「ウザイんじゃ、きさーーん!」
そんな怒鳴り声とキツイ蹴り一発から今日も俺の1日が始まる。
大好きな大好きな先輩に体全部を使って自分の愛を示しているだけだというのに、こうして蹴られてぼてくりこかされて・・・。そこに愛はあるんだろうか?それとも俺の愛が足りない、とか?

どげんしたら、俺の愛ば伝わるやろか―――?







愛の示し方







教室の机の上にべったりと頬をくっつけて、腕を投げ出してべっこりと凹みつつ、頭の中に最愛の人を思い浮かべた。
サッカー部の先輩で、大好きな俺の恋人である功刀一さん。自分の気持ちが恋愛のそれだと気付いてから毎日のように「好いとうです、大好きです」と言い続けて伝え続けて、ようやく受け入れてもらえて実った初めての恋。
なのに、大好きなカズさんの俺に対する態度は、付き合うようになった今とそれ以前と何ひとつ変わらなくて。
俺としては付き合いたてほやほやのラブラブいちゃいちゃをしたくて堪らなかったりするのだけれど、カズさんは一向にそれを許してくれない。
やっぱこれって俺の愛が足りんってこつなんやろか?どげんしたら俺の愛ば解ってもらえるっちゃろ〜?
考えても何も思いつかなくて、くすんと泣き真似をしてみたりして落ち込む。



「おー?昭栄、どげんしたと?」

「昭栄君は今お悩み中やけん、落ち込んどうと〜」

「自分で”君”つけんなや、キショ!」



クラスの友人に冗談混じりにだが腕を擦りつつ「鳥肌ば立ってもうた〜」などと言われて、それにもちょっと落ち込んでしまう。悩んどうって言うとうとに、心優しく相談ば乗ったろとかそういう優しか言葉くらい掛けれんのか。と拗ねてやる。



「それよか早ぅせんと、先生に怒られるっちゃろ。行くぞー」

「へ?次ば移動教室やったっけ?」

「調理実習っちゃろ。お前、昨日ひとりで張り切っとったくせに忘れたと?」

「あー、そうやったそうやった!」



ポンと思い出してガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、持ってきているエプロンや三角巾の入った袋を手に持って調理実習室へと友人達と向かう。
今日の実習のメニューは何だっけ?なんて話しつつ廊下を歩いていく友人達の後ろをボーっと上の空で着いていく。緩慢な動作でエプロンをつけて班毎に別れて席に座ると、ちょうどチャイムが鳴って家庭科の教師が入ってきて今日の実習の説明が始まる。
調理実習の班は男女2人ずつで、調理台を挟んで向かい側にクラスの女子2人が座っていて、教師の目を盗んでコソコソと話す言葉が耳に聞こえてきた。



「ね、ね。こん調理実習で作った料理ば彼氏に食べてもらうっちゃろ?」

「もちろん。約束しとうっちゃもん、お昼に持っていくっちゃよ」

「点数稼ぎっちゃね」

「あ、ひっど!愛やて愛!」

「あはは、さっぶー!ばってん幸せそうで羨ましかやわ」

「へへーん、アンタも早ぅ彼氏ば作りや」

「アンタのが酷いわ・・・・・・」



そんな会話に聞き耳を立てて、「コレだ!」とポンと手を打つ。
今日の実習の献立はパスタにスープ、サラダ、それにゼリー。幸いにもカズさんの好物であるメニューがある事ににんまりと頬を緩めた。
ばり美味かパスタば作ってカズさんの愛ゲーーット!とひとり鼻息荒く意気込んだ。



「これ・・・お前が作ったんか?」
「そうです!カズさんに俺のめいっぱいの愛ば込めて作りました!」
「・・・美味か。お前の気持ちば入っとうの解るったい」
「カズさん・・・」
「ありがとな、昭栄。これは礼じゃ」

そっと顔が近づいてきてカズさんの顔が息が触れるほどに迫り、愛の篭ったキスを・・・



「しちゃったりな!うははは!そげんこつなったらどげんしよ、俺ーーv」

「昭栄・・・お前、頭おかしなったか?」

「は?」



両手で頬を押さえてくねくねと体を揺らしていたら、同じ班の他の3人が半眼の冷たい視線を向けてきていた。
あ、あれ?俺妄想の世界ば入っとったと・・・はは。
慌てて「何でもなか」と手を振って笑って誤魔化して、いざ!とばかりに腕捲りをする。率先して調理の材料を取りに行き、必要な道具も取り出してとテキパキと準備を進めた。



「で。何すればよかと?」



そう。意気込んだはいいが、俺は料理など一切した事が無い。やった事があるとすれば、よかこつのカップラーメンを作るくらい。それは「作る」とは言えないと、即行でツッコミを入れられたが。
結局、主導権を握るのは同じ班の女子で、説明も碌に聞いていなかった俺は逐一教えてもらいつつ、ふんふんと頷いてまずは玉葱のみじん切りだと包丁を握る。



「いざ、参る!」



きらんと目を光らせて、目標の玉葱を左手で鷲掴みにして包丁を震える手でもって切り始める。ふるふると震えているせいで、丸い形をした玉葱の反発に遭い、危うく玉葱ではなく指を切りそうになる。



「あー!危なっかしかね!やっぱうちがやると!」

「いやいや、あかん!これは俺がやらなあかんったい!」

「何意地張っとうとや、昭栄」

「今日の俺は料理に燃えとるったい!俺が作らなあかんとよ!」

「「「はあ?」」」



何を言っているんだ、コイツは。と訝しげに顔を歪められても気にせずに玉葱と奮闘する。偶に指を切り「痛かー!」と騒ぎつつ、玉葱に目を痛められて涙をポロポロと零しつつ、何とかみじん切りを完成させた。
女子が刻んだにんじんのみじん切りと一緒に自分が切った玉葱のみじん切りを油をひいた鍋に入れて炒め、きつね色に変わってきたところでひき肉を入れて更に炒める。多少ひき肉がごつごつと固まっているが、これくらいいいだろう。細かい事は気にしない。赤ワインを入れて強火で煮込み、アルコールを飛ばして匂いが良くなってから水に固形スープ、湯がいてみじん切りにしたトマトを入れて更にぐつぐつと煮込む。アクを取りつつ汁気が少なくなってきたら最後に塩・こしょうで味付け。



「・・・・・っできたーー!」



自分がやる!と譲らずに作った初めてのミートソース。味も、うん、悪くない。
茹で上がったパスタに完成したソースをかければ、見事完璧なミートソーススパゲッティが出来上がった。
カズさん喜んでくれるかな、とひとりにこにこと笑いが止まらない。
他の3人が作っていたスープとサラダ、ゼリーも出来上がり、先生からも合格点を貰って浮かれる。「じゃあ、食べてもよかよ」という言葉と共に、銀色のトレーに乗せた自分の分の料理を持って調理実習室を飛び出した。



「こらーー!どこ行くとよ、高山君!」



家庭科の先生の怒鳴り声が聞こえたが、構っていられないとばかりに無視を決め込んでサッカー部部室へと走った。 最近ではカズさんは部室で弁当を食べるから・・・って、俺が「一緒に食べましょう!」って強引に誘い続けたからだけれど。
チャイムが鳴れば昼休み。カズさんに食べてもらうったい!とそれだけを頭に乗せてうきうきと足を速める。
カズさんの教室に着いたところでちょうど鳴り響いたチャイムの音に、ガラーっ!と勢いよく教室の扉を開けた。



「カズさーーん!」

「は!?昭栄!?おま・・・っ、」

「これ食べてくだっさい!」



しーんと静まり返った上級生の教室。ピキンと固まったカズさんの姿に「あれ?」と首を傾げた。自分に注目が集まっていて、目の端に見えたカズさんと同じクラスのサッカー部キャプテンである与っさんが額に手を当ててハアと溜息を吐いたと同時に大声が飛んできた。



「こんっっの、ボケ昭栄ーー!!」

「いっでぇぇ!!」



ガツンと額に真正面から拳が飛んできて、痛みと殴られた勢いで後ろに倒れそうになりつつも、「落としちゃ俺の苦労が!」と手に持ったトレーを死守すべく足を踏ん張った。
何とかセーフ!と安堵の息を吐くと、ぎゅううと耳を引っ張られてそのまま廊下へと連れられていく。



「いだだだだ!カズさん耳もげるぅ〜〜!」

「せからしか!黙ってこっちば来い!」



ぎゅうぎゅうと強い力で耳を引っ張られて連れてこられた先は屋上へ続く階段。
その1番上まで来たところで「そこへ座れ」とドスの利いたいつもより低い声で命じられて、何故カズさんが怒っているのか解らないままにおずおずと座り込む。
階段に座った俺の目の前に腰に手を当てて仁王立ちになったカズさんは、じとりと半眼でもって睨み据えてきた。



「何のつもりじゃ、昭栄」

「はい?」

「そん格好ば何のつもりじゃ、て聞いとうと」



格好、と言われて、エプロンも三角巾も取らずにそのまま来てきまっていた事にようやく気付いた。



「さっき家庭科の調理実習ばしとりましたけん、・・・」

「そげんこつば見りゃ解ると!そげん格好のまんま「食べてください」とか教室で叫びよって・・・こんボケ!」

「ぎゃん!」



ガツンと脳天に拳を落とされて、膝に置いたトレーの上のミートスパゲッティに顔を突っ込みそうになって慌てる。あ、あぶっ、危なかーーっ!



「カ、カズさん、何すっとですか!なしそげん怒っとうとですか?」

「ほう、解らんのか」

「ひっ!?」



カズさん、顔ば般若になっとうとです、後ろに鬼が見えるったい!
その形相にびくびくと怯えて縮こまるように背を丸めて、怒りに顔を歪めたままのカズさんを見上げた。
と、がっつりと胸倉を掴まれて顔が近づく。



「お前がな・・・通い妻みたか行動ば取ったけん怒っとうとじゃ!バレたらどげんすっと!?」

「え、え?」

「俺らの付き合いば誰にも秘密なんやぞ、解っとうのか、お前!」



小声だけれど怒鳴る口調の言葉に、息がかかるほど近付いているカズさんの顔が怒った表情から泣きそうに歪んだ事に、ズキリと胸が痛んだ。



「もしあれでバレて・・・非難ば浴びるようなこつんなったら・・・・・・・どげんすっとや・・・」

「カズ、さん・・・ごめんな、さい・・」



だんだんと語尾が震えて小さくなっていくカズさんの声に自分が泣きそうになった。うかつだった自分を今更に後悔する。
男同士という一般の恋愛のそれとは違う、自分達の付き合い。それがバレて、もし教室で・・・いや、学校でカズさんが白い目で見られ悪口雑言を受けてしまったら・・・そんな中にカズさんが・・・・・・
そう考えてゾッとした。最悪の場合、大好きなサッカーをする事も許されなくなるかもしれないのに。居場所すらも奪われてしまうかもしれないのに。



「ごっ、ごめんなさいっ!俺・・・俺ただ、カズさんにこれ食べてもらおと思うて・・・・・・考え無しで、すんませんっ!」

「俺らが危なか橋ば渡っとうっちゅうの頭にしっかり刻み込んどけ、解ったな?」

「はいっ!だけん、カズさん・・・別れる、なんちこつ言わへん、よね?」

「バレたら別れる」

「ええっ!?」

「当たり前じゃ。お前が、周りから冷たか目で見られるんは・・嫌じゃ」

「カズ、さ・・・」



ぎゅうと頭を抱え込まれて、カズさんの手がふるふると震えているのに気が付いた。
カズさん、怖がってくれよる?俺とのこつがバレて、俺が非難されるんを・・・
手を伸ばしてカズさんの背中に手を回し、ぎゅと握る。カズさんの気持ちが思いもかけず聞けて嬉しくて、俺と同じような怖さを感じてくれて、胸の奥から込み上げる何かに突き動かされた。肩に頭を乗せて俯いているカズさんの頬に髪に、ちゅと唇を寄せた。



「しょうえ・・・っ、何してっ!?」

「俺がカズさんば守ります」

「え?」

「カズさんと、ずっとずっと一緒に居りたか。だけん、それが無くなるんば絶対嫌やけん、これから注意ばしてくし何があろうとカズさんこつば守るったい」

「・・・アホ。守るてどげんして守るっちゅうとね」

「そりゃもう俺の全身全霊をかけて、ね?」



顔に満面の笑みを乗せて、ぎゅうとカズさんの体を抱き締めた。耳元でポソリと「・・・アホ」なんて言葉が聞こえてきたけれど、その声色は柔らかくて怒っている風ではなかった。



「ばってん、教室であげん堂々とアホ晒しよったけん、もうバレとうかもなー」

「え、ちょっ、カズさん!?いきなし怖かこつば言わんとって!」

「大丈夫じゃ。ヨシが何とかしてくれとるっちゃろ」

「与っさんが?」



与っさん先輩は俺とカズさんの仲を唯一知っている存在。カズさんの幼馴染でいつも一緒で目配せだけで解り合ったりしていて・・・そういえば、カズさんの教室から引っ張られた時に与っさんがこっちを見て「仕方無いな」という表情をしていたような。カズさんも与っさんにひらりと手を振っていたような。
そう思い出してむぅと顔を顰める。何も言わなくても意思疎通が出来る2人に嫉妬してしまう。俺だって!俺だってそのうちカズさんとそがん仲になったるとーー!



「おい、いい加減手ば離せ。良か匂いばしてきとうけん、腹減ったと」

「あ、そうやった!カズさん、これ食べてください!」



膝の上に乗ったままのトレーを、体を離したカズさんにバッと差し出す。緩く微笑んで受け取ってくれたカズさんはストンと俺の隣に座って「いただきます」と丁寧に手を合わせて食べてくれた。
まさかこんなにもすんなり口に入れてくれるとは思ってもみなくて、目を丸くして隣のカズさんを凝視してしまう。



「何じゃ、何見とうと」

「いえ・・・へへっ、嬉しかです。カズさん、美味しい?」

「まあまあやな」



それは最高の褒め言葉。パアァと顔を輝かせてにこにことカズさんを見つめる。



「じっと見とんな、鬱陶しか。そういや、お前は昼食べんのか?」

「え?あ、忘れとったとです」

「これお前の分っちゃろ。残りお前が食え」

「いえ!これはカズさんの為に作ったとです!カズさんが全部食べてください!」

「ばってん・・・ああ、俺の弁当ばお前が食えばよかか」

「へ?」

「教室から取ってくると。ちかっぱ待っとれ」

「よ、よかですって!カズさん先食べてください」

「そうか?まあ、昼休みばまだ時間あるしな」

「はい。俺は後でよかですけん」



実際、今はお腹が空いたなどとは全然感じない。それよりもカズさんがこうして自分が作った料理を食べてくれて、隣に居るという事だけでお腹がいっぱいな感じ。
幸せだ、なんてくふくふと笑いつつ、朝の不安も消し飛んでいる今を堪能したい。
カズさんは恋愛感情にはちょっと不器用で、それを表すには照れてしまうんだな。と理解した。ちゃんと愛は傍にあったんだ。表面には見えなくても、カズさんは俺を見てくれてる思ってくれている。
まだまだ俺はカズさんの事を解っていないんだな、とこれからの目標も出来た。まずはカズさんとアイコンタクトで話せるように!と少しズレた目標を持つ。
愛の示し方。それは人それぞれ。



「カズさん、愛しとうよ!」

「ぎゃああ!耳元でいきなりアホなこつ言うなーー!」

「ぐげっ!?」



バコーン!と後頭部を殴られて、前につんのめって階段をずるべしゃズドンと落ちた。



「昭栄?お前何しとうと」

「はは・・・カズさんから愛ば示してもろうたとこです〜・・・」

「は?」



階段下で弁当の包みを2つ持った与っさんに訝しげな顔で首を傾げられて、落ちたままの間抜けな格好で乾いた笑いを零す。
これも愛。そう、愛だよな!・・・・・・・・・・痛いけど。





な・・・長い;無駄に長くなってしまいました・・・;
纏まりが無くて駄文極まり無いですが、柊さんのお誕生日お祝いとしてお捧げいたします!
ハピハピバースディv柊さん、誕生日おめでとうございまーーすv

2006.11.19


うわーい!!「ひとときの夢」佐倉様に、誕生日プレゼントで昭カズをいただきました!!
いいですよねぇ…もう、カズさんの優しさ!よっさんの苦労っぷり!そして何より昭栄のアホっ子っぷりが…!!(笑)
もうほんとに嬉しいです!!佐倉様ありがとうですーーー!!お返しがんばりますので(笑)