俺様と片倉さんのカンケイは、ちょっと複雑だったりする。
 出会ったのは、そうねー、面倒だから大雑把に、戦国時代って言っとこうか。え?電波じゃないって、マジマジ。
 俺様は甲斐っていうとこで、薄給に耐えながら暑っ苦しい上司の世話してた。片倉さんは、その上司のライバルっていうの?国なんか持っちゃってる偉い武将さんのお付の人でさ、えっらい渋い男前で、しかも頭いいわ強いわですごかったわけ。
 その頃はまぁ、お互い上司が敵同士なわけだし、別に仲良くもなかったよ。でも悪くもなかった。敵なんだけど、ライバル言い合ってる人たちでさ、決着つかない方が嬉しそうっていうか?不思議だよね。
 俺様は忍びだったから、あー、忍びってわかる?ニンジャねニンジャ。ニンジャはさ、いわゆる道具なわけよ。暗殺とか諜報とか、褒められたことじゃない仕事をして上司を輝かせる影っていうのかな。ちょっとかっこよく言い過ぎかも。んーだからね、道具は感情で動いちゃいけないわけ。誰が好きとか嫌いとか、仲良しとかあっちゃいけないの。
 そういう意味では、片倉さんも、立派な武士だけどどっかこう、道具として動こうとしてる感じはあったよね。っていうか、あの人の場合は、『政宗様のために!』が趣味ってかんじだけど。口開けばマサムネサママサムネサマ、嫌んなっちゃうよね。舌噛みそう。
 あーまぁそれはどうでもいいや。とにかくそうやって出会った俺たちは、特に仲良くもなく悪くもなく、関りもあるようなないようなで戦国時代に生きてたわけ。
 で、色々あって気付いたら中学の同じクラスに片倉さんがいてー……いや飛ばしすぎとか言われても、だから最初に言ったでしょ、なんか長いし面倒なんだよ。
 そういうことで、だから今から四年前か。中学二年の新学期にさ、教室に入ったら、いきなり片倉さんがいたわけよ。俺様もびっくりだったけど、向こうもびっくりしてたな。だって一年間同じ学校通ってて気付かないってある?あんな目立つ人なのにさ。
 あーあとね、俺様的には二重にびっくりだったのが、片倉さんてばおんなのこになってたのよ。生まれ変わりってすっごいよねー!セーラー服が案外似合ってて、顔の傷は健在だし目つきはキツいけどきれいでさー。俺様気の強いおんなのこって結構タイプなの、知ってた?あ、興味ない。あっそう。
 うん、それで、無事平和な時代の平和なクラスメートになった俺様たちは、平和に親交を温めて〜……といけば、何も面倒はなかったんだけど、ね。

 大体こんな面倒なことになったのは、片倉さんのせいだよ。
 だってさ、せっかくかわいいおんなのこに生まれ変わったっていうのに、俺様に最初に言ったのが何だったと思う?「武田の忍び、政宗様のことを何か知らないか」だよ?
 そうなの、片倉さんてば、おんなのこになっても『政宗様命』な右目ちゃんだったわけ。  まぁそれは別にいいんだけどさ、だってなまじっか記憶がある以上、やっぱ切り離せないとこはあるじゃん。俺様だって多分、今旦那に会ってもやっぱり世話焼いちゃうと思うし。
 でもね、問題なのは、片倉さんの『政宗様命』度の半端なさまでそのままってこと。あの人の行動原理は全部マサムネサマのためになるかどうか、役に立つかどうか。思考回路は全部マサムネサマ中心にして組み立てられてて、それがさぁ、理路整然としてるようで歪んでんの。
 わかりにくい?まぁそうだよね。んー……じゃあちょっと、具体的な話しようか。
 あ、わかりやすいように先に言っとくけど、俺様と片倉さんはね、まぁつまり、男女の仲ってわけです。でも恋人じゃないんだな。
 このカンケイはね、片倉さんの方から言われて始まった。別に俺様がタイプの子だから無理矢理拝み倒したとかじゃないのよ?みんな誤解してるみたいだけど!
 でも片倉さんは別に俺様のことが好きなわけじゃ、まったくこれっぽっちも、ないの。そうそう、だって片倉さんはマサムネサマ至上主義、マサムネサマ以外眼中ありません人間だからね。
 じゃあ何で俺様とそんなことするのか。不思議でしょ?でもね、これには片倉さんなりの考えがあったりするんだよ。あくまであの人なりの、であって、君が納得するかは別問題だけどさ。

『猿飛、お前、おれを抱けるか?』
 夏の晴れた青空の下で、お昼ごはん食べてウトウトしちゃうくらいの、すっごい爽やかな日にさ。いきなりそんなこと言われて、即答できるほど俺様も阿呆じゃなかった。
 顎外れるかと思うぐらい唖然としてたら、無理ならいいとか言って立ち去ろうとするじゃない。でも何でそんな話題か気になるじゃん、当然呼び止めて色々聞くでしょ。そのときはさ、ちょっと、えーもしかしてもしかして?とか思わないでもなかったよそりゃ。
 でもね、世の中そんなわかりやすくできてないよね。
『おれはまだ政宗様とお会いすることは叶わずにいるが、なんとなく気配は感じている。政宗様もきっとこの時代にお生まれになっているはずだ、だとしたら遅かれ早かれあの方はおれを見つけてくれるし、おれも必ずあの方を探し出す。政宗様は後の世で再び見えることあらば次は添い遂げようと仰ったのだ、幸いおれは女の身体を得たし、今度は心置きなくあの方に添い、あの方の子を産むことができる。』
 あー長い。口疲れる、ちょっと水飲ませて。……うん、よし。ここまではまぁ、多少こいつ夢見ちゃってるよ可哀相に程度なんだけどさ、あぁでもあの二人ならそうなんだろうって思わせるものもあるんだけど、まぁそれはともかく。びっくりするのはこの後ね。
『できるんだが、女の身体は色々と準備がいるだろう。政宗様にお楽しみいただくにも、身体を慣らすところから始めるのではご面倒をかける。』
 だから、お前俺を抱けるか。抱けるなら協力しろ、政宗様のために交ぐ合いに慣れておきたいんだ。幸いお前は事情も知っているし、面倒なことにもならずに済むだろう?

 ……いやー、あのときはさぁ、マジで目の前の美人さんが宇宙人に見えたよね。だってすんごい真面目な顔で言ってんだよ、理解できないでしょ?ほんとあの人、独眼竜のことになるとおかしいんだから。
 まぁ、それでほいほい乗っかっちゃった俺様も俺様だけどさ。

 うん、そう。実際すごい後悔してるよ。だってね、何年も関係を続けてきて、前世を分かり合える相手でもあるし、俺様にとっては得がたい人なわけじゃない。俺様はもう忍びじゃない、フツーの高校生だもん、情が湧くのも自然でしょ。
 でもね、片倉さんにとっては、俺様ってばどこまで行っても「武田の忍び」なわけ。  わかるかなぁ、コトが済んだら、余韻も何もなくさっさと身支度する背中を見てるときの気持ち。あは、何か俺様の方が乙女なこと言っちゃってるね。
 んー?……うん、うん。そうだよ、とうとう来たんだよ。
 昨日ね、とうとう会えたんだって。すっごく嬉しそうだった。
 ずっと覚悟してたつもりだったのに、やっぱりその日が来るとショックはショックだよね。俺様もう用無しかー、本命の王子様とどうぞお幸せに!なんて、管巻いちゃったりして。
 ていうかさ、知ってる?片倉さんは身内の欲目っていうか、可愛くて可愛くて仕方ないってかんじで惚れ込んでるけどさ、独眼竜ってマジ半端なく性格悪いんだよ!ヒトの戦に首突っ込んでくるしさー、自分のこと棚上げで他人に説教したり、なんか意味わかんない英語喋ってかっこつけててさ。大体自分で自分を竜とか呼んでクールとか言っちゃうんだよ。俺様信じらんない。
 ……だからね、後悔してるのはほんとなんだけど、ちょっとだけね、ほんとにちょっとだけ、ざまぁみろって気持ち。
 アンタの大事な右目ちゃんの貴重な初めては俺様が頂いた!バーイ怪盗サルトビ!なんちゃって。
 悔しがる、っていうか、絶対すっごい嫌〜な顔すると思うんだよね。片倉さん、俺様とのこともサラッと平気で言っちゃうんだろうし。そのときにさ。前世から俺様、独眼竜に嫌われてたし。まぁ俺様もあの人嫌いだったけど。

 あーほんと、面倒な奴らに振り回されて、俺様ってば可哀相!もう二度と顔見たくないよ、死ぬまで二人で勝手に幸せにしててほしい!
 俺様、今度はちゃーんと俺様のこと好きになってくれる可愛い彼女つくるよ。もうあんな不毛な関係こりごり。絶対引きずってなんかやんないんだから。ていうか片倉さんのことなんて、別に好きでもなかったけど!
 ……え、もうそんな時間?やだよー、まだ全然飲み足りない。酔ってないし、ヨユーヨユー。ねぇほんと、このまま帰ったら俺様もう立ち上がれなくなっちゃう、お願いだからもう一軒、酔っ払うまで付き合って。