの席でヨシがハアと溜息を吐いた。



「タカからか?」

「アホからじゃ」

「あー、はいはい。で、今度は何て?」

「ん」



ヨシにメールを見せれば、はははとカラ笑いを零した。フォローする言葉が見つからないらしい。



「ま、まぁ、アレやな。タカも休み時間にメールばしてきて、そこんとこはちゃんと考えとうっちゅうか何ちゅうか・・・はは」

「そげんもんは当たり前んこつじゃ」



ふん!と憤って言葉を返してブチブチと乱暴に携帯のボタンを押してメールを打っている俺に、ヨシは「難儀な奴らじゃ・・・」と呟いた。
最初はそうやって何度かメールをしてきていた昭栄だが、唐突にプッツリとメールをしてこなくなった。翌日になってもその翌日になっても昭栄は学校を休み、その間ずっとメールも来ない事に、風邪がそんなに酷いのだろうか?と少しばかり心配になる。



「タカの奴、風邪長引いとうみたいやな」

「そうやな・・・」



いつもは張り切る部活に、やる気が起こらない。昭栄ひとりが居ないだけなのに何故かとても静かで。煩い奴が居なくて世話を焼いてやる必要もなくて清々する筈なのに。
帽子を目深に被って俯いたままの俺に、ヨシは苦笑いして小さく息を吐いた。
昭栄が風邪を引いてから、今日で3日目。『寂しかです』なんて書いてきた、最初に来たメールを思い出してぐっと唇を噛み締めた。
寂しかなんやったら早ぅ治して出て来いや、アホ。
心の中で悪態をつく。と、放課後の部活へ向かう途中に携帯が振動して、それがメールだと直感してバッと急いで取り出した。
携帯を開いてメールを見て、ズクリと胸の奥が軋んだ。



『寂しい寂しい寂しい会いたいですカズさん カズさんに会えんこつが1番辛かです』



数日振りに送られてきたメールでそんな弱弱しく苦しんでいる様を見せられたら、奥底に押し込めて出さないようにしていた寂しさなんてものが抑えきれずに浮き出てきてしまって。ぎゅうと胸の辺りの服を握り締めた。
アホ昭栄・・・甘ったれが・・・・・・
学校に来ればそれこそ毎日顔を合わせているというのに、風邪を引いてたった数日休んで会えないだけなのに。けれど、自分も寂しいなんて思ってしまっているからタチが悪い。ぎゅっと携帯を握り締めて立ち疎んでいると、俺の背中がトンと押された。



「ヨシ?」

「行ってこい。監督には適当に言い訳しといたるけん」

「ばってん・・・」

「よか。気が乗らんまま部活ば出たって身にならんったい。タカに喝ば入れる役目ばカズに任せた。風邪なんかに負けとんな、って俺からの伝言じゃ」



そうして緩く笑みを浮かべたヨシに笑い返した。小さな声で「サンキュ」と告げて、ひらひらと手を振るヨシに自分も手を挙げて応えてから駆け出した。
昭栄の家へ、「さっさと出てこい」と喝を入れるために。
全力で走ったためにハアハアと荒く吐き出される息を整えながら、昭栄の家のチャイムを鳴らす。そういえば昭栄の家に来たのは初めてだ、とそんな事を思いながら玄関が開くのを待った。



「は〜い・・・どちらさんですか〜・・?って、え、ええ!?カカカカズさん!?」

「昭、栄・・・?」



出てくるのはてっきり昭栄の母親か誰かだろうと思っていたから、出鼻を挫かれてポカンと間抜けに口を開けてしまった。



「なしお前が出てくるとや。親御さん居らんのか?」

「はぁ・・・おかんば友達んとこ行ってくるて言うて夜まで帰らんらし・・・げほっごほっ」

「あ〜、よか。早ぅ家ば入れ。風邪全然良うなっとらんやないか」



頬が赤く、目が少し虚ろで息苦しそうに咳をする昭栄の背を押して家の中へと押しやる。



「ああああのっ!カズさん、部活は・・・?」

「ヨシにお前に喝ば入れてこいて言われたと。今日は休んだ」

「えええ!?すすすんません!カズさんに部活ば休ませてしまうやなんてっ!」

「気にするくらいやったら早ぅ治せ、アホ。ほれ、部屋行って寝らんや」

「はい!えっと・・・カズさん、帰ってしまうと・・・?」

「・・・親御さん居らんとやろ。そげんフラフラで一人やっと辛かやろうし、誰ぞ帰ってくるまで看病したると」

「ほ、ほんまですか!?」

「こげんこつで喜んどらんと寝ろ言うとうっちゃろ!」

「わっ!っとと・・・と、と・・・・・おわっ!?ぶへっ!」



ゲシっとついついいつもの癖で後ろから蹴ってしまったせいで、熱で足元のおぼつかない昭栄はバランスがとれなくて床に顔面から突っ込んで倒れ込んでしまった。 慌てて謝ってぐいっと昭栄の腕を引いて起きあがるのを手伝う。



「わっ、悪か!」

「大丈夫です〜・・・へへ、今日のカズさんちかっぱ優しかですね、嬉しかー」

「アホなこつ言うとらんと早ぅ立て!んで、寝ろ!」

「はーいv」



床に鼻をぶつけて手で擦りながらも、にこにこと笑って俺の方を見る昭栄に、気恥ずかしさが込み上げてぷいっと顔を逸らす。
でも少し安心した。数日の間寝込むなんてどれほど酷い風邪を引いたんだろうと、起き上がれずにいるのかもしれないなんて思っていたから。
昭栄の部屋があるという2階へと背を押してベットに寝かせて、額にぺたりと手を当てて熱の具合を診る。



「まだ熱ば高かやな。測ったか?」

「えっと、昼におかんが出掛ける時に測ったら38度5分でした」

「ずっとそげん熱高かったんか?」



そんな高熱が続いていたとしたら辛いだろう。眉を顰めて枕の上に置いてあるアイスノンを触ってみれば、もう温くなっている事に気が付いた。新しいものに替えて冷やした方がいいだろう、とベット脇に座った腰を上げて立ち上がる。
と、パシッと手を掴まれた。



「か、カズさんどこ行くとですか!?」

「氷枕ば持ってくるだけったい。冷蔵庫にあるとやろ?」

「あ、はい、ありますけど・・・。ばってんそげんもんよかです、ここに居ってください。ね?」

「冷やさんとあかんっちゃろ」

「まだよかです。カズさんが居らんくなる方が嫌ですけん」

「ア、ホか、お前・・・ったく」



潤んだ目で縋るように自分を見てくる昭栄の様子に、ガシガシと頭を掻いてドッカリと腰を降ろした。それだけの事でパアっと顔を綻ばせて笑う昭栄に、苦笑いする。
こげんこつで喜ぶやなん、やっぱアホやな。そう思いつつも、それに嬉しく思う気持ちがある事も否めなくて、自分の甘さにまた苦い笑いを零した。
引き止める時に掴まれた手はそのままずっと握られていて、そこから伝わってくる熱の高さに、空いた方の手でさらりと昭栄の前髪を掻きあげてやる。額は熱からくる汗でじっとりと濡れていて、これだけ汗をかいているとなると服を着替えさせたほうがいいかもしれない。
けれど今の昭栄は掴んだ手をまだ離しはしないだろうな、と思い、後で落ち着いた頃に着替えさせればいいか、と口に出さずにおいた。
昭栄の前髪は掻きあげてもさらさらと零れ落ちて、それを何度も払ってやる。少し癖のある猫っ毛の髪の感触に、ちょっと楽しくなったりもして。



「カズさん、くすぐったか」

「そうか?お前、髪ちかっぱ長なったよな。切った方がよかぞ」

「そうっすか?そういや長なったかも・・・。部活ば休日もあるし切りに行く暇ば無かですけん、ほったらかしっす」



「それに、たま〜のせっかくの休みの日ばカズさんと一緒に居りたかやし」などと照れもせずに言い放つ言葉にこっちの方が照れてしまい、照れ隠しにパコンと軽く叩いてやった。
そげんこつをストレートに本人に向かって言うな、アホ!
毎日毎日、ウザイほどに俺に懐いて構ってくれと寄ってくる昭栄の事を、以前ほどには嫌がっていない自分がいる。逆に、居ないと物足りない感じまでしてしまったりして・・・。それくらいには俺もコイツに惚れているんだろうな、と脳裏に浮かんでまた照れる。こんな事はコイツには口が裂けても言わないけれど。



「早ぅ風邪ば治して今度の休みば髪切りに行ってこい」

「んじゃ、カズさんも一緒に行きましょ?」

「あ?俺も?」

「カズさんもちかっぱ髪長なっとうとですよ。あー、ばってんカズさんは長か方がよかかなぁ。切るのもったいなか」

「は?」

「ほら。カズさんの髪ばさらさら・・・綺麗」

「なっ・・・!?綺麗て、何アホなこつ言うとうと!」

「だって綺麗っちゃもん。俺、カズさんの髪の毛も大好き。カズさん大好き。今日来てくれてばり嬉しかです」



へへ、と笑いながら昭栄のごつくて長い指でさらりと髪を撫でられて、ぞくりとした感覚が背筋を走る。髪の先にまで神経が行き渡っている筈もないのに、そこから昭栄の熱が伝わってくるような感覚に、ぎゅっと目を瞑った。



「カズ、さん・・・可愛いか。好いとうよ・・・」



唐突に掠れた声で囁かれ、驚いて目を開けると目の前には肌色しか見えなかった。
口に柔らかく熱い何かが触れたと同時に、ちゅ、という音が聞こえて肌色だけだった視界から昭栄の顔がはっきりと映りだす。



「アホ、風邪ば俺にうつす気か」

「あ。あ〜・・・すいません、カズさんがばり可愛いかやけん、つい・・・いでっ!」

「誰が可愛いかじゃ!ボケ!病人は大人しう寝ろって!」

「はーい」



殴られた頭をすりすりと擦りながらくすくすと笑う昭栄に呆れてふうと息を吐く。何だか調子が狂う。弱っている昭栄を強く突き放す事が出来なくて、甘えたようにすり寄ってくる姿を可愛いなんて思ったりして。
俺も熱に侵されているみたいだ。



「早ぅ治せ・・・」



手を握っている間にすうすうと寝息を立てて寝入ってしまった昭栄に軽くキスを落とした。













「高山昭栄ふっかーーつ!」

「おう、タカ。風邪ばようやっと治ったか」

「はい!ところで与っさん、今日ばカズさんの姿ば見えんとですけど」

「あー・・・カズはな・・・・・・」


与っさんから伝えられた事に「ひいぃ!?」と顔面を蒼白させて崩れ落ちた。カズさんは俺の風邪がうつったのか、今日は休みだ、との事。ここっ殺されるーー!
しかし謝らないわけにはいかない。泣き縋って与っさんに一緒に着いてきてくれと頼み込んで放課後の練習後にカズさんの家へと向かった。
カズさんは部屋のベットの上で寒気にガタガタと震えながら何枚も毛布を被った下からギロリと睨みを利かせてきた。あああぁぁ・・・ばり怒っとうと〜・・・



「昭栄、お前・・・俺に風邪ばうつしよって・・・!治ったら絶対ぼてくりこかしたるけんな!」

「うああん!カズさんごめんなさーーい!」

「せからしい!お前の声ば頭に響く・・・っ!出てけーーー!!」



ブンブンと手当たり次第に物を投げられ威嚇されて、部屋から追い出されてしまった。



「よよ与っさぁ〜〜ん!どげんしたらよかですか!?」

「ま、頑張れや、タカ」

「解決策は!?解決策は無かなんですか!?」

「無か。潔く殴られとけ」

「そんな・・・」



ガックリと崩れ落ちる俺の肩をポンと叩く与っさんの手は暖かいのに、心は寒風が吹き抜けていった。






アホ〜んな話ですいません!こんなんですが柊さんの風邪が早く治りますようにと祈りを込めてお捧げします!お見舞いです!(傍迷惑!)
いやでも途中をちょっと甘くしたし?ね?(笑)実は裏な話になりそうでした、なんてのはここだけの話です。えへv(えろり師匠だしね!←開き直った)
柊さん、早く元気になってくださいねーー!お大事に!

2006.11.21


うへへ、「ひとときの夢」佐倉様にお見舞いもらってしまいました!風邪の方はちょっとひどいんですが、がんばります…;
いいね昭栄…幸せだなこんちくしょう!(愛)
佐倉様ほんとにありがとうございます〜!!(泣)えろり師匠の真髄はまた次回ですね?(笑)