それは呉の国、あるぽかぽかと暖かい午後のことです。


幸せをはこぶ花


「りーくそーん!!」
 今日も山のように運ばれてくる仕事を真面目にこなしていた陸遜のもとに、今日も山のように運ばれてくる仕事をサボって遊んでいた甘寧がやってきました。
「甘寧殿……また報告書ほっぽって、一体」
「なんだなんだ、こんな天気のいい日まで、机にかじりつきじゃもったいねぇぞ?」
 怒ってやろうと顔を上げた陸遜は、甘寧の言葉で初めて今日がすばらしい青空であることに気が付きました。真面目な陸遜はいつも仕事に一生懸命で、空の色や風の温度をときどき忘れてしまうのです。
 目を細めて窓の外を見る陸遜に、甘寧はにっと笑って、
「行くぞ!」
「え、ちょっ……!?」
 陸遜の腕をぐいぐい引いて、青空の下に駆け出しました。

 先を行く甘寧を追って馬を走らせていた陸遜は、到着した草原の風景に思わずうわぁと感嘆の声を上げました。
 赤、黄、オレンジ、ピンク。一面に咲いた花はやわらかな風に揺れ、その可憐さに陸遜の大きな瞳が零れ落ちそうです。
「たまにはこういうとこで息抜きすんのもいいだろ?」
 お前はがんばりすぎだからなぁとぼやきながら、甘寧はごろんと草の上に寝転びます。陸遜は、甘寧殿がサボらないでくれれば仕事も少しは減るのになぁと苦笑しましたが、結局何も言わず甘寧の隣で横になりました。
 仕事を逃げ回る甘寧の癖にはとても困りますが、甘寧のそんな何にも縛られない自由なところは、陸遜にとって憧れる部分でもあるのです。
 甘寧の真似をして思い切り手足を伸ばして力を抜くと、ふわりと甘い花の香りに包まれて、閉じたまぶたには優しい陽が差して。知らないうちにとても疲れていたらしく、陸遜はすぅとまどろみの中へ旅立ちました。


 ふと目を開けると、隣に誰もいませんでした。
 驚いて飛び起きた陸遜は、すぐそばに甘寧の姿を見つけて一安心、のはずが、更に息を呑んで驚きました。
 そよそよと揺れる花の一角に座った甘寧が、せっせと花飾りを作っていたからです!
 陸遜がその少し丸まった大きな背中の龍の刺青をぽかんと眺めるうちに、無骨な指先は案外と器用に動いて、白やオレンジの彩りも愛らしい花飾りが完成しました。
 忙しなくまばたきを繰り返す陸遜を振り向いた甘寧は、その花飾りをぽすんと優しく陸遜の頭に乗せて、満足そうににかっと笑います。
「はは、似合うなぁ陸遜!」
 陸遜はとても恥ずかしくて顔を赤くしましたが、楽しそうな甘寧の笑顔が嬉しくて、柔らかい花弁に触れながら素直に微笑みました。
「器用ですね、甘寧殿。お上手なので驚きました」
 いつも怒られてばかりの陸遜に褒められて、甘寧は得意げに胸を張ります。

「だろ?花街のおねーちゃんに作ってやったりしてたからな!」
 ぴしり。陸遜の笑顔が音を立てて固まってしまいました。

 最近では派手な噂を聞かないものの、甘寧の女好きは呉軍の中では有名な話で、陸遜も今更甘寧が花街で遊んでいたことがショックだったわけではありません。
 ただ、自分のために作ってくれた花飾りを、他の人も受け取っていたことが悲しかったのです。
 だんだん暗くなっていく陸遜の表情に、甘寧は気付かずにこにこしています。なんて鈍い男なのでしょう!意地っぱりの陸遜は、涙をこらえて俯きました。
「あぁ、でもよ」
 手近な花を一輪摘んで陸遜の手に握らせた甘寧が、淡く優しい色の花たちに飾られた姿を眺めて、うんうんとうなずきながら言います。
「どんな色がいいかとか、あんまり派手じゃねー方が似合うんだろうとか。そんなこと必死に考えて作ったのは、お前が初めてだ。」

 陸遜の胸は、きゅうと切なく、でも幸せに、あたたかくなりました。
 涙が一粒、手に持った花の花弁を濡らします。不思議なことに、悲しい気持ちで滲んだ涙は我慢できたのに、嬉しい涙は止められませんでした。
 仕事はサボるし女好きだし鈍いし、甘寧には困らされてばかりですが、それでもやっぱり、陸遜は甘寧がだいすきなのです。
「……ありがとうございます、甘寧殿。」
 顔を上げた陸遜が心から嬉しそうに笑ったので、甘寧も心から嬉しそうに、きっと陸遜以外の人たちが見たらひどく驚くほど穏やかに、陸遜の艶やかな髪を撫でて笑いました。


 夕暮れの迫る呉城では怒りに震えた大都督が待ち構えているのですが、幸せな二人にとって、それはまた別のお話。



皆様、既にお気付きかとは思いますが…「キスしてさよなら」の伊原さんとのコラボ甘陸です!
絵茶での暴走を優しく受け止めてくださったばかりか、 こんなにも素晴らしいイラストを託していただきまして…!(感涙)
せっかくのきゅきゅーん!なイラストに見合うように、もっと絵本のような凝った作りにしたくって、 色々タグを捏ねくり回していたのですけれども、力及ばず…頂いてから随分と時間が経ってしまいました;
ご迷惑おかけした上に不甲斐ない私で申し訳ありません!でもでも、コラボしていただけて本当に幸せです…!!
伊原さん、本当に本当にありがとうございました!!