5万打感謝企画3「変態年上政宗様とハラハラおかんにもてもて子十郎」
『拝啓 大将、真田の旦那。
俺様は今、奥州にいます。
真田の旦那から独眼竜への文は無事渡せたから安心してね。ただ、独眼竜に「真田のバカ、字が汚くて読めねーよ!」って文句言われたよ!いい加減観念して小山田の兄さんに手習いの修行でもつけてもらってよね。恥ずかしいったら。
旦那の字が解読できなきゃ返書も書けないってんで、俺様帰るの遅くなっちゃいそう。その間のごはんや掃除や洗濯は自分でやってくださいね、大将も。しょうがないよね、自業自得なんだから。
それじゃ、がんばってね。 敬具』
奥州へ使いにやった佐助から、そんな文が届いてから早二月。
奥州は青葉城。独眼竜と名高い伊達政宗の居城。
その一室に、子どもが眠っている。
くりくりの瞳はまぶたとまつげに閉ざされているが、目尻が垂れて愛らしい形をしている。片方だけ掻巻から飛び出した手はぷくぷくと小さく幼い。まだ細く柔らかい髪はぴこぴこと寝癖で跳ねている。小さく開いた唇もぷっくりと小さく愛らしい。
体に比べて大きな掻巻にすっぽりと包まれて、すぴょすぴょと安らかに眠る子どもの頬に、ゆっくりと朝の青い光が差していく。障子越しの明かりに、すっと凛々しく上がった鼻筋と眉の稜線が浮かぶ。
まだ稚く妖しさこそないが、まさに美童。そのまろい頬など、産毛まで白く光って、まるで白桃のようだ。
じっと眺めていたら、思わずかじってみたくなるほどに。
「……っていい訳ないだろ!!こじゅさんから離れなこの変態筆頭が!!!」
「猿テメェ大声出すな!!こじゅたんがおっきしたらどうしてくれんだ!?」
「たんとかやめれぇえええキモいぃいいいいい」
スッパンといい音を立てて障子を開けた佐助は、小さな子どもに添い寝しつつ至近距離であんぐり口を開けている当主(信じたくないが多分)の姿におぞぞ〜〜〜と鳥肌を立てた。
「大体ね!毎日毎日、朝から嫌な思いさせないでよ!こじゅさんしっかりしてるんだから、もう添い寝はいらないの。隈作ってまで変態行為に勤しむなよ」
何故に朝一番からこんなおぞましい光景を見なければならないのか。頭痛をこらえながらため息をつく佐助に、政宗はハッと鼻で笑って欧米仕込みのやれやれのポーズ。
「それはこっちの台詞ですぅー。わざわざ毎朝俺のこじゅたんの寝顔を拝みに来やがってムッツリ忍びが」
「アンタと一緒にすんな!マジでやめてくれ!!」
互いに明確な殺意を抱きかけたところで、間で眠る子どもがもぞもぞと動き出した。
まだまだ寝顔を堪能するつもりだった政宗に一瞬できた隙を狙って、忍びの早業でこめかみに踵を喰らわせ城主(信じられないが多分)を部屋の隅まで吹き飛ばすと、佐助は一転子育てオカンの表情で明るく子どもに声をかけた。
「はーいこじゅさん朝ですよー。いい子のこじゅさんは自分で起きられますねー?」
しばらくむにゅむにゅ何やら寝言をつぶやいていたが、佐助の声に子どもは素直に起き出してくる。掻巻からもそっと出ると、くしくし目を擦りながらぺこんと頭を下げた。
「……ぁい、こじゅうろうおきました。さすけどの、おはよございます」
「はい、おはようございます。いい挨拶ができたねぇ。こじゅさんは今日もいい子だね!」
俺様大感激!だっこしちゃうぞ〜!と小さな体を高く持ち上げてくるくる回る佐助に、こじゅうろうもきゃっきゃと笑う。
一通りじゃれあって、すっかり目の覚めたこじゅうろうを抱き上げたまま井戸に向かおうとする佐助の腕を、こじゅうろうの小さな手がぺちぺちと叩いた。大きな瞳をきょとんと丸くして、部屋の隅を指差す。
「さすけどの、まさむねさまがすみっこでねんねしています。」
昨日はちゃんとお部屋にお布団を敷いて、おやすみなさいのご挨拶もしたはずだったのに。
うぅん?と不思議そうに首をかしげる小十郎に、佐助はにっこり笑って言った。
「変だね、きっと夢遊病なんじゃないかな?今夜からは布団に縄で縛りつけておいてさしあげるといいよ。後で絶対抜けられない縛り方を教えてあげるからね。」
冷たい井戸水で顔を洗い、佐助と一緒に乾布摩擦をして、こじゅうろうがすっきり眼で朝餉の席へやって来ると、既に政宗が上座の席に座っていた。
先程までの無残なあれこれがなかったように落ち着いた様子で微笑む政宗に、何も知らないこじゅうろうは、憧れの主を見る目でぱぁっと顔を明るくする。
「まさむねさま!おはようございます。おかぜひいてないですか?」
「Good morning!俺は元気だぜ。こじゅうろうはどうだ、怖い夢見て寝れなかったりしてないか?寂しかったらいつでもまさむねさまを呼ぶんだぞ?」
「へいきです!こじゅうろうはもうひとりでできます。あねうえにもひとりでなさいっていわれてます」
「oh……喜多はちぃっと厳しすぎるぜ。たまには甘えていいんだぞ?さぁ、まさむねさまのお膝に」
「おはよう政宗、小十郎。今日もいい天気だなぁ」
「てるむねさま!!」
しかし政宗の開いた腕も虚しく、こじゅうろうのキラキラの視線は、すらっと襖を開けてやってきたダンディズム溢れる父・輝宗に攫われてしまった。
「てるむねさま、おはようございます!」
「やぁ小十郎、元気な挨拶だ。こちらへおいで」
穏やかな眼差しで微笑む輝宗に手招かれ、こじゅうろうは嬉しそうにちょこちょこと寄って行く。抱き上げられ膝に乗せられると、ぽぽっと頬を染めてにっこり笑った。
とても、幸せそうだ。ほのぼの親子図の完成形と言って過言ではない。
一方本当の親子である政宗と輝宗はといえば、
「Hey親父、朝っぱらから何か用かよ?」
「何か用かとは冷たいなぁ。今日は一緒に朝餉をとろうと思ってね」
「……そうやってアンタがのほほんうろうろしてると、家中に示しがつかねぇだろうが。家督譲ったんだからのんびり楽隠居してひっこんでろっつーの」
「はは、心配するな政宗。こんなことで示しがつかなくなるような器ではないだろう?」
片や不愉快を隠しもしない険悪な目つきでガンを飛ばすわ、片や笑顔で受け流しつつ見せつけるようにこじゅうろうの頭をなでなでよしよし。
「百歩譲って飯は一緒に食ってやるから、こじゅうろう返せよ。こじゅうろうをお膝に乗せていいのは俺だけって決まってんだよ、you see?」
「いいじゃないかたまには。政宗はいつも小十郎を独り占めしてるだろう?小十郎は私の徒小姓として離れに連れて行くつもりだったのに」
あまりにもわかりやすく好みが被っている辺りはさすがの親子ぶりと言ってもいい、のかもしれなかった。
「ハイハイ朝飯ですよーギスギスした空気やめ!ごはんは楽しく!こじゅさんの成長に悪影響!」
まぁ、存在自体が既に悪影響と言えなくもないが。城主の血筋が二代揃って何やってんだか。
割って入った佐助は口に出すと悲しくなる思考に蓋をして、朝餉の膳を並べていく。もちろんこじゅうろうは取り返して、下座の席へ。膝と首周りに布をかけてやり、何くれとなく世話を焼く。
「こじゅさん、今日の汁物には、こじゅさんの好きな野菜がたっぷりでしょう。ごぼうも入ってるよ。厨のお女中さんたち特製だから、おいしく食べてね」
佐助の言葉に、こじゅうろうがぱあっと嬉しげに笑った。同時に上座方向からものすごい嫉妬の視線が飛んでくるが、無視。
「あとね、今日は大坂の豊臣さん家から珍しい果物を貰ったよ。この黄色いの、南国で育つんだって。『将来有望な片倉くん。是非食べて、秀吉のように大きく育ってくれたまえ』ってお手紙付だったよ」
「Nooooooo!!!そんなもん食わせんな!!こじゅたんがゴリラになっちまったらテメェ市中引き回しの刑だからな!!」
「おや、これは何だか政宗の前立てに似ているね」
「黙れおっさん!食ってゴリラになっちまえ!!」
妙に柔らかな黄色い果物を輝宗に投げつけると、政宗はギンッと佐助を睨みつけた。正確には、佐助の背後に山となっている、いかにも趣向を凝らした多種多様な贈り物たちを。
「えーっと、こっちは大仏殿から、大仏様を模したお饅頭。『平蜘蛛茶釜が欲しいならお手紙をくれたまえ』だって」
「パンチパーマも茸頭もNo thank youだ!」
「上杉さんとこからは、『つるぎがそなたをたのしませようとつくった、とけないゆきうさぎ。さむいふゆもあいらしくいろどってくれるでしょう』だって、珍しいし可愛いね。仮名で書いてくれてるから、こじゅさんも読めるね」
「軍神は仮名しか書けねぇじゃねーかよ親切みたいに言うなよ」
「南の鬼島津からは、『新しい酒ができたとよ〜。名前は最近勝負したザビーどんにちなんで、愛・ミナギル』」
「飲ませるか!ていうか飲めるか!!」
「織田の魔王さんからは、金平糖だね。奥方特製の巾着付き」
「うっ…南蛮菓子とはいいとこつきやがる……が、Noだ!こじゅたんが虫歯になる!」
「あとは、瀬戸海の長曾我部から鰹が一匹まるまる…と、ありゃ、安芸の毛利から紅葉の栞が一緒になって届いちゃったよ」
「魚くせぇ!!」
日ノ本全土の有名武将からの贈り物を尽く却下した政宗は、山がなくなるや否や部屋を飛び出して行く。
「まったく、政宗は朝から騒がしいなぁ。元気があるのはいいことだが」
「てるむねさま、こじゅうろうはあのきんちゃくがほしいです……まさむねさまおこりますか…?」
「うん?そうだねぇ、一つだけならよいのではないかな」
隙ありとばかりに再びこじゅうろうを膝に抱き上げて目尻を下げる先代。遠くからは「これは俺たちに対する挑戦だぜguys!!」「うぉおこじゅうろう様は渡さねぇええ!!」と現役世代の血気盛んな雄叫びが聞こえてくる。
信じたくない話だが、これが伊達家の毎朝の光景だ。
甲斐での暮らしも、静寂や落ち着きとはかけ離れていた。寄れば暴れて屋敷を壊す迷惑主従の後始末に追われ、生活能力皆無のものぐさ主従の世話に追われ、ときどき忍びの仕事を思い出し。
それでも、何となくもうちょっと日々充実していたような気がする。少なくとも精神的な疲労はここまでじゃなかったように思える。
というか、そもそも自分の主家でもない場所で、なぜこんなにも身を粉にして働いているんだろうか。給料くれるわけでもなし。
佐助がぐったりと深くため息をつくと、こじゅうろうがとことこと駆け寄ってきた。灰がかった大きな瞳で、気遣わしげに見つめてくる。
「さすけどの、ぐあいがわるいですか?こじゅうろう、わがままいいません。おしごともひとりでできます。さすけどのはおやすみしてください」
こじゅうろうがおせわかけるから、さすけどのはたいへんなのです。ごめんなさい。
そう言ってしょぼんとうつむいてしまう姿に、佐助は思わずぎゅっとこじゅうろうを抱きしめた。
給料が何だって言うのさ!この子のためだ!
こんな無垢な子どもを、狼だらけのこの城に、独りで放っておけるわけがない。それどころか、日ノ本中から狙われるこじゅうろうを、守れるのは自分一人なのだから!
ごめん大将、真田の旦那。俺様、まだ当分帰れそうにありません。
これが母性っていうものですか。
どうしましょう、楽しすぎてやり過ぎてしまったやも…(あわわわ笑)
ギリギリな政宗様ということでしたが、大丈夫でしょうか。完璧アウトで変態デビューしている気がする(笑)
でももう子十郎が書けたし巻き込まれオカンは楽しいし、変態宗様好きだし、いいかなって★←
ゆいな様、素敵なリクエストありがとうございました!!