伊達政宗、5歳。最近とみに評判な、売り出し中の子供服モデル。
 現在の彼の活躍は、わざわざ言わなくてもご存知だろう。何せこの年で専属契約までつくプロのモデル、衣装が自前の子役や読モたちとはわけが違う。彼が着て歩いた服は、数日後には全国の店舗から追加発注の悲鳴が上がると言われている。
 まさにカリスマ、まさにスター、スーパーモデル!それが伊達政宗だ。どうだ参ったか。ふふん。
 そんな政宗は、生まれたときからそれはもう可愛く、目の中に入れても絶対に痛くない、むしろ目薬より優しく眼球を包んでくれると断言できるくらい可愛かった。
 誤解しないでほしいのだが、現在も当然その可愛さは健在だ。ぷにりむちむちしていた手足が伸びてくると同時に、類まれに明晰な知性まで発揮して、本当に天からうっかり零れ落ちた花の雫の精とか何かじゃないかと思う。
 いつか、天使たちがこの無垢で至上の存在を迎えに来てしまうのではないだろうか。  そのときを思うと、もう、とてもとてもとても……!!!

「こじゅ、おかおこわいぞ!またへんなことかんがえているんだろう。」
「はっ……も、申し訳ありません。小十郎はただ、政宗さまのお可愛らしさが」
「のーうぇい!もういいから、はやくきょうのふくをえらべ。はだかんぼはさむいぞ!」
 くちょ、と小さなくしゃみをした政宗に、小十郎がわたわたと衣装を差し出した。
 小さめの水玉がプリントされた、紺地のタンクトップ。
 濃い目のピンクのロングパーカーは、フードにねこみみがついていて、前面は黒地の肉球、背面は同じく黒の尻尾に赤リボンの柄。
 パーカーの裾から膨らんで見えるかぼちゃパンツは、尻尾に合わせて黒をチョイス。すんなりした膝小僧がかわいらしく覗く長さ。
「…………へい、こじゅ。おれはおとこのこなんだぞ?」
「はい、もちろん存じておりますが。何か???」
 きょとんと首をかしげた小十郎に、政宗は幼児らしからぬため息をついた。

 片倉小十郎、現在25歳、独身。
 すれ違う子どもにもれなく泣かれ、街や電車ではモーゼのごとく道が割れる、最恐の強面とでかくて逞しい体。吊り上がった細眉に、何の因果でできたのか頬に傷。
 職業、政宗専属のスタイリスト。
 得意分野は、ぷりきゅー路線だ。

 世にオトメンという言葉が認知されてきた昨今はいい。
 小十郎が多感な少年・青年であった頃は、硬派ヤンキーブームで、男がかわいいものや色を持っていたりしたら、もう完全にイジメの対象だった。
 心の中で、子供服の小ささかわいらしさに魅せられ、親戚に子どもが生まれればこんな服はどうかなぁなどと思ってみていても、恥ずかしくて言えない。それ以前に泣かれる。
 そんなコンプレックスの反動から体を鍛えまくり、むさくるしい男どもにアニキと呼ばれ慕われるようになってしまい、更に内心泣き濡れて荒れまくっていた頃。
 先祖代々懇意にしている家系の夫婦のもとに、政宗が生まれた。
 白くて小さくてふくふくでまんまるい赤ん坊は、小十郎のぶっとい指をきゅっと握って、笑った。
 笑ったのだ。
 その瞬間から、小十郎はすっかりと落ち着いて、今度はひたすら素直に政宗を慈しむことに精を出し始めた。
 よだれまみれになっても、ミルクのゲップまみれになっても、ちょっと休憩と布団に下ろせばびわんびわん泣くせいで常にだっこ状態で腕も背中もパンパンになっても。
 本当の親は一体誰なんだと両家の家族が呆れるほど、小十郎は甲斐甲斐しく政宗を世話し、育て、可愛がり。心ゆくまで選び抜いた可愛らしい衣装を着せては自慢して回り。携帯電話のフォルダやアルバムに山ほど写真を撮り溜めるだけでは足りず、わざわざフェイスブックに登録したり、赤ちゃん番組に写真を投稿しまくったり。
 巷では『片倉がとうとう女を孕ませて子どもを誘拐してきた』とか噂されていても、光栄だ!とむしろ喜び勇んで更に張り切り。度重なる職質にも負けることなく。
 そうして、気付いたらとうとう、ぷりきゅーモデル政宗の専属スタイリストとして活躍していた。
 勿論、最高に幸せな現在だ。

「今日の撮影はB-modeの衣装がメインです。カラーテーマは……」
「とりあえずこの中からメインで数点使っていきたいので、お願いします」
 スタッフから渡されたサンプル資料を確認しながら、小十郎が衣装をピックアップしていく。
「こっちのTシャツは、少し大きめの」
「だめだ。このスニーカーだとパンツのラインが映えない」
「何か、合わせる小物がほしいな」
 矢継ぎ早に注文を伝える小十郎の声は、政宗に話すときよりも低く厳しい。手を広げて着せ替え人形になる政宗の横に膝をつき、衣装を着せ付けていく、真剣そのものの表情は鬼気迫る怖さだ。
 そのくせ手に持つのはうさぎのロゴのサマーニットだの水色マリンセーラーカラーだの、可愛らしいことこの上ない。
 本当は、政宗としては、もっとクールにキメたかんじが好きなのに。
「うん、やはりこれだ。政宗さまに、よく似合います。」
 世界で一番政宗のファンだと胸を張る小十郎が、いつもあんまりにもウキウキ満足げにそう言うものだから、
「……まったく、しゅじんってーのもらくじゃないぜ」
 なぜかきゅんっと弾む胸の内に、結局ついつい甘やかして、今日もまた小十郎の趣味に合わせてしまうのだ。



スタイリストと子供モデル