5万打感謝企画8「女教師むねさま、三者面談のその後」
三者面談のあの日から、二ヶ月が近付こうとしている初夏の頃合い。
「喜多さん!!助けてくれっもう耐えられないー!!」
涙ながらに叫んで駆け込んできた常連客・政宗に、たまたま受付ブースに出てきていた喜多は驚いて目を瞠った。
「ど、どうしたの政宗ちゃん!その髪、その肌…!?」
「う、うぅうえええええんぎだざぁあああああん!!!ごんなんじゃおれ、いきていけないよぉ!!」
パサパサに傷んで膨らみがちになってしまった髪。肌理が荒れてくすみ化粧ノリの悪くなってしまった肌。
髪はシルクのようにしっとりと柔らかく、肌は真珠のように光る白さと弾力。政宗の肢体は、まさに喜多のエステティシャン生命を賭した芸術品だったというのに!
ぶぇええんと泣きじゃくる彼女の荒れ果てた姿に、喜多の瞳に炎が宿る。
「政宗ちゃん、いらっしゃい!今すぐケアするわよ!」
施術担当として、美の探究者として、この状態はとても見過ごせない!
かくして数時間後。
「ふぁ〜、さすが喜多さん!やっぱ最高!ありがとうー!」
つやつや〜でしっとり〜な髪と、ぷりぷり〜んですべすべ〜な肌を取り戻した政宗は、まるで別人のように光り輝く笑顔で喜多に抱きついた。
まったくもう、と苦笑しつつ、喜多は幼子を叱るようにこつんと政宗をこづく。
「政宗ちゃん、一体何だってあんなひどい有様になってたの?一瞬誰だかわかんなかったわよ!」
「う……だって、もうなんかここんとこすげー忙しくて、スキンケアもしないで寝るってかんじでさ。しかも喜多さん怒らせちゃったから、来ていいのかわかんなくて結局……ズルズルといつの間にか……」
むにゅむにゅと俯いて言い訳をする政宗に、喜多は幾度か瞬いて、ふぅと息をついた。
そう、三者面談でまさかの自分の担当客が恋する相手が教え子である弟というややっこしい事実が発覚し、ちょっとした昼ドラバトルみたいなものを繰り広げてしまった二人。
社会通念上考えればまず猛抗議で済まない事態だろうけれども。
「……もう、しょうがないわね。政宗ちゃんの男を見る目が確かだってことは認めざるを得ないし、政宗ちゃんがいい子なのも私はよく知ってるわ。」
喜多はブラコンだ。はっきりきっぱり自覚している。年の離れた弟が可愛くて仕方がない。そんな可愛い弟を、こんなにも素直に好きだと言われてしまったら、まぁちょっと悩むところはあるにしろ、悪い気はしない。
何より、転校して政宗のクラスに入ってから、弟が随分と落ち着いたのだ。ポーカーフェイスは相変わらずだが、どこか張り詰めていた雰囲気が和らいだのを感じて、随分と安堵していた。
それはきっと、この見た目は派手ながら素直で可愛らしい政宗や、そんな彼女の教え子であるクラスメートのおかげなのだろう。
「喜多さん……」
これまで聞いた話を総合すれば、オトナの女に弄ばれているわけでもなし(どちらかというと小十郎に遊ばれているという方が近いかもしれない)目くじらを立てて引き裂こうとすることもないか。
潤んだ瞳で見上げてくる政宗に、喜多は力の抜けた微笑みを向けた。
「ってわけで小・十・郎!お姉さんのお許しは頂いたし、あとはお前の気持ち次第だぜ!とりあえずこれ弁当な!お前の弁当はおれが食うから交換な!」
最近やつれていると評判だった担任教師が、休み明けつやつやぴかぴかにバージョンアップして、ついでに底抜けのテンションで行われる公然セクハラ(対象は一人)も健在に戻ってきた。
周囲の生徒が「やっぱうちの伊達先生はこうじゃないとね〜」とゆるい笑みで見守る中、ずいっと押し付けられた弁当を手に、小十郎はきょとんと瞬く。
政宗のアタックの仕方といえば、一にセクハラ、二にセックスアピール、三四を略して五も身体という露骨過ぎるものばかりだったのだが。
「なになに、伊達センセ、家庭的アピール?ちょっと角度新しいじゃん」
「まぁな。昔から男を堕とすには胃袋からって言うだろ?」
おれの魅力は身体だけじゃないんだぜ!と明らかに教育現場に相応しくない発言をしているくせに、浮かべているのは邪気のない笑顔で憎めない。
たははーと苦笑する佐助の横で、小十郎は少し悩んだ後、結局弁当を開けた。仕方ない、自作の弁当は既に政宗の手の中だ。
「お、どれどれ……え」
「……………………」
「……?どうしたんだよ、食べていいぞ?」
「…………いただきます。」
手を合わせてぺこりと頭を下げた小十郎は、黙々と、淡々と、食べ始める。
「ど、どうだ?もしかしておいしくないか?」
「いえ、おいしいです。特にこのだし巻き、出汁の甘味が丁度いいです」
「そ……そう、か……?」
普段なら、小十郎に褒められれば、きゃあんと声を上げて、体を弾ませて、思いきり喜ぶところなのだが。
何か、おかしい。思ったより、反応がよくない!?
政宗の料理は、家族揃って美食家の食道楽が相まって、はっきり言ってプロレベルだ。かつ小十郎が「おいしい」と口にしている以上、まずいのを我慢しているとか、そういった可能性は全くない、はずなのに。
どうして?と混乱に凍りつく政宗を見かねて、やれやれとため息をついた佐助が肩を叩く。
「伊達センセ。これさ、メニューがちょっと重いよー」
「えっ?」
「トンカツ、スコッチエッグ、しょうが焼き、そぼろごはん。肉肉あげものばっかじゃん!」
「だ、だって若い男は肉が好きなんじゃ」
「まぁそういう奴もいるけどさ、それにしたって重いよ。大体、片倉の旦那は野菜好きの和食派だよ?」
政宗が慌てて手元の弁当を開けると、そこには確かに、煮物や和え物を中心とした、野菜メインの和食おかずが並んでいる。ちなみにごはんにはゆかりのふりかけ。渋いチョイスだ。
自分の作った弁当で、肉以外のものといえば、小十郎の褒めてくれただし巻き卵の他には、かろうじてプチトマトとレタスくらい。
つまり、それって、全然小十郎の好みじゃないってこと……。
「やめろ、猿飛。せっかく作ってもらったのに、失礼だろうが」
あまりのショックに言葉もなく俯いた政宗の頭に、ぽむと何かが乗せられた。
「ごちそうさまでした。」
手に取ると、すっかり空になった弁当箱。目が合うと、小十郎が少し困ったような顔で首をかしげている。
「おいしかったです。俺、嘘はつきませんよ。先生も知ってるでしょう?」
そのサラリとした言い種に、事態を見守っていたクラスメートの全てがうきゅうんと胸を高鳴らせる中。
「こじゅ……おれ、……っおれ、次はちゃんと小十郎好みの作ってくるからな!」
ふにゃっと涙をこらえて笑った政宗に、小十郎は珍しく少し照れたように視線を逸らすのだった。
ちなみに、その後「どうして小十郎の好みを教えてくれなかったの!」と泣きついた政宗に対して、喜多はうふふふと意味深に笑って言った。
「あら、私は姑よ?少なくともあの子が高校生のうちは、そう簡単に掻っ攫われないように防衛させてもらうわv」
永遠のテーマ、嫁姑戦争(笑)きっとこれからもこんなかんじで、遊ばれつつ仲良しな関係なのだと思います。
リクエストくださったあーや様に、小十郎がもてもてなのがいいと言っていただいたので、
こちらにもちょろりとそんな場面を入れてみたり。
転校生小十郎はひっそりもてるタイプです(何しろ担任がアレなので笑)ちなみにうきゅうんとしてるのは男子も入ってます(兄貴と呼びたい的な笑)
そろそろ片倉家のごちゃごちゃを書きたいなー。女教師むねさまは本当に気に入っているシリーズなので、これからもちょこちょこ書いていきたいです!
あーや様、嬉しいリクエストを本当にありがとうございましたvvv