その日、人生初の片想いを実らせかわゆくも強いロリっこ彼女とらぶらぶ生活、ちなみに一応断っておくけれどもあくまでもここでのらぶらぶとは清く正しく健全なるらぶらぶであり例えば毎日朝挨拶をして人波から守りつつそっと手を繋いだりとか休日には図書館で勉強したり公園でピクニックしたりだとかともかく爽やかな学生らしいお付き合いを意味するのだが、えぇっと何の話をしていたんだったか。
そう、そんな清く正しくも甘酸っぱい幸せ絶頂な日々を送っていたはずの伊達政宗少年は、この日、つまりこのうららかに晴れた青空広がる日曜日、デート前の待ち合わせで人気のオープンテラスが可愛らしいカフェの一席で、ずももーんと闇色のオーラに取り囲まれて項垂れていた。
シュガー・ベイビー・ラブ!
闇色オーラの発信源は、政宗と同じ丸テーブルを囲む三人の少女、のうち二人。
「政宗様、こっちの二人がお話していた、同級生の竹中と毛利です」
「「こんにちはー」」
政宗の最愛のsugarでmy loveなhoney baby、見た目はロリっこ中身は柔道3段・片倉小十郎子ちゃんが、にっこりとぽわぽわな微笑みを浮かべる。
続いて、銀髪に紫眼鏡のどう見てもSM女王様な顔色の真っ白い美人と、全身緑でコーディネイトした恐ろしく冷たい一重の目が印象的な折れそうに細身の美人が、にっこりと寒々しい微笑みを浮かべる。
「こっ…コンニチワー……?」
ちょっぴりヤンチャな学生さんとしてそこそこの修羅場はくぐってきたはずの政宗だったけれども、今さっき飲んだばかりのアイスティーをそのまま吐いてしまいそうだった。
何この状況。ていうか誰!ていうか何!?
うごめく闇のオーラに唯一曇りない輝きを放つオアシス・小十郎子を見れば、彼女はちょっと甘えた上目遣いで、ぷくと頬を膨らませて二人を指差す。
「小学部からの腐れ縁で。二人が、どうしても政宗様を見てみたいって言ってきかなくて……小十郎子はついてくるなって言ったんですけど。ごめんなさい」
あぁんかわいい!もう何でも許しちゃう!
とかなんとか心の中で身悶えた政宗に、二人の視線が一層冷たさを増した。どうやらデレデレに緩みきった心持が顔に出ていたらしい。
はぁ、とため息をついたのは、SM女王様こと竹中さん。
「…………片倉くん、正気かい?」
「我らと渡り合うほど優秀なそなたの相手には、甚だ足りんと思うが」
森のエルフ毛利さんに至っては、政宗をちら見しつつフンと鼻で笑った。
……これは、もしかして品定め?そして不合格??
品定めの結果はともかく、明らかに何かおかしいこの二人に馬鹿にされたという事実が驚愕で、ぽかんと口を開けたまま呆然としている政宗に、更に二人は確信を深めたらしい。
失礼なことを言うなと憤慨する小十郎子をスルーして、そもそもね、と女王様が言う。
「伊達くんだったかな?君は知らないかもしれないが、片倉くんは伝統ある我が校の中でも尊ぶべく優秀な人材なんだ。彼女の力は、より公のために行使されるべきなんだよ」
何やら陶酔の世界に旅立ちつつ語られたのは、お世辞にも成績優秀とは言いがたい(念のため言っておくが、元親ほどじゃない!絶対!!)政宗にとっては、確かにちょっと次元が違う、むしろそれ日本語?レベルの差を感じる、小十郎子がいかに優秀かという話。
なんちゃらの法則がどうちゃらでなんやらかんやらの特許がどうのこうの。
……はっきり言って、さっぱり意味がわからなかったが。
それなのに、と儚げな容貌から妙に押しの強いため息がまた漏れる。
「片倉くんときたら、君と交際するようになって、僕たち生徒会の勧誘は断るし、政治経済の話をしつつピクニック用のお弁当レシピを読むし、まったく気が抜けてしまっている。これは由々しき事態だよ。」
大層悲しげな女王様の横で、緑エルフは冷たく沈黙している。もう話す気も起きないとでも言いたげだ。
「彼女のような人材は、僕たちと一緒に秀吉のために……」
ガッチャン!
益々演説に力の入りかけた女王様を止めたのは、小さくも未知のパワーを秘めた小十郎子のこぶし、に砕かれた陶器のティーカップ。
テラスどころか通行人すら、時が止まったようにその小さな手を凝視しているが、
「竹中、毛利……てめぇらそれ以上言ってみろ。自慢の高い鼻がこいつと同じに砕けても…文句は言えねぇぜ」
そんな視線をものともせず、小十郎子はニヤリと極悪に笑ってみせた。
可愛い彼女の後ろに、バリバリ気合の入った本職のにーさんが見えた。ような気がした。
が、そのおかげでとりあえず渋々ながらもおかしな二人組は帰っていったので、政宗は考えることをやめた。結果オーライじゃないか。それでいいじゃないか!
ちなみに、去り際にも「まったくやってられないよ」「いつまで持つか、見物よ」としっかり嫌味を残していった悪役の鑑のような二人のことも忘れることにする。
「Hey……小十郎子。もうこんな危ない真似すんなよ?」
傷一つないもちもちの手のひらを撫でながら言った政宗に、
「……小十郎子は。こんな小十郎子でも女の子扱いしてくれる、政宗様のそんな優しいところが、すきなのです。」
恥ずかしそうに下を向いてはにかむ彼女が、初めて口にしてくれた「すき」の言葉。
こじゅうろうこの あいのことば!こうかは ばつぐんだ!
その威力のほどは、粉々になったティーカップを弁償するためレジに向かった政宗の、いっそ清々しく鼻の下の伸びきった全開笑顔で、推して知るべし。
色々な意味で怖すぎるカップルとして、今後この店には入店拒否されることになるのだが、浮かれきった政宗には痛くも痒くもない話だった。
それよりもこの後、先の二人など比べるべくもないほどの難関が待ち受けているのだが……。
え、聞きたい??