5万打感謝企画10「こじゅろ社長で、二人きりな話」


 黒い革張りの椅子に血のように赤いベロアの床。熊や鹿の剥製があちこちに飾られ、猟銃が背後に掲げられている。デスクの上には、ヒトの骸骨、を模したオブジェ?だと思いたい。
 まるで地獄の執務室か何かのような重苦しい空気の漂うその部屋で、部屋の主たる男が、鋭い眼光を放ち言った。
「きぃーさまのぉ〜、持参する弁当がなければぁー、今頃打ち首にしてくれよう使えなさよぉ。片倉に懺悔せよ小童がぁ」
「おっさん、口んとこ米つけて言っても迫力ねぇんだよ!」


Love saves The Youth !!!!!


 今日も今日とて大得意先の織田社長に「ぶるぁあああ」と渇をいただいて、政宗は空っぽの重箱と営業結果を手に帰社した。
 ちなみに、織田の家紋入りのこの重箱、決して用意したわけではなく、向こうから催促と共に渡されたものである。「賄賂じゃねーか!」と抗議したものの、現状一度も新規契約にはこぎつけていないので、もう本当にすっきりクリーンなものだ。ちくしょう。
「伊達くーん、会議の準備おしてるからお茶いれて〜」
「えっ!俺今帰ってきたばっかなんスけど…」
「手ぶらのくせに文句言わないー」
「竹中部長に言いつけるよー」
 さぁ会議室の準備をしよう、社長の資料は私が置く!ときゃいきゃい去っていく社内プレゼン担当のグループを見送って、政宗はとぼとぼと給湯室へ向かった。

 この会社内では、女性社員や営業事務員を雑務担当扱いしない。各自が適材適所で実力を発揮し、できることは手の空いた者がフォローする。社長の方針はしっかりと浸透していて、現実今一番暇なのが自分であることは否定できなかった。
「どーせ、今日もぶるぁああ喰らいましたよーだ」
 報告書に書くこともないですよーだ。ぶつぶつ。
 ふてくされた気分でポットの中身を確認し、茶葉を探す。今日使うのは、普段使いのものではなく、来客に出すような上等のものだ。
 今日は営業部メインの会議のため、あらかじめ「秘書室に負けない完璧な準備と進行を」と部長自ら全体に厳命が下されている。会議室の清掃まで担当を振り分けて臨む熱意を、もちろん政宗も無下にする気はない。
 けれど、プレゼン担当で社長の前に立てる先輩たちが、羨ましい。
「ちぇ……」
 唇を尖らせて俯いたら、ふと鼻先に、あの森のような芳しい香りが届いた。
「伊達か、どうした?」
「う、え、えぇ!?」
 低い艶のある声までして、慌てて振り向けば、給湯室にひょいと入ってきたのは、やはり全社員憧れの片倉社長その人だった。
 何度瞬きをしても、消えない。妄想じゃない、本物だ。
「しゃ、社長、どうしたんですかこんなとこに!」
「こんなとこって何だ。そんなに驚かなくてもいいだろう、俺だって自分の茶くらい自分で淹れられるぞ」
 顔の横でマイマグを揺らすどこか愛嬌のある仕種。ついつい顔に熱を上らせて笑ってしまう政宗に微笑み返しながら、片倉は慣れた手付きで急須を手に取った。
「お、今日はいい茶葉だな。これ使ってもいいか?」
「はっ……はい、もちろん!!」
 隣に並ぶ形になり、かつてない至近距離で聞く声にガチガチに強ばってしまう。そっと横顔を見上げれば、端正な目元のまつげが、意外と長くて可愛らしい、なんて初めての発見まで。
「あの、あの、めがね替えたんです、ね」
 緊張で上擦って、虫の鳴くような声になってしまった政宗を横目で不思議そうに見て、片倉は軽く頷いた。
「あぁ、よく見てるな。市と竹中が揃ってPC用の眼鏡も買うべきだって言うからな。銀縁じゃマジモンみたいだって家族に爆笑されたんだが、やはり変か?」
「そんなことない!です!すげーかっこいい!!」
 ぶぶぶんと首を振って言う政宗の勢いに驚きつつ、くすっと笑う。それにまた更に赤くなった政宗がもじもじと言葉を探すうちに、片倉はお茶を淹れるべく準備を始めた。
 急須に湯を入れて、温まったらマグに湯を注ぎこちらも温めて。一度湯を捨てて、新しい湯と茶葉を入れたらしっかりと蒸らす。マグと紙コップに順に注いで、濃さを均等に。
 あまりに手慣れた様子でテキパキ進むので、見惚れてしまって自分がと言い出せなかった。
「……社長にお茶淹れさせるなんて、あの室長が許さないっぽいのに」
 思わずぽつりと言ってしまうと、片倉はうん?と一度首を傾げて、シンクに軽くもたれた姿勢で笑った。
「確かに、猿飛は世話焼きだからな。でも発足当初なんか、只でさえ手が足りない中で、茶如きで時間をとらせるわけにいかないだろう?」
 俺の腕前もなかなかのもんだぞ、なんたって猿飛仕込みだからな。そう言いながら、紙コップを政宗に差し出す。
「飲んでみろ。他の奴には内緒な」
「え」
「今日も織田社長に絞られたんだろう?あれでお前のこと気に入ってるんだ。ふててないで明るくいけ」
 紙コップを受け取った政宗の髪を、くしゃくしゃと撫でて。
「俺はお前の無茶な前向きさを買ったんだ。忘れるなよ」
 通り過ぎざまに流し目と香りを残して、片倉は給湯室を出て行った。

 しばらくぽかんと口を開けていた政宗が、へにゃへにゃと腰を砕かれてへたり込んだのを、どうか誰も責めないでほしい。



人タラシな片倉さんぶるぅああああああ←え
「二人きりになりオロオロ宗と余裕社長」ときて「給湯室」…なんて最高の組み合わせなんでしょう。あ、涎が(やめれ)
そこに中の社長が銀縁を購入されたというネタをミックスしてみました。
こじゅろ社長は普段=裸眼、書類確認や商談=黒縁、PC=銀縁の使い分けでお願いします(マニアック笑)
陸矢様、いつもツボど真ん中すぎる素敵ネタをありがとうございます!こじゅろ社長よ永遠に!!